と付き合い始めて一か月が経った。
部活を終えたらオレの部屋に来て勉強をしたりDVDを見たり、そうやって時を過ごしている。
そして、それらが一段落したら、キスをして、抱きしめあって、甘い時を過ごすのが常だ。

今日はテスト前ということもあって二人で勉強をしている。
こんな教科書や辞書と睨めっこをするよりに触れたいんだけど、学生の本分は勉強だ。
ときどき視界の端に映るに集中力を奪われそうになりながら、勉強を続けた。


「……
「え?」
「もう時間だ」

「この時間まで勉強しよう」と約束した時間になるので、に声を掛ける。
は時間になったのに気付いていないようだ。

、集中力すごいね」
「そう?」

勉強中、邪なことを考えていたオレとは大違いだ。
に教えてもらっているんだし、勉強も頑張ってはいたけど、思春期の男子が彼女の隣にいて変なことを考えるなと言うほうが無茶だ。

「わっ」

オレは腕を伸ばしてを抱きしめる。
は少し驚いた顔をするけど、嫌な顔じゃない。
調子に乗ってキスを落とす。

「可愛い」

キスをした時のの顔は可愛い。
世界で一番、誰よりも。



の名前を呼ぶと、もう一度は目を瞑る。
その唇に、自分の唇を重ねる。

の唇は柔らかい。
吸い付かれるようにその唇に触れて、思う存分唇を味わう。

触れるだけのキスでは物足りなくなって、唇と舌を使っての口をこじ開ける。
抱きしめたの体から、の動揺が伝わってくる。
それでもお構いなしに、の口内に舌を絡ませる。

「ん…っ」

は驚いてオレの体を押しのけようとするけど、オレはそれを許すはずもない。
止まらなくなって、貪るように口づけをする。
勢いに任せてに体重を掛ける。
ゆっくり、の体が床に近付いていく。

もっと欲しい。
のことが、もっと。

「…ひ、氷室!」

唇を離した瞬間に、が叫ぶようにオレの名前を呼んだ。
真っ赤な顔で、右手でぎゅっと心臓を抑えている。

ああ、今日もまたダメか。

「…もう遅いから、帰ったほうがいいかな。送って行くよ」

のおでこにキスをする。
オレとしては、そろそろ次の段階を踏みたいところなんだけど。

「…うん」

今のキスだけで真っ赤になるを見たら、無理強いできないなと思う。
思うけど、ときどき自分が抑えきれなくなりそうにもなる。
を大切にしたいと思う気持ちと、自分の中の欲と、折り合いをつける術を今は探している。







テスト期間が終了した。
不安だった古典や現代文も赤点を取らず済み、ほっと一息といったところだ。

今日も部活後、オレの部屋でと過ごしている。
オレの結果に心配するにテストの答案を見せた。

「すごいね。全然わからなかったのに」

は自分のことのように喜んでくれる。
はいつもそうだ。
オレが嬉しい顔をすれば一緒になって喜んでくれる。
本当に素直だ。

が教えてくれたから。ありがとう」

に教えてもらったから、テストもうまくいった。
お礼代わりにキスをする。



名前を呼ぶと、は目を瞑る。
もはや条件反射のようだ。
抱きしめあって名前を呼ぶと、は半ば無意識に目を閉じてキスを待つようになった。

「…ん…」

当然のように、オレの欲が疼き始める。
この間と同じようにキスを深いものに変えて、を押し倒そうと体重をかける。

「ひ、氷室、待」
「待てない」

唇を離せば、当然のように制止の声がかかる。
だけどもう待てないよ、


「…っ」

の首筋を妖しく舐める。
は肩を震わせた。
の顔は、恐怖に染まっている。

、どうしても嫌?」
「あ、の」

さすがにそんな顔をされたら、やめるしかない。
にそんな顔を、させたいわけじゃない。

「嫌なら言って。嫌だっていうなら、何もしない」
「…私」
「オレは、としたいよ。すごく、に触りたい」

素直な気持ちをにぶつける。
が好きだよ。だから触れたい。もっともっと、のことを知りたい。

「本当は今すぐ無理矢理押し倒してをオレの物にしたい。でも、を傷つけたいわけじゃないんだ」

は真剣な顔でオレの話に耳を傾ける。

が好きだよ。だからしたい。でも、だから傷つけたくないんだよ」

嘘は一つも吐いていない。
本当のことだ。
が好きだ。だから、に触れたいと思うし、を傷つけたくないと思う。

が好きだよ。全部、が好きだからだ。

「氷室、あの」
、オレは、に触れるのが好きだよ。と手を繋いで、キスをして、抱きしめると、すごく幸せにる。だから、もっとに触れたい」
「…っ」


の頬に触れる。
はゆっくり、口を開いた。

「氷室、あの、私」
「うん」
「……っ、あの…」

は思いつめた表情で、必死に言葉を紡いでいる。
オレはそっとを抱きしめた。
できるだけ、優しく。

、無理しなくていいから」

に無理をしてほしいわけじゃない。
と一緒に、幸せになりたいんだ。

「氷室、あのね、私、氷室のこと好きだよ」
「うん、わかってるから」

はできるだけ、オレのことを傷付けないように言葉を選ぶ。
大丈夫、わかってるよ。

「ごめんね」

無理をさせてごめん。そう思って謝って後悔する。
がより一層表情を曇らせてしまったからだ。

「…何か飲み物持ってくるよ。何がいい?」
「あ、えっと…。紅茶ある?」
「うん。待ってて」

自分の部屋を出て、キッチンに座り込む。
少し、頭を冷やそう。
を傷付けないように、大事にしよう。

ぎゅっと拳を握って、新たに誓った。









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14.10.27