今日もまた、花宮は図書室に来た。
何もしゃべらず、黙々を本を読み続ける。


「……」

私は、本を読み進められないでいた。
いつもと同じではいられない。
視線だけ本に落として、読んでいるふりをしている。


原因は今日の昼休みのことだ。
今日は図書委員の集まりがあった。


「…じゃー今後の当番スケジュールはこんな感じな」

黒板に書かれた表を見て、一人下を向いた。
当番のスケジュールが変わった。それだけ。
3年生は受験に向けて委員会活動も終了。
それに合わせて私たちの当番スケジュールが変わった。

私の当番はガラッと変わって、今までと曜日は全く違う。
全部バスケ部の練習と被っている。


スケジュールが変わるのは明日から。
随分急な話だ。


私は前から、この空間が嫌いじゃないと思っていたけど。
こんなにも、大切に思っていたのか。

この時間がなくなるのは、嫌だな。



…あと5分。
5分で閉室の時間だ。

「…花宮、話があるんだけど」
「?」

事務的な会話以外、ほとんどしない私たち。
突然話しかけられて、花宮は少し驚いているようだ。

「…私、当番の日変わるんだよね」

本に目線を落としたままそう言う。
目を見て言う自信が、なかったから。

「は?」
「今日委員会あって。明日から違う曜日になるから」

別に言う必要はないかもしれない。
ここで本を読むのもただ本が好きなだけかもしれないし、
私の家まで送っているのも、単に私の家の方に行きつけのお店があるとか、用があるとか。
そういうことかもしれないけど、やっぱり、言っておくべきかな、と。

「はあ?」

花宮は読んでいた本を机に叩きつける。

「…言った通りなんだけど」

少し脅えつつもそう告げると、花宮は立ち上がって私の隣までやってくる。


…本当は、わかっていた。
この時間が好きな理由。

私は、最初から、この人が好きなのだと。

理由なんてない。理屈じゃない。
最初に会ったときに、何か、どうしようもなく惹かれてしまったのだ。

それはきっと、花宮も同じ。

ただ、私も花宮も、そんなことを口にする人間ではない。
だから、ここまでずるずる来て。

だけど今日で終わり。
このままさよならか、それとも。



「…っ」

花宮の顔が近付いて、思わず目を瞑る。

キスを、された。


「…は、花宮」
「ばぁか」

花宮は私の頭を小突く。
…な、なに。

「…何か、言うことないの」
「ねえよ」

キスするなら、何か言うことはないのかと。
そう思って聞いたけど、即答される。

「お前は、あるのかよ」

…そうか。
そうだ、ない。

「…ない」
「だろ」

何も言わなくてもわかってる。
お互いが何を思っているか。
…これから、どうしたいかも、全部。


私はもう一度、目を瞑った。












魔法

13.11.27


30万hitキリリクの花宮でした〜
オタマロさんありがとうございました!

自分で書いてて、今まであまり書いたことのない話になって面白かったです
リクエスト系は自分で普段書かない話になって楽しいです






感想もらえるとやる気出ます!