7月に入り、学校は夏休みに入った。
とはいえ、バスケ部の練習はほぼ毎日のようにある。
受験勉強も平行して行わなければいけないので、夏休みといえど休む暇はほとんどない。
はっきり言って、死にそうである。

「はあ…」

今日の部活は午前中だけだった。
本当はすぐに帰って受験勉強をするべきなのだろう。
しかし、そう簡単に切り替えられない。

そうだ、屋上にでも行こうか。
そんな考えが頭をよぎった。
通学の電車に乗っているときの暇つぶし用にラノベはいつも持ち歩いている。
今日の気温は7月にしては随分と涼しく、外で本を読んでも問題ない。
家にいるとどうしても机の上にある参考書にプレッシャーを掛けられるし、ファミレスや喫茶店で暇つぶしは金がかかる。
夏休みだから屋上が開いているかわかならいが、行くだけ行ってみよう。
そう思い、オレは屋上へと足を伸ばした。

屋上の古めかしいドアノブに手を掛ける。
ドアノブは軋みながらもきちんと回る。
夏休みなのにきっちり解放されているらしい。
それともただの鍵の掛け忘れか。どちらかわからないがラッキーだ。

「ん」

屋上のドアを開けると、フェンスの傍で座る人影が見えた。
その人影は見覚えのあるものだ。

「あれ、黛くん」

そいつもオレに気付いたのだろう。こちらを振り向く。
やはり、人影はだった。

「よう」
「どうしたの、夏休みなのに」
「部活。終わったから本でも読もうかと。お前こそなんでいるんだ」

は帰宅部だったはず。
夏休みに学校に来る用事などないだろう。

「部活見学」

笑いながらはそう言った。
3年の今の時期に新しく部活に入ろうと見学する奴はいないだろう。
の「部活見学」は「剣道部の山本君見学」という意味だ。

「精が出ることで」
「えへへ。夏休みって会う機会ないからねえ」

の言うとおり、と剣道部の山本というやつは親しい友人というわけじゃない。
通常授業の日であれば何かにつけて関わりは持てるだろうが、長期休暇に会うほどの仲ではない。
そんな日々に少しでも関わりを持ちたいと思うとは、ずいぶんとは殊勝である。

「夏休み、早く終わらないかなあ」
「それは同意」
「へえ、意外。学校面倒って言ってなかった?」
「休みの日の方が部活厳しいんだよ。死ぬ」
「あーなるほど。しかもこの気温だもんねえ。今日はちょっと涼しいけど」

はくすくすと笑ってそう言った。
そして、夏休み前と同じように鞄から本を出してそれを読み始める。
オレも同じように持ってきていた本を開いた。

夏休みが早く終わればいい。
練習が厳しいこともあるが、それ以上にに会えない日々というのが思った以上にきつかった。
自分でもこんな感情になるなんて思いしもしなかった。
誰かを好きになったところで、小説の中のような激情を自分が覚えるなんて想像していなかった。
そう思っていたのに、今はどうだ。
さっきの姿を視界にとらえたとき、自分でも驚くほどに胸を弾ませてしまった。
自分で自分の感情をコントロールできない。
人を好きになることは、厄介なことだ。
叶うはずのない思いを、オレは捨てられない。












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15.09.29