ダイゴさんに甘える話

「よしよし、いい子だね」
 ダイゴさんが甘い声をかけるのは、私のエネコ。エネコは嬉しそうに、ソファに座るダイゴさんの膝の上で甘えた様子を見せている。
 エネコはダイゴさんが大好きだ。今日もダイゴさんが私の家の扉を開けた瞬間、嬉しそうにダイゴさんに飛びついたのだ。
「ダイゴさん、いつもすみません」
「大丈夫、エネコは可愛いからね。懐いてくれてボクも嬉しいよ。ただ……」
 ダイゴさんはエネコをじっと見つめて、眉を下げた。
「エネコ。病み上がりなんだから、あまりはしゃがないようにね」
 そう、エネコは三日前から体調を崩していたのだ。ポケモンセンターでの診断はただの風邪。薬が効いて今朝にはすっかり回復し、元気な様子を見せているけれど、病み上がりには違いない。
 さて、風邪薬は今日の夕食後で最後だ。ポケモンセンターでもらった錠剤をエネコの前に出すと、エネコは渋い顔をした。
「エネコ、薬だよ」
「エネ……」
 エネコの口元に薬を持って行くけれど、エネコはきゅっと口を結んでしまう。どうやらこの薬は苦いらしく、甘いポロックが好きなエネコにはつらいようだ。しかし、きちっと飲みきらないと風邪がぶり返してしまうかもしれない。そうしたら一番苦しいのはエネコ自身だ。
「これが最後だから」
「ネ……」
 エネコは薬に顔を近づけるものの、口は開けない。あと少しで飲んでくれそうなのだけれど……。
「エネコ、がんばって」
 ダイゴさんが、そっとエネコの背中を撫でる。エネコはダイゴさんと私の顔を交互に見つめて、私の手のひらの薬をぱくっと食べた。
「エネコ、がんばったね」
「ネ~!」
「わっ、よしよし」
 エネコは私の胸に飛び込むと、ぎゅっと体を丸めた。相当勇気を振り絞ったのだろう。えらかったね、エネコ。
「ネ……」
 ひとしきりエネコを撫でると、エネコは疲れたのか瞼をとろんとさせている。いくら元気になったとはいえ、エネコは病み上がりなのだ。あまり無理をさせてもいけない。私は「今日はもう休もうね」と言ってエネコをボールに戻した。
「ちょっと疲れちゃったみたいだね」
「はい。元気になったから嬉しくて、少しはしゃぎすぎちゃったみたいです」
「お疲れさま」
 ダイゴさんは私の手の中のモンスターボールを撫でる。私の大事なエネコを、ダイゴさんも大切に思ってくれているのだ。エネコを労るダイゴさんを見て、私の心に温かいものが広がっていく。
「さて、次はの番だね」
「えっ?」
 ダイゴさんは顔を上げると、にこっと私に笑顔を向ける。一方の私は「私の番」という言葉の意味がわからず、首を傾げてしまう。
「おいで」
「え、わっ!」
 突然ダイゴさんに抱き寄せられたかと思ったら、そのままこてんと寝転がさせられた。ダイゴさんの膝に頭を乗せる体勢、つまり膝枕の格好だ。
「え、ええ? ダイゴさん?」
「こら、動かないで」
 起き上がろうとするけれど、ダイゴさんがそっと肩を抑えてくるから動けない。戸惑いながら、私はじっとダイゴさんを見つめた。
「あの、なんで……」
「エネコの看病で疲れただろう? 顔を見ればわかるよ」
「あ……」
 ダイゴさんはと優しげな瞳で私を見つめた。
 確かに三日前から私はずっとエネコの看病をしていて、少し疲れが溜まっている自覚はあった。まさか、ダイゴさんに見抜かれてしまうなんて。
 ……ううん、ダイゴさんはそういう人だった。私が疲れたとき、大変なとき、苦しいとき、いつだって気づいて手を差し伸べてくれる人。
「きみはすぐに無茶をするんだから。エネコの風邪だって今日までボクに言わないで。どうせ寝ずの看病をしていたんだろう?」
「そ、それは……一日だけですよ?」
「でもしたんだね?」
「……はい」
が倒れたらエネコもボクも悲しむよ」
「……わかってます」
 ダイゴさんは私の肩をぽんぽんと優しく撫でる。甘い感触に、心と体が癒されていく。
 ダイゴさんはどうしてこんなに私のことをお見通しなんだろう。恋人だからか、ダイゴさんだからなのか。きっと、両方なのだろう。
「今はゆっくり休んで。ああ、でもボクの膝じゃ固くて居心地が悪いかな」
「いえ……ここがいいです」
 固い膝の上だけれど、今はここが一番心地いい。ダイゴさんの体温が伝わってくる場所。優しい温もりに触れられる場所だ。
「お疲れさま」
 ダイゴさんの大きな手が、私の髪を撫でる。
 私はそのまま、目を閉じた。ダイゴさんの優しい愛情に包まれながら。