4月の終わり、秋田の桜の咲く頃。
辰也と二人、桜で有名な公園に来ていた。

「いい天気だねー」
「ああ。お花見日和だ」

適当なところにレジャーシートを敷いて、二人で座った。

「お弁当作ってきたよ」
「わ、ありがとう」

朝早く起きて二人分のお弁当を作ってきた。
おにぎりと、から揚げと、卵焼きと…お花見ならこれだろうというものを揃えたつもりだ。

「おいしい!」
「ふふ、ありがとう。お茶もあるから」

辰也は笑顔で食べてくれる。
いつもそうやっておいしいと言ってくれるから、私は何度でも作りたくなる。





「お腹いっぱい」
「ね」

辰也は丁寧にお弁当箱を片付けると、目を細めた。

「…いいな」
「?」
「天気はよくて、桜が綺麗、ご飯もおいしい、それに何より、隣にがいる」

辰也は私の頬を撫でる。
甘いにおいがした。

「幸せだなって、思うよ」
「…うん」

ぎゅっと目を瞑る。
私も、幸せだな。

「辰也、あの」
「ん?」
「膝枕とか、する?」

崩した足を座りなおして、辰也に聞いてみる。

「いいの?外なのに」
「う…みんなしてるし」

いつもは無断でくっついてくるくせに、こういうときばっかり聞き返してくる。
そこかしこでカップルだったり夫婦だったりが膝枕してるし、別に…。

「じゃ、遠慮なく」

辰也はごろんと寝転がって、私の膝に頭を乗せる。
私を真っ直ぐ見つめると、柔らかく笑った。

「…本当に」
「ん?」
「…幸せだな」

辰也は私の手を握る。
あいている手で辰也の前髪を梳いた。

「部活も好調だし」
「うん」

新学期に入って約一か月。
男子部員もたくさん入ったし、女子マネージャーも二人ほど入ってくれた。
大分仕事も覚えてくれたから、私も少し余裕ができた。


「わっ」

辰也はぎゅっと私のお腹のあたりを抱きしめる。
少しだけ見える辰也の表情は、まるで子供みたいだ。

「辰也ってば」
「んー…」
「寝る?眠い?」
「ちょっとだけ」
「あったかいもんね。起こすから大丈夫だよ」
「うん」

辰也は目を瞑る。
いつも思うけど、大人っぽい表情なのに寝顔は年相応どころか、少し幼いぐらいだ。
辰也の寝顔を知っている人はきっと少ないんだろうなと思うと、とても嬉しくなる。

「あ」

桜の花びらが辰也の頬に落ちる。
…写真、撮っちゃおうかな。








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14.12.19