午後の数学の授業中。
お腹いっぱい、丁度いい気温、つまりはとても眠い。

一番後ろだし、眠ってもバレないかなあ、なんて思っていると右隣の氷室が私の机に何かを置いた。

「?」

机に置いてあるのは可愛く折られた手紙。
あ、氷室の右隣は私の友人だ。
そこから回ってきた手紙だろう。

手紙を開くと、今日昼休みにちょっとだけ好きな人と進展があったこと、
詳しくは放課後話すから今度出来たアイスクリーム屋行こうよってことが書いてあった。
私は返事に進展おめでとうと書いてアイスクリーム屋もちろんOKと書いた。
その後続けて「私のほうは進展がぜんぜんない」と書こうとしたけど、少し迷った。
だってその私のほうの好きな人は、この手紙を友人に渡すよう頼む氷室なのだ。
そう思うとちょっと書きにくい。
でも氷室も手紙を見たりはしないだろう。
大丈夫だよね、と思いつつさっきの文章を加えて手紙を折った。

氷室に手紙を渡すと、氷室はおそらく(了解)と口パクした。
私は(ありがと)と同じように口パクすると、氷室はふっと笑った。




「女の子って手紙好きだね」

数学の授業が終わって、休み時間。
氷室が話しかけてきた。

「ああ、さっきの。ありがとね」
「どういたしまして。でも、別に授業終わってから話すんじゃダメなの?」
「んー、まあ、手紙って楽しいじゃない」
「そういうものなのか」

氷室は理解はしたけど納得はしていない表情だ。
まあ、確かに男子は手紙とか好きじゃなさそうだもんなあ。

「手紙ってどんなこと書いてるの?」
「うーん、そのときによるけど、今日は帰りにアイスクリーム屋行こうって話。まあいわゆる所謂女子トークってやつ?」
「女子トーク…」
「そう、女子トーク」
「好きな人の話とか?」
「えっ!?」

驚いて思わず大声をだしてしまった。
いやまあ、女子トークといえば確かにそうだけど、好きな相手に言われるとびっくりしてしまう。

「まあ、うん、そんな感じかな」
の好きな人のことも書いてある?」
「え、っと」

私は書いてないよ!と言おうとしたけど、そうしたら自然に手紙で好きな人の話をしてるのは友人のみ、
つまり友人に好きな人がいるってことがわかってしまう。
友人の好きな人と氷室は無関係だけど、だからって当の本人がいないのにバラすわけには行かない。

「えー、どうかな?」

必死に誤魔化そうとしたけどこれで誤魔化せているわけがない。

、好きな人いるんだ」
「いやあ、どうでしょう」

あなたですよ、あなた。
そう思いつつ内心とても焦っている。
まさかちょっと手紙の話しただけでこんな事態になろうとは…。

「誰?」
「え」
「気になるんだよね」
「いや、ちょっと教えるわけには」
「誰にも言わないよ」
「ていうかここ教室だし、みんないるし」
「騒がしいし、誰も聞いてないよ」
「いやいや、聞こえるよ普通に!」
「じゃあさっきみたいに手紙にでもしてさ」
「いやいやいや、無理です!ほんとに!」

男子に好きな人なんて言えるわけがない。
ましてや本人に言えるはずもない。
私は必死に無理!と訴えた。

「じゃあ、オレも教えたら教えてくれる?」
「え、氷室好きな人いるの?」
「うん」

うわ、そうなんだ。
慌ててた気持ちも落ち着いてしまった。
落ち着いたとはちょっと違うかもしれないけど。

「はい」
「?」
「オレの好きな人」

そう言って氷室は四角く折られただけのルーズリーフを差し出した。
読みたいような、読みたくないような。
とはいえここで読まないわけにもいかない。
少しだけ震えながら中身を読んだ。

「!」

そこに書いてある名前に驚いて思わず立ち上がる。
今まで何度となく見た名前、いつも自分で書いている名前。

そこに書いてあったのは『 』という名前。

「教えてくれる?の好きな人」

赤くなる顔を片手で隠しながら、氷室の字の下に名前を書いた。

友達には進展ないって書いてしまったけど、アイスクリーム屋で報告しなきゃいけないことが増えてしまった。
























ガールズ・トーク
2012.5.26

手紙の折り方、最初は凝ってたんですけど、だんだん面倒になって四角く折るだけになったなあーなんて思い出。


シークレットトーク(続きというか後日談ぽい感じ)