「忘れ物ない?」
「うん、大丈夫」
「ご祝儀はここだからね。忘れちゃだめよ」
「わかってるよ」
「じゃ、行ってらっしゃい。かなでちゃんによろしくね」

新幹線の駅まで両親に送ってもらい、私は東京行きの新幹線に乗った。
切符に印刷された座席を確認して、席に向かう。

「おはよ」
「おはよう」

指定の席に行くと、辰也はもうすでに座っていた。
親には内緒で、辰也と隣同士の席だ。
別に一緒に泊まる訳じゃないから後ろめたいことはないんだけど、でも、なんとなく言いにくい。

「ねむい…」
「朝早いもんね」

当初の予定ではゆっくり出発して夜にあちらに着く予定だったけど、辰也と二人で行くことになったので予定変更だ。
朝早く出て、一緒にあちらで少し観光することにした。
親には「せっかく東京に行くからいろいろ見て回りたい」と言っておいた。

「眠る?」
「うん、そうだね」

辰也は背もたれによりかかると目を瞑った。
可愛い顔だ。
いつもは大人っぽい顔をしている辰也が、幼くなる瞬間だ。
この瞬間が、私は大好き。





「…ん」
「おはよ」

目を覚ますと、辰也の腕の中。
私も辰也に寄りかかって眠ってしまっていたようだ。

「まだまだ着かないみたいだね」
「東京は遠いからね」

東京って言うのは、本当に遠い。
WCで東京行ったときも思ったけど、先が本当に長い…。

「…お腹空いたな」
「あ、おにぎりあるよ」

そう言って鞄からおにぎりを二つ出す。
長旅だから途中でお腹空くだろうと思って作ってきた。

「わ、ありがとう」
「おにぎりだけだけどね。お昼は東京着いたら食べよう」
「そうだね。何がいいかな…」

そんな話をしながら二人でおにぎりを食べる。
…一緒にいられるのは少しの時間だけど、辰也と初めての旅行だ。
少しドキドキする。






『東京ー東京ー』

新幹線で数時間。ようやく東京に着いた。
窓から見る景色は、秋田とはまったく違う。

「た、辰也」

ホームに降りるとそこはもう人だらけ。
はぐれてしまいそうで怖くて、辰也に手を伸ばした。

「はい」

辰也はすぐにぎゅっと手を握ってくれる。
ほっと胸をなで下ろした。

、こっち」
「うん」

…一人でも大丈夫、なんて言ったけど、やっぱり怖かったかも。
辰也が来てくれて、よかった。

「とりあえず、ホテル行く?あ、チェックインまだできない?」
「大我くんのとこでいいよ。まだ伯母さん着いてないだろうし」
「そっか。じゃあ行こう」

辰也に手を引かれて歩き出す。
辰也は数日前に大我くんに連絡して、彼の家に泊めてもらうことにしているらしい。
そのとき、私含めて三人で遊ぼうと言ってくれたようだ。

電車に乗って、大我くんの家のある駅へ向かう。


「タツヤ!」

駅に着くと、背の高い男の子が一人。
WCで見た大我くんだ。

「タイガ、久しぶり」
「よー!」

大我くんはきらきらした笑顔で出迎えてくれる。
辰也もとってもうれしそうだ。

「こんにちは、です」
「ああ、タツヤが電話で言ってた…」
「オレの大切な人だよ」

辰也の言葉に顔がぼっと発火しそうなぐらい赤くなる。

「た、辰也」
「本当のことだよ」
「……」

う、うれしい。うれしいんだけど、恥ずかしい…。

「火神大我っす。よろしく」

大我くんは顔色ひとつ変えず自己紹介をする。
彼もさすが帰国子女というところなんだろうか…。
…一人慌ててる私がバカみたい……。

「とりあえず飯食うか?昼まだだろ?」
「ああ。お腹空いたな」
「よし。あ、荷物持ってやるよ」

そう言うと大我くんはひょいと私の荷物を持ってしまう。

「あ、大丈夫だよ!」
「いいって、重いだろ」
「でも」
「タイガは力持ちだから大丈夫だよ」

辰也と大我くんにそう言われてしまっては断れない。
自分の荷物から手を引っ込めた。

「ごめんね。ありがとう」
「別にいいって」

二人とも、優しいな。





「そんだけでいいのか?」

お昼を食べに来たファミレスで、私の頼んだ品を見て大我くんが聞いてくる。

「…大我くんは食べすぎだよ……」
「そうか?」
「相変わらずだね」

辰也も相当食べるほうだと思うけど、大我くんは桁違いだ。
大我くんの前に並ぶ料理達を見てため息を吐く。
見てるだけでお腹いっぱいになりそう…。

「で、これからどこ行く?」
「私、東京タワー行ってみたい!」

大我くんの問いに手を挙げて答える。

「東京タワー?」
「うん!」

東京に来たら行ってみたいと思っていたところだ。
たまに来るときはいつも遊園地に行ってしまったりして、東京タワーは行けていない。
今日はもうお昼過ぎだから遊園地なんて無理だし、ここは是非とも東京タワーに行きたい。

「タツヤもそれでいいのか?」
「オレはの行きたいところでいいよ」
「んじゃ電車だな。一回オレの家に荷物置いたほうがいいか」

ご飯を食べながら大我くんは言う。
食べる量もさることながら、速度もすごい。

「そうだね。あ、の荷物もタイガの家に置かせてくれないか?」
「ああ、いいぜ」
「ありがとう、お願いします」

親戚ととったホテルは偶然にもタイガくんの家のそばだったらしい。
私もホテルに行くまでの間、荷物を置かせてもらおう。

「んじゃそろそろ行くか」
「えっ、あ、ちょっと待って!」

いつの間にか辰也も大我くんも食べ終わってる。
私は全然終わってない。
ちょっと待って…!

。慌てなくていいから」
「おう。慌てて食うと詰まるぞ」

二人ともそう言ってくれる。
さっきから思っていたけど、二人は『兄弟』なんていうだけあるなあと思う。
二人とも、優しい。










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14.10.02