高校二年生の春。
クラス替えが行われて、クラスの中には知ってるやつがいたりいなかったり。
クラスメイトがどういうやつであろうとどうでもいい。
特別関わり合うつもりなど毛頭ないからだ。


「ふう…」

昼休み、昼飯を食べ終え屋上にやってきた。
屋上は一年の頃から気に入っている場所だ。
人がほとんど来ないため、静かにラノベを読むにはうってつけなのだ。

いつもの場所に腰を下ろして、読みかけの本を開いた。
それと同時に、屋上のドアが開く音がする。
屋上に人が来るのは珍しい。誰かと思って入り口のほうに目線を向けた。

「…よし、誰もいない」

そこにいるのは同じクラスの女子生徒だ。名前はまだ憶えていない。
どうやらオレの存在に気付いていないらしい。
気付かれないのは毎度のことだが、誰もいないと思われ好き勝手されては困る。
自分の存在を主張しておくことにした。

「ここにいるけど」
「わっ!?」

女子生徒はきょろきょろと辺りを見渡している。
ようやくオレの存在を視認したのか、あからさまに驚いた顔をした。

「あ、えーと…。同じクラスの…」
「……」
「ごめん、名前なんだっけ…まだ覚えてなくて」

名前を言おうとするので黙っていたが、やはり名前は覚えてないようだ。
それは特段気にしない。オレもこいつの名前を覚えていないし、覚えられていることのほうが少ない。
むしろ顔を覚えていたことに驚いた。

「黛」
「そうだ、黛くん」

女子生徒はぽんと手を叩いて納得した顔を見せる。
その脇にちらりと見えるのはは文庫本だろうか。
その本を読みに来たのだろう。

「ここで本読んでっていい?」
「別にここオレの土地じゃねえし」
「それもそうだね」

本音を言えば邪魔だが、ここはオレ専用の場所でもなんでもない。
ベラベラしゃべりに来たのなら嫌な表情を前面に出したと思うが、本を読みに来ただけならオレの読書の邪魔にはならないだろう。

「んじゃ、失礼します」

女子生徒はオレから少し離れた場所に座る。
彼女が開いた本の表紙に、目を奪われた。

「?」

女子生徒もオレの視線に気付いたのか、オレのほうを見やる。
そこでこいつもオレの視線の意味に気付いたようだ。

「あれ、同じ本?」
「…だな」

女子生徒の持っている本は偶然にもオレと同じ本だ。
この学校でラノベを読んでいるやつを初めて見た。

「ラノベ好きなの?」
「まあ、結構読むよ。ラノベも読むし、ほかのも読むし…」

女子生徒は本を指先で弄りながらそう話す。

「この学校でラノベ読んでる人初めて見たよ。結構バカにされるんだよね」
「…まあ、確かに」

女子生徒はため息を吐きながらそう言った。
頭のいい学校のせいか知らないが、読んでいる本がライトノベルだと知られると嘲笑の的になることが少なくない。
他人からどう思われようと関係ないが、自分の趣味を笑われれば気分は悪い。

「仲間いてちょっと安心しちゃった」

…別にオレは安心してはいないが。
まあ、同じものを好きな人間に対して悪印象を持つわけもない。そこまで捻くれちゃいない。
女子生徒の顔に視線を向けた。

「…名前は?」
「?私?

そう言えば最初のクラスの自己紹介でそう言っていたような気がする。

これがオレとの最初の出会いだった。









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15.03.01