先日からは屋上に来る機会が増えた。
前までは水曜と金曜だけだったのが、水木金と連続で来ている。

そしてそのたびに、の剣道部の野郎への想いを聞かされるのだ

「男子ってさ、どんな子が好き?」
「あいつの好みなんて知らねえよ」

男子というが、が聞きたいのは「世間一般の男子の好み」ではなく「自分の好きな相手の好み」だろう。
オレは生憎の想い人と会話すらしたことがない。
なので当然野郎の好みのタイプなんてわかるはずもない。

「そ、それはわかってるよ…。だからせめて世間の男子の好みはどうかなって」

は少し頬を赤く染めてそう言ってくる。
世間の好みなんて、そんなものは一つだろう。

「巨乳」

即答してみせると、は視線を自身の胸にやった。
自分で答えたことだが、今になって後悔する。
の視線の先、そのシャツの下を想像してしまっていろいろやばい。

「……胸かあ……」
「貧乳が好きな物好きもいる」
「べ、別に…」

は顔を赤らめて抗議しようとしているが、さすがに皆まで言わない。
巨乳というわけじゃないがまな板なわけでもない。見ればわかる。

「え、えっと…じゃあ、あんまり好かれないなーって子はどういう子?」
「恋愛相談とか言ってほかの男と平気で二人きりでしゃべる女」

バッサリ言うと、はあからさまに「傷つきました」という顔をした。
そんな顔、こっちがしたいぐらいだ。

「…そうだよね」
「なんでオレなんだよ。女友達にでも聞いてろよ」

突き放すようにそう言うと、は頭を掻きながらへらっと笑った。

「んー、黛くん、そういうこともはっきり言ってくれるからさ。相談しやすくて。友達には山本くんの話してないし」

から出てきたのは意外な言葉だった。
てっきりほかのやつにもベラベラとしゃべっていると思っていたが、オレだけとは。
オレだけが知っているの感情。
それがこんな話でなけりゃ、多少は喜んでいたものを。

「……。じゃあ黛くんはどういう子が好き?」
「はあ?」
「参考までに!」

何を聞いてくるんだこいつは。
オレのを聞いたところで何も参考はならないだろう。

「サンプルは多いほうがいいかなあ、と」
「……」

は真っ直ぐオレを見つめてくる。
悔しいが、のその目にはどうにも弱かった。

「…静かなやつ」
「へえ」

は目を輝かせことも落ち込むこともなく、抑揚のない声で言った。
そんなにオレはお前にとってどうでもいい存在か。
なんでわざわざ聞いたんだ。

「あ、予鈴…」

そんな話をしているうちに、昼休み終了を知らせるチャイムが鳴った。
もオレも荷物を持って立ち上がる。

をいるとイライラしてたまらない。
余計なことを言って来てはオレの神経を逆なでする。

それでもオレは、この場所に来るのをやめられない。










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15.08.11