「あれ、お前一人?」 部活帰り、校門をくぐるとちょうど福井さんに会った。 「珍しい」 「は一人で買い物したいって言っていたので」 珍しい、というのは、いつもと一緒に帰っているからだろう。 10月の中旬。この時期に「一人で買い物がしたい」と言えば、聞くのも野暮というものだろう。 わかってる。が買いたいものは、何か。 だけど、暗い気持ちがよぎる。 オレを避けているんじゃないかと。 「…何怖い顔してんだよ」 隣で歩く福井さんにそう言われ、あわてて顔を戻す。 「…もうすぐ公式戦ですから」 ふう、と息を吐く。 もうすぐWCの予選が始まる。 「ああ、お前IH出てねーしな」 「役に立ってみせますよ」 「期待してる」 福井さんも表情を引き締める。 そう言われれば気合を入れざるを得ない。 「ま、予選突破は最低ラインだからな…どういう内容で勝つかも重要だな」 福井さんの言葉は副主将らしいというか、司令塔らしいというか。 IHはベスト4。もちろん今回はそれ以上を目指している。 油断するわけじゃないが、本番は本選だ。 「んじゃ、オレこっちだから。お疲れ」 「はい。お疲れ様です」 福井さんに別れを告げて、駅のほうへ歩く。 冷却スプレーが切れたから、買いに行かなくては。 * 買い物を済ませ店を出ると、向かいの店にの顔が見えた。 「?」 「ひ、氷室…」 は慌てた顔で、鞄を自分の後ろにやる。 そんな様子を見て、ほっと安堵した。 避けられているわけではないんだ。 「、買い物ってこの辺で?」 「う、うん。氷室は?」 「オレはちょっと暇だからうろうろしてたんだ」 「そっか。あ、私、もう帰るけど…」 「じゃあ、一緒に帰ろうか」 「うん」 そう言っての手を取る。 繋いだ手から緊張が伝わってくるのは、きっと気のせいじゃない。 * 「…じゃあ、また明日ね」 「うん」 の家まで来て、と別れる。 もう何度もしてきた、慣れたことだ。 だけど、今までと違うことが一つだけ。 「…バイバイ」 いつもはがそう言ったときキスをしていたけど、今はしていない。 今に触れたら、何をするかわからない。 それと、もう一つ。 今までしてきたことをしなくなったら、もオレをオレを欲しがってくれるんじゃないかと。 そんな浅い考えだ。 ずるい考え、卑しい男だとわかってる。 でも、そんなことを考えずにはいられないほど、が欲しいよ。 ← top → 14.10.28 |