「バスケ部、マネージャー募集してまーす」

始業式は昨日終わり、今日は入学式。
新しい制服に身を包んだ新入生が、不安と期待に満ち溢れた表情で校内を歩いている。

「マネージャーですか?」
「あ、うん!興味ある?」

一人の女子生徒が私からチラシを受け取ると、まじまじとそのチラシを見つめる。

「うーん…」
「見学だけでもいいからいつでも来てね。大体体育館で練習してるから」
「はい」

まだ迷っているみたいだ。
体育館の場所を教えてその場は別れた。

「バスケ部っスか?」

今度は背後から低い声が降ってくる。
即座に後ろを振り向くと、背の高い男子生徒の姿がある。

「うん。プレイヤー希望?男子マネージャーも大歓迎だけど!」

マネージャーというと女子のイメージが強いけど男子マネージャーも他校のベンチを見ると少なくない。
彼もわざわざ私に話しかけたということはプレイヤーではなくマネージャー志望なんだろうか。

「いや、プレイヤーっスけど…」
「じゃああっちのバスケ部の机で入部届出せるから。まだ見学だけってことなら放課後体育館でやってるし」
「ふーん。じゃあ入部届書いちゃおっかな〜。案内してくれます?」
「いいよ。こっち」

男子生徒を手招きしてバスケ部の机のあるスペースへ向かう。

「先輩、名前なんて言うんスか?」
だよ」
先輩かー。ね、先輩」

馴れ馴れしく名前で呼ばれて一瞬たじろぐ。
さっきから思ってたけど、なんか軽い子だな…。

先輩、彼氏とかいるんスかー?」

にっこり笑いながらそう言われて、さっと体を一歩後ろに下げた。
なんか、よくない気がする。

「ここにいるけど?」

今度は横から低い声が聞こえてくる。
辰也の声だ。

「辰也」
「入部希望?うちの部厳しいけど大丈夫?」
「えーっと……んだよ、彼氏持ちか…」
「入部するなら容赦しないけど」

辰也の眼に光はない。
これ、絶対怒ってる。

「いやー…やっぱいいっス。もうちょっと他の部も見たいし」

そう言って彼は去って行った。
そしてすぐさまほかの部のマネージャー勧誘をしている女の子に声を掛けている。
……いるんだなあ、こういう子。
私は小さくため息を吐いた。

「…二度と来なくていいのに」
「え?」
、一人で勧誘しちゃだめだ。アツシあたりでもつけようか」

辰也は私の肩を掴んでそう訴える。

「敦はダメだよ!女の子が怖がっちゃう」

敦自身は怖い子ではないけど、2m強の身長はそれだけで女子にとっては怖かったりするのだ。
敦が一緒にいたらマネージャー志望の子も寄るに寄れなくなってしまう。

「じゃあオレが」
「辰也は机番でしょ?」
「ほかの奴に任せるよ。誰でもできるし」
「…でも」
「でも?」
「…辰也がいると、辰也目当ての子ばっかり来そう…」

それが一番の心配だ。
去年、夏休みが明けた後にマネージャー募集したら辰也目当ての子が殺到したし…。

「だから一緒がいいんじゃないか。オレが目当ての虫を払えるし、が居れば逆もできる」
「…私目当てはそんなにいないと思うけど」
「さっきナンパされそうになってたのは誰?」
「う…でもあの人、ほかの子にも声掛けてたから、別に私目当てってわけじゃ…」
「そういうやつがほかにもいるかもしれない。それには可愛いんだから」
「あ、わかった!もういいい!もういいから!」

こうなると辰也はヒートアップして私のどこが可愛いか真剣に説明してくる。
可愛いと言われるのは嬉しいけど、今はそういう場じゃない。
仕方なく辰也にチラシを半分渡した。

「男子でもマネージャー志望いるかもしれないから、男子だからって無視しないでね」
「男子マネージャー?ダメだよ」
「え?」
「ダメに決まってるだろ。が危ない」
「…辰也…」

危ないって…。
真顔で言う辰也にあきれ果てる。

「…もう、部なら大丈夫でしょ?辰也もいるし」
「いや、マネージャーだと二人きりになることもあるだろうし、危ないよ」
「…辰也ってば…」

多分何を言っても無駄だろう。
チラシを配らなくてもそこら中にポスターを貼ってあるし、もしマネージャー希望の男子がいたらそれを見てきてくれるだろう。
ここで言い争いをするのもなんなので、おとなしく女子にチラシを渡すことにした。



「じゃ、ここで見学してて。何かあったら言ってね」
「はい」

放課後の部活中、何人かの女子生徒が見学に来た。
何人入ってくれるかわからないけど、入部してくれたら嬉しいな。

せんぱーい、こっちいいっスか」
「あ、うん」

春休みから加わっていた推薦の新入生に加え、今日から仮入部の新入生も多い。
しばらく忙しくなりそうだ。

、大丈夫?」
「うん」

辰也が心配して声を掛けてくれる。

「何かあったら頼むし大丈夫。練習練習!」
「うん」

実際この人数を私一人で面倒見切れるはずもない。
一年生や二年生に仕事を頼むことも少なくない。
新しくマネージャーが入ってくれたら、こういうこともなくなるだろう。
できればみんなの練習の邪魔をしたくない。

体育館で練習するみんなを見る。
みんな、頑張って。
そして私も頑張ろう。
最後の一年、後悔のないように。








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14.12.12