手を繋いで、一緒に帰って、ときどき寄り道したり、遠回りしたり。
なんでもないことをメールしたり、用もないのに電話したり。

そんな毎日に少し慣れた今日この頃。




ちーん、お菓子ちょうだい」
「チョコしかないけどいい?」
「うん。わーい」

昼休み、学食で昼食を食べつつミーティング。
今日の議題も語り終わって談笑中。
こういうとき、大抵敦はお菓子を欲しがるから、こうやって持ってくるのが習慣になってしまった。

「あ、オレもほしい」
「ワシも」
「どうぞー」

口々にそう言うので、机の真ん中にお菓子を広げる。
みんな、あんなに食べたのにまだ入るのか。
それなのに全然太らなくてうらやましい…
そんなことを思っていると、福井先輩がお菓子をつまみながら口を開いた。

「もうすぐ文化祭だなー」

そう、9月下旬には文化祭がある。

「お前ら何やんの?」
「うちはね〜お祭りー」
「お祭り?」
「うん。ヨーヨー釣りとか射的とかいろいろやるよ〜」

それはそれは敦が好きそうな…。
語る敦の目も心なしか嬉しそうだ。

「うちはお化け屋敷アル」
「…お化け屋敷」
「ワシは焼きそば屋やるぞ。みんな食いに来い!」
「オレんとこはやる気ねーのか休憩所やるっつってたな。氷室とは?」
「うちは喫茶店ですよ」

そう、うちは非常に無難な喫茶店。
私は中で簡単な料理や飲み物を作る係だけど、氷室は女子の満場一致意見によりウェイター。
…うん、私だって見たい。

「まー、オレたち準備期間全然出れねーから、当日大変だぞ」
「そうなんですか?」
「他のとこ行く暇はそんなたくさんあるわけじゃねーな」

確かに、去年バスケ部の人たちは当日忙しそうだった。
そうか、今年は私がそっち側なのか…。

「ま、どこも行けないってわけじゃないからの。当日は楽しめよ」

岡村先輩の声と同時に昼休み終了のチャイムが鳴る。
もうすぐ文化祭かあ…。


「楽しみだね、文化祭。は去年何やったの?」

教室へ戻る途中、氷室がそう聞いてきた。

「輪投げだよ。今年と違って準備も当日もやることほとんどなかったなあ」
「そうなんだ。今年は忙しそうだね」

喫茶店は当日それなりの忙しさになるだろう。準備に顔を出せないとなればなおさら。

「でも、忙しい方が楽しいよ。暇だと『せっかく文化祭なのに何してんだろー』って気になるし」

それに、今年はもう一つ楽しみが。
別に制服と大差ある格好じゃないけど、氷室のウェイター姿が、とても見たい。
…当日、写真撮ってもいいかなあ…。





そんなこんなで、文化祭前日。
もう体育館が使えないから、今日は私たちも準備活動。

ー、そっちどう?」
「こっちはもう大丈夫だよー」

ホール担当の友人が家庭科室にやってくる。
料理の準備も終わったし、あとは当日を待つだけ。

「じゃあ、ちょっとこっち来なよ」
「?」
「明日は忙しいだろうから、ゆっくり見る暇ないと思うし」

友人に手を引かれ教室へ。
なんだろう。

「ほら!」
「あ……」

教室では当日のホール担当が打ち合わせをしているようだ。
そこには当然氷室もいるわけで。

、見たいって言ってたでしょ」
「………」

打ち合わせの段階だけど、ホール係のみんなは当日の服に着替えている。
こうやってちょっと遠目で見ると、やっぱり氷室ってかっこいいんだなあ、と。
普段はあまりそういうふうに意識しないけど…うん。かっこいい。
この人が自分の恋人だとは、なんだか信じられない。



氷室はこちらに気付いたようで、私の名前を呼んで駆け寄ってくる。

「そっちはもう終わったの?」
「あ、うん。そっちはまだ?」
「いや、もう終わりだよ。今はだらだら話してただけで」
「そっか」

ごそ、とポケットに入った携帯を弄る。
…「撮ってもいい?」って、聞いてもいいのかな…。

?」
「え、っと」

い、いいよね。だってほら、恋人同士なんだし!

「あの、ね。しゃ、写メを…」
「写メ?」
「えっと、ほら、あんまり普段しない格好だし、明日は多分忙しくてそれどころじゃないし…」

しどろもどろ、そう言ってみると、氷室は少し笑った。

「別にいいよ」
「う、うん」

許しも出たし、携帯を構える。
画面越しに氷室を見るのは、なんだか変な感じ。
ドキドキしながらシャッターを切った。

「…あ、ありがとう」
「いいえ」

…この写メは保護しておこう…。

そう思って携帯を弄っていると、実行委員の子から「もう解散するよー」と声が掛かる。

「じゃあ、ちょっと着替えてくる」
「うん」

そう言って教室を出ていく氷室を見送る。
…見られてよかった。
そう思っていると、友人がとんとん、と肘で小突いてきた。

「感謝しなさいよー」
「うん、ありがとう」

そう言ってさっきの写メを見る。

「なんか、女の子って感じ」
「え?」
「待ち受けにしちゃえば?」
「そ、それはちょっと…」

そんなことしたら、携帯開くたびにドキドキしてしまいそう。
…画面の中の氷室を見るだけでドキドキして、もちろん、実際に顔を合わせればもっとドキドキして。
こんなんじゃ心臓が持たなくなりそうだけど、いつか慣れるのかなあ…。

そんなことを思いながら、氷室が着替え終わるのを待った。
明日はいよいよ、文化祭。













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13.02.15