10月31日。幸せな誕生日の翌日、部活の後自主練を終え、が待っている部室へ向かった。
部室の扉を開いた途端、目に飛び込んできたのは愛しい彼女と後輩の姿だ。

「ダメだよ〜ハロウィンはお菓子くれないとイタズラされるんだよー」
「え」

アツシの言葉にすっと自分の顔から表情が消えるのがわかる。
抑揚のない声で二人に話しかけた。

「アツシ、何しようとしてたの?」

アツシはオレが怒っているのを理解したのか、言い訳に走る。

「別に室ちんが怒るようなことしないよ〜怖いもん。明日ちんが片付けしてるの邪魔しようかなって」
「え、それすっごい困る」

なんだ、そんなことか。
少し安堵して息を吐いた。
とはいえ、が困っているのは見過ごせない。

を困らせたら怒るよ?」
「え〜だってお菓子…」
「…明日お菓子持ってくるから」

がアツシにそう言うと、アツシはぱあっと表情を明るくさせた。

どうやら、ハロウィンだからと敦はにお菓子がもらえると思っていたんだろう。
その目論見が外れて「Trick or Treat」を体現しようとしていたのか。

「ほんと?ならいいやー。いっぱい持ってきてね」
「うん」
「あ、そうだ。室ちん昨日誕生日だったんでしょ」

突然切り替わった話題に目を丸くする。
アツシがオレの誕生日を知っているとは思わなかった。
男同士で誕生日を祝うことはほとんどないから。
現にオレもに教えられるまで、先日のアツシの誕生日を知らなかった。

「よく知ってるね」
「うんーおめでと〜これあげる」
「あ、ありがと」

アツシは「気に入っている」と以前言っていたチョコレートをくれる。
きっとアツシにとっては一番のプレゼントなんだろう。

ちんもおめでと〜」
「え?」

アツシの言葉に、オレもの目を丸くする。
がおめでとうって…。
……オレはアツシに昨日の話なんて当然していないし、だって同じだろう。

「うん。ちんおめでとー」
「え、あの…」
「ん〜?」
「…どういう意味?」
「そのまんま」
「…」

は顔を赤くして俯いてしまう。
…まあ、アツシのことだから深い意味はなく言っているんだろう。
オレもとの秘め事を周囲に晒す気はないけど、もしが心も体もオレのものだと周囲にわかっているのなら、それは悪くない。

「じゃあオレ帰るね〜明日お菓子宜しくー」

アツシは手をひらひらと振って部室から去っていく。
は未だ赤い顔のままだ。

「あ、辰也」
「ん?」
「なんか、さっき不機嫌じゃなかった?」

はおそらく違う話題を探そうとしてそう言ったんだろう。
だけどごめんね。もっと赤くなってしまうね。

「当たり前だろ?に悪戯していいのは、オレだけだ」

想像通りは頬を赤く染める。
「そういう意味」の悪戯も、ただを困らせるだけの悪戯も、どちらもしていいのはオレだけだよ。

「ねえ、Trick or Treat?」
「えっ…」

お菓子を持っていないと知っているのにこう言うのは少し反則かな。
そう思いつつも止められない。

「た、辰也」
「持ってないの?」
「持ってないけど、でも、あの」
「じゃあ、悪戯だ」

そう言うとは少し怯えた顔でぎゅっと目を瞑った。
そんな顔も可愛いよ。
そう思いながら、の唇にキスをした。

「…た、辰也」
「今年はこれで許してあげるよ」

昨日の今日だし、今年はこれで終わるよ。
あまりに無理はさせられないから。

「…来年は、お菓子あげるね」

は安堵した表情になる。
来年か。
オレの欲しいお菓子は一つだけなんだけど。

「オレの一番好きなお菓子にしてね」
「好きなの?」
「わかるだろ?」

の唇をなぞってそう言うと、は今日何度目かわからない頬の紅潮を見せた。
は本当にわかりやすい。
そこが可愛いんだけど。

「…あの」
「楽しみにしてるよ」

が来年何を用意してくれるか。
今から楽しみだ。








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14.10.31





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