「遅くなっちゃったね」

オレの部屋を出て、の家まで送る途中。
そう言ってはオレの隣で空を見上げる。
繋いだ手はオレのよりずっと小さくて、暖かい。

「またおいで」
「うん」

あんなに緊張していたのに、今はもうすっかり緩んでいるようだ。
くすぐってみたけど正解だったな。
でも、もうしないけどね。やってみたはいいけど、あんなの、オレの方がもたない。

「ねえ、
「なに?」
「朝の岡村さんとの話の続き、聞いてもいい?」
「え」

はちょっと固まる。
いつもそうやって、予想通りの反応をしてくれる。

「オレのどこが好き?」
「え…」
「今なら誰もいないよ」
「えっと…ね」
「うん」
「や…」
「や?」
「優しい」

は赤くなりながらポツリと呟いた。

「優しい?」
「…うん。いつも、ルールとか教えてくれたでしょ。嫌な顔全然しないで」
「それは相手だからだよ」

優しくなんてないよ。
だから、下心があるから、優しくしたんだ。

「それでも、私に優しくしてくれたのは本当だよ」

は俺の手を握る手をぎゅっと強めた。

「あとは…一生懸命なとこ?」
「バスケ?」
「うん。あとね、…大人っぽく見えて子供っぽいとこ」
「そう?」
「いつも私のことからかってくるじゃない。ああいうとこ、ちょっと子供みたい」
「そうかなあ」
「そうだよ。あとね、…繊細なとこ」

は指折り数えていく。
いつの間にかオレの好きなところじゃなくて、オレの性格の話になっているような…。


「ん?」
「オレの好きなところの話だよね」
「え」
「なんだか、オレの性格の特徴挙げてるだけになってない?」

苦笑しながらそう言ったら、また赤くなって俯いた。

「…好きなとこだよ。だって、全部、好きだから」

多分、精一杯で言ってくれたんだろう。
思わずのことを強く抱きしめた。

「ひ、氷室」
「ありがとう。すごく嬉しい。オレもが大好きだよ」

一生懸命で、優しくて、まっすぐで、恥ずかしがり屋で。
誰よりも、どんな子より可愛い。

「…っ」

キスをすると、はまた顔を赤くする。
ゆでダコみたいだ。

「こ、こういうとこじゃダメだって!」
「誰もいないよ」
「さっきみたいに、誰か来るかも!」

さっきって、ああ、学校からの帰り道か。

「もうやらないって言ったのに!」
「ごめんね?」

そう言えばはいつも怒った顔を少し緩める。
わかっててやってると知られたら、はもっと怒るかな。

「…次やったら、もう許さない」
「許さないって、どうするの?」
「………」

何にも考えてなかったんだな。
は考え込んだ。

「…キスしちゃ、ダメ」
「それ、もいいの?」
「………」
「嫌だろ?」
「…っ」

ああ、本当に可愛い。
またキスしたくなってきた。

「…とにかくダメ!」
「どうしても?」
「うん」
「ええー…」
「氷室、その…、私のこと好きなんでしょ?」

随分珍しいことを言ってくるな。
そう思って耳を傾ける。

「その私が頼んでるのに、ダメなの?」

自分で言っておいて、は照れたのかまた赤くなる。
そんな顔でそんなこと言われたら、敵わない。

「…わかったよ」
「ほ、本当?」

頑張って言ってよかった…、なんては呟きながら息を吐いた。
やっぱり必死だったのか。

「…多分ね」
「え?」
「なんでもないよ」

がそう言うなら努力はするけど、努力したってどうにもならないこともあるんだよ。
が可愛いのがいけないんだから。

それに、これでも我慢してるんだ。
本当は、キスだけじゃなく今すぐ全部オレの物にしたいくらいなのを、必死に抑えてる。
キスだけであんなに真っ赤になるにそんなことしたら、それこそどうにかなってしまいそうだ。

「…氷室、どうしたの?」
「え?」
「なんか、ボーっとしてる」
「ああ、可愛いなあって思って」

そう言えばはまた赤くなる。
可愛くて可愛くて、仕方ない。

「そういうとこ、好きだよ」
「…っ」
「オレのの好きなところはね、可愛いところと、すぐ赤くなるところと、一生懸命なところと…」
「わー!ちょ、ちょっとストップ!」

は赤くなりながら手を伸ばしてオレの口を塞いだ。

「どうして?」
「う、嬉しいけど恥ずかしいっていうか…心の準備が」

は本当に恥ずかしがり屋だ。
すぐに赤くなって、まあ、そんなところが好きなんだけど。

「じゃあね、最後に一個だけ」
「?」

そう言っての耳元に唇を寄せる。

「オレもね、の全部が好きだよ」

そう言ったらは俯いてしまった。

、顔上げて」
「や、やだ。今、顔真っ赤だから」
「その顔が見たいんだ」

の顔を無理矢理上げさせて、自分のおでことのそれをくっつけた。

「…っ」
、ねえ、今すごくキスしたい」
「…、だ、ダメだよ」
「わかってるよ。でもしたいんだ。すごくしたい。は、したくない?」
「…っ」

はもうこれ以上ないぐらい赤くなって、視線を泳がせる。
だって、したいんだろう?
そう言って、指での唇をなぞる。

「し、したいけど、でも」
「じゃあね、一回だけ」
「…一回だけ?」
「うん」
「本当?」
「うん」
「……」

そう言うとは目を閉じた。
近かった顔を、もっと近付ける。

「…んっ…」

一回キスをして、唇をギリギリ離れないくらいに離して、また強く押し付けたり、軽く吸い上げたり、触れたまま角度を変えたり。
は目を閉じていたものの、今はもう目を丸くしてオレの肩を必死に押している。
でも、無駄だよ。
が本気で嫌がってるならやめるけど、そんなことないだろう?

「…っはあ…」

まあ、いい加減苦しくなってきたみたいだ。
唇を離すと、は眉を吊り上げた。

「一回って言ったのに!」
「今のは一回だろ?」
「そういうの屁理屈って言うの!」
「そうなの?」
「…もう、氷室のバカ!」

そう言うとは早足で先に行ってしまう。

、待って」
「…もう、絶対外でしたら許さない」
「でも、さっきはがしたいって言ったんだよ」
「…っ。…もう二度と言わない」
「そう?残念だなあ」

の手を取ると、はちょっとムッとしてた顔を緩める。

「…ねえ、外はダメってことは、部屋の中ならいいの?」
「え?」
「じゃあ、次部屋来るときいっぱいキスしよう」
「えっ!?」
「うん、そうしよう」

は慌てて「そうじゃない!」と声を上げる。

「だって、『外はダメ』って『中ならいくらでもいい』って意味だろ?」
「違う!なんか違う!」
「じゃあ、また明日おいで」
「え、ええ!?」
「いっぱいキスしよう。それで、たくさんくっつきたい」

そう言ってみるとはまた真っ赤になる。
だって、好きな人にキスしたい、触りたいって思うのは当然だろう?

ねえ、が好きで好きで仕方ないよ。
が好きで、どうにかなりそうだ。
毎日、今以上好きになれないって思うのに、次の日には昨日より好きになっていて。
好きすぎて、いつか壊れてしまいそうだ。

が、好きだよ。好きで、好きで、おかしくなりそうなくらい。










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13.02.08



あとがき
これにて「ラフライフ」は完結です
書いている間、いろんな方からコメントをいただいて、本当に本当にうれしかったです!
拍手やコメントがどれだけ励みになったかわかりません
ありがとうと何度言っても足りません
この連載の氷室は本当に私の理想の氷室です
一見大人っぽくて完璧な人だけど、ちょっと意地悪だったり、子供ぽっかたり、弱いところがあって自信がなくて、一途で一直線で嫉妬深くて…
そんな氷室と、ヒロインの恋模様を少しでも気に入ってくれたら幸いです
ここまでお付き合いくださりありがとうございました
付き合ってからの連載もまた書きたいと思っていますので、そちらも楽しんでいただけたらうれしいです

本当にありがとうございました!




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