「あれ、お前一人?」

部活帰り、校門をくぐるとちょうど福井さんに会った。

「珍しい」
は一人で買い物したいって言っていたので」

珍しい、というのは、いつもと一緒に帰っているからだろう。
10月の中旬。この時期に「一人で買い物がしたい」と言えば、聞くのも野暮というものだろう。

わかってる。が買いたいものは、何か。
だけど、暗い気持ちがよぎる。
オレを避けているんじゃないかと。

「…何怖い顔してんだよ」

隣で歩く福井さんにそう言われ、あわてて顔を戻す。

「…もうすぐ公式戦ですから」

ふう、と息を吐く。
もうすぐWCの予選が始まる。

「ああ、お前IH出てねーしな」
「役に立ってみせますよ」
「期待してる」

福井さんも表情を引き締める。
そう言われれば気合を入れざるを得ない。

「ま、予選突破は最低ラインだからな…どういう内容で勝つかも重要だな」

福井さんの言葉は副主将らしいというか、司令塔らしいというか。
IHはベスト4。もちろん今回はそれ以上を目指している。
油断するわけじゃないが、本番は本選だ。

「んじゃ、オレこっちだから。お疲れ」
「はい。お疲れ様です」

福井さんに別れを告げて、駅のほうへ歩く。
冷却スプレーが切れたから、買いに行かなくては。





買い物を済ませ店を出ると、向かいの店にの顔が見えた。

?」 「ひ、氷室…」

は慌てた顔で、鞄を自分の後ろにやる。
そんな様子を見て、ほっと安堵した。
避けられているわけではないんだ。

、買い物ってこの辺で?」
「う、うん。氷室は?」
「オレはちょっと暇だからうろうろしてたんだ」
「そっか。あ、私、もう帰るけど…」
「じゃあ、一緒に帰ろうか」
「うん」

そう言っての手を取る。
繋いだ手から緊張が伝わってくるのは、きっと気のせいじゃない。





「…じゃあ、また明日ね」
「うん」

の家まで来て、と別れる。
もう何度もしてきた、慣れたことだ。
だけど、今までと違うことが一つだけ。

「…バイバイ」

いつもはがそう言ったときキスをしていたけど、今はしていない。
に触れたら、何をするかわからない。

それと、もう一つ。
今までしてきたことをしなくなったら、もオレをオレを欲しがってくれるんじゃないかと。
そんな浅い考えだ。

ずるい考え、卑しい男だとわかってる。
でも、そんなことを考えずにはいられないほど、が欲しいよ。













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14.10.28