「もしもし」 『オレだよ』 「オレオレ詐欺?」 『名前出てるだろ?』 名前が出なくたってわかる。 一番好きな人の声。 なんで12月24日に、一番好きな人の声を電話越しに聞かなくちゃいけないんだ。 「文句ってどこに言えばいいの?高体連のお偉いさん?」 『さあ』 「さあって…。はあーあ」 『寂しそうな声だ』 「この状況で寂しがらない女子はいないと思うよ」 『オレも寂しいな』 ウィンターカップとクリスマスの日程モロ被りって、本当嫌味としか思えない。 当日できないから、前と後どっちにやるかクリスマスやるかって話になって、 前だと練習練習でゆっくりできないし、だったら新年ムードの中でも後にやろうという話になった。 『ごめんね』 「辰也が謝ることじゃないでしょ」 『でも、寂しそうな声出されると言いたくなる』 あ、やばい。涙が出そう。 今優しくされたら泣いちゃうじゃないか。 「…試合、明日からでしょ」 『うん。シードだからね』 「ちゃんと勝ってよ。応援行くんだから」 『頑張るよ』 「このために交通費バイトして稼いだんだから。負けたら許さない」 『了解』 辰也はちょっと笑いながらそう言った。 別にバイト代のために頑張らなくてもいいけど。 でも、負けたら許さないのは本当だ。負けるところなんて、見たくない。 『帰ったらいっぱいわがまま聞いてあげるよ』 「…わがまま?」 『うん』 「なんでも?」 『もちろん。考えておいてね』 わがまま、わがまま…。 「…」 『何か思いついたの?』 「ついたけど、多分わがままにならない」 『?』 「多分、辰也も同じこと考えてる」 思い付くのは、そんなことばっかり。 『そっか』 「うん」 『じゃあ、帰るまで考えておいて』 「…本当は、あるんだけどね。わがまま」 『なに?』 「今、隣にいてほしい」 辰也は黙ってしまった。 バカなこと言ってるのはわかってる。無理だってわかってる。 でも、一番ほしいものなんだ。 『…ごめんね』 「帰ってきたら、いっぱいキスして」 『うん』 「あと、抱きしめてね。痛いくらい」 『うん』 「好きって、いっぱい言って」 『うん』 優しい言葉。 早く、電話越しじゃなくて直に声が聞きたい。 あ、そうだ。 「ねえ、一個、わがまま思い付いたよ」 『うん』 「辰也の声がたくさん聞きたいから、いっぱい喋って」 聞きたい。一番好きな人の声を、たくさん、直に聞きたい。 「…そろそろ、消灯でしょ?」 『…うん』 「…おやすみ」 『おやすみ、』 名残惜しく思いながら、耳から携帯を離す。 『メリークリスマス』 最後に聞こえた言葉に、こらえきれなくなった涙がこぼれた。 電話越しの「」 12.12.24 黒バスキャラは未来設定でもない限りクリスマス当日の甘い話が書けませんね どうしてあんな日程なんだ… 切ない終わりになっちゃったのでその後の話→メリークリスマス |