「やあ、さん」

放課後、図書室の受付で本を読んでいると花宮がやってくる。
あのうさんくさい笑顔で。

「…誰もいないし、猫被らなくていいんじゃない?」
「はっ」

花宮はいつもみたいに、バカにしたように笑うと受付の前に座った。

「暇そうだな」
「誰も来ないからね」

花宮は目の前で本を読み始める。
多分、図書室に入ってる本ではない。
私も霧崎第一に入ったぐらいだし、頭には自信があるけど、読めなさそうな本だ。
こいつの頭の良さが憎たらしいな、と思う。


「……」
「……」

私も花宮も無言で本を読み続ける。
花宮はこうして図書室にやってきては、私の前で本を読む。
何を話すでもなく。



「…」
「あ、また一緒〜?」

本に集中していると、一際明るい声が飛び込んでくる。
隣のクラスの女子生徒だ。

「仲いいね〜」
「やだなあ、照れるじゃないか」

花宮はいつもの「猫かぶり」の笑顔で答える。

花宮と私はしょっちゅうこうして本を読んでいるものだから、よく図書室を利用している生徒からは「仲いいね」なんて言われたりする。

仲は、いいんだろうか。
確かによくここで二人で本を読んでいるけれど、別に仲良くお喋りしているわけではない。
ただ無言で、本を読むだけ。

「じゃ、これ貸出いい?」
「はい、生徒手帳お願いします」
「はーい」

さっきの女子生徒が2冊の本を持ってくる。
ハンコを押して、貸出OK。

「じゃあ、お邪魔様〜」

軽く手を振って図書室から出ていく。
…別に、お邪魔ではないけど。


そして、私と花宮はまた無言のまま本を読み進めていく。
不思議な関係だなと思う。
何も話さない。読んでる本が一緒なわけでもない。

ただ、この空間は嫌いではない。