ダイゴさんは魔法使いみたいという話
今日は仕事が多くて疲れたな。夕飯はダイゴさんの優しい味のポトフが食べたいなあ。
「今日の夕飯はポトフを作ってみたんだ」
お風呂で汗を流したら体が火照ってしまった。さっぱりした冷たい飲み物がほしいなあ。
「はい、アイスティー。砂糖は少なめにしておいたよ」
「ダイゴさん、魔法使いですか?」
お風呂上がりにダイゴさんが用意してくれた甘さ控えめのアイスティーを飲みながら、私は隣に座るダイゴさんを見つめた。
今日は金曜日。仕事を終えた私は、週末をダイゴさんの家で過ごすため、トクサネにあるダイゴさんの家へとやってきた。「夕飯はポトフがいいな」「お風呂上がりにさっぱりしたものが飲みたいな」私は考えを一言も口に出していないのに、ダイゴさんは的確に私の望みを叶えてくれた。まるで魔法使いのように。
「魔法使い?」
「だって、私ポトフが食べたいともさっぱりしたものが飲みたいとも言ってないのに……」
ポトフまでは「通じ合っているようでうれしい」と思っていたけれど、アイスティー、しかも砂糖少なめのさっぱりしたものを用意されていたのはさすがに驚いた。ここまで的確に当てられると、うれしいを通り越してちょっと怖いぐらいだ。
「どちらもが好きなものだからね」
「それはそうですけど……」
確かにダイゴさんのポトフが好きだと言ったことはある。けれど、ほかにもカレーやシチューも好きだと言っているしーーダイゴさんはキャンプで調理しやすい煮込み料理が得意なのだーー、今日食べたいと思ったポトフをピンポイントで用意してくるなんて。アイスティーに至っては、よく飲みはするけれどダイゴさんに好きだと教えた覚えはない。
ダイゴさんがもしポケモンだったら鋼タイプだと思っていたけれど、実はエスパータイプ? 相棒のメタグロスも鋼とエスパーの複合だし、もしかしたら本当にエスパータイプなのだろうか。
「のことが好きだからね、のことならなんでもわかるよ」
ダイゴさんはさわやかな笑顔を浮かべながら、自身のアイスティーに口をつける。
その言葉はうれしいけれど、少し悔しい。複雑な思いを抱きながら、私はダイゴさんをじっと見つめた。
「私だってダイゴさんのことが好きなのに……」
張り合うわけではないけれど、私だってダイゴさんの思いに負けないぐらい、ダイゴさんのことが好き。でも、私はダイゴさんみたいに的確に希望を叶えられはしない。やっぱりダイゴさんは魔法使いなんじゃないかと思う。
「にだってわかるよ」
ダイゴさんはふっと笑うと、私を見つめてくる。
「ボクがになにをしてほしいか、わかるだろう?」
ダイゴさんの手が、私の頬に優しく触れる。
ダイゴさんが私になにを求めているか。なにをしてほしいか。そんなこと、私に本当にわかるのだろうか。自信を持てないまま、私はダイゴさんに視線を向ける。
私を見つめる、ダイゴさんの瞳。いつも私を包み込んでくれる、甘くて優しい空のような青い瞳。そこになにが宿っているのか。
ダイゴさんは私から目をそらさない。ずっと、まっすぐに見つめ続けている。
その温かな瞳の中に、なにかが光る。淡い光ではない、強い想いの見える、鋭い輝き。そこにあるのは、きっと小さな欲。
ああ、もしかして。
私はダイゴさんの唇に、自分の唇を重ねた。
キスのあと、ダイゴさんはその唇に弧を描く。
「も魔法使いだ」