「かなでちゃんが結婚するんですって」

それはバレンタインより少し前。
夕飯が終わり、リビングテレビを見ていたときのことだ。
お母さんが電話を終えて、私にそう言ってきた。

「かなでお姉ちゃん?」
「うん。東京で結婚式するんですって」
「本当!?」

かなでお姉ちゃんは、東京にいる10個上の従姉だ。
お姉ちゃんが結婚するのか。
なんだか、自分のことのように嬉しい。

「行くんでしょ?式」
「うーん…私もお父さんもその日どうしても外せないのよねえ…」
「えー!」

お姉ちゃんは小さい頃は秋田に住んでいて、よく遊んでもらった。
就職と同時に上京してしまったので今はほとんど会っていないけど、大好きなお姉ちゃんだ。
彼女の結婚式なら、行きたかったのに…。

「あら、じゃあ一人で行く?」
「え?」
「一人で東京ぐらい行けるでしょ?」

お母さんから思わぬ言葉が飛び出る。
わ、私一人で!?

「私もお父さんも行けないの残念だし、あんただけでも」
「う、うん…いいの?」
「よくなきゃ言わないわよ。じゃああんた一人出席でいいわね」

まさかこんなことになるとは。
動揺しつつ、スケジュール帳にしるしをつけた。





結婚式の近付いたある部活の日。
東京まで日帰りで行くのは無理だから、2日ほど部活を休まなくてはいけない。
そろそろ監督に伝えなくちゃ。

「あの監督、来週の土日なんですけど…」
「どうした」
「従姉の結婚式があるのでお休みさせてもらいます」
「来週?」

監督は少し驚いた顔をする。

「来週の土日は、もともと部活ないんだ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、体育館の改修工事が入るからな。残念だったな」

ざ、残念って…。
…まあ、確かに毎日部活部活の日々だから、休みがつぶれるのはちょっと残念かな…。





「来週、部活休みだってね」
「うん」

その日の帰り道、辰也と来週の話をする。
多分、辰也は二人で過ごそうと思っているのだろう。
ちょっと申し訳ないと思うけど、お姉ちゃんの結婚式は一生に一度だ。

「来週ね、東京で従姉の結婚式があるの。私はそれで休みつぶれちゃう」
「そうなの?」
「うん」
「そっか。せっかくだし、どこか遊びに行こうかと思ってたけど…」
「ごめんね」
「いいよ、お祝いしてきてあげて」

辰也はちょっと寂しそうな顔で笑う。
私も辰也といたいという気持ちはあるけど、結婚式にはどうしても出席したい。

「うん…でも一人で行くから不安だなあ」

そう言うと、辰也は目が飛び出してしまうんじゃないかと思うぐらい驚いた顔をした。

「一人?」
「うん」
「ご両親は?」
「二人とも行けないの。でもお姉ちゃんには昔よく遊んでもらったから、私どうしても行きたくて」
「一人でなんて危ないよ」

辰也は私の肩を掴む勢いで諭してくる。
ちょっと落ち着いて欲しい。

「危なくないよ。一人なの往復の新幹線だけだし、ホテルは親戚と同じ部屋取ってるし」

親戚のおばさんと電話をして、同じホテルを取ってもらった。
東京に着いてさえしまえばおばさんと一緒に行動する。
一人なのは往復するときだけど、新幹線なんて乗るだけだし、そんなに心配することじゃないと思うんだけど…。

「…わかった」
「うん、大丈夫だって」

よかった、わかってくれたと思ったのも束の間。

「オレも一緒に行くよ」
「え!?」

わかってくれたのかと思いきや、まさかの展開。
辰也、何言ってるの!?

「そうだ。タイガに会いたいと思ってたし、ちょうどいい」
「え、あの、辰也」
「よし、決まりだ。何時の電車に乗るの?タイガにも連絡しないと」

それからは辰也の質問攻め。
往復の電車の時間から、ホテルの場所に結婚式場まで根掘り葉掘り聞かれた。

…ということで、急遽辰也と二人東京まで行くことになりました。










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14.09.26