ゴールデンウィークまであと数日と迫ったある日。 朝練の後、監督から連休中に行われる合宿の要領が渡された。 日程と練習やご飯の時間、みんなの部屋割りが書かれている。 「みんなに配っておいてくれ」 「わかりました」 「、合宿は二回目だったよな?」 「はい」 「まだ慣れてるとは言えないだろうが…一年のこと、よろしくな」 「はい!」 私がバスケ部に入部したのは去年の夏だから、合宿をしたのは去年の夏の一回だけだ。 だけど先輩なんだし、一年の子たちの面倒をちゃんと見ないと。 プリントを見ると、部屋割りで私は一年のマネージャーと同じ部屋になっている。 去年は一人部屋だったから、にぎやかになりそうで嬉しい。 辺りを見ると、今はもうみんな朝練の片付けや着替えに入ってしまっている。 お昼休みにまとめて渡そう。 * 「あ、いた敦!」 二年の教室に行くと、敦の姿が見える。 目立つからすぐわかってありがたい…と言うと、「みんなすぐオレのこと待ち合わせ場所にするんだよね〜」って愚痴られてしまうけど。 「ちん、なに〜?」 「はい、これ。今度の合宿の要領ね」 「あー…」 敦はあからさまに嫌そうな顔をする。 練習嫌いな敦らしい。ま、嫌がりながらもちゃんとやってくれるんだけど。 「うわーオレ大部屋じゃん」 「嫌なの?賑やかだよ?」 「賑やかなのは家だけで十分だよ〜」 そう言えば敦は大家族なんだっけ。 でも、敦は大部屋でも一人部屋でも、マイペースだからすることはあまり変わらなそうだ。 「ちんの部屋は?室ちんと一緒?」 「っ!?」 思ってもみなかった言葉が飛び出して、大袈裟に動揺してしまう。 た、辰也と一緒の部屋?! 「そ、そんなわけないでしょ!」 「え〜室ちんはそのほうがいいって言いそうじゃん〜」 「言わないよ合宿なんだから!!」 「そーお?あ、でも一緒の部屋じゃまずいか」 まずいって思うのが遅くない? 一般常識として、学生の合宿で男女同じ部屋ってどう考えてもなしだ。 「一緒の部屋じゃ、ちん疲れて次の日練習になんなそうだもんね」 その言葉で、私の中で堪えていたいろんなものが切れた。 「あ…」 「あ?」 「敦ーーーー!!!」 二年の教室に、私の怒号が響く。 周りはみんな驚いているのに、当人である敦だけ平気な顔をしているのがまた悔しい。 * 「、どうしたの?」 「う、うんちょっとね…」 敦に説教した後、三年の教室の階に帰ってくる。 そしたら、辰也が心配そうな顔で話しかけてきた。 「あ、これ今度の合宿の要領だから」 「ありがと」 「同じクラスの部員に渡してくれる?」 「わかった」 辰也は渡されたプリントをじっと見る。 …さっき敦が変なことを言ったせいで、どうにも居心地が悪い。 「は三人部屋なんだね」 「えっ!?」 部屋の話を振られると思わず、大声をあげてしまう。 だって、さっきの敦の言葉を思い出してしまって…。 「?」 「そ、そうだよ!?」 「うん。賑やかそうでいいね。去年は一人だったろ?」 辰也は目を細めてそう言う。 そうか。辰也は心配してくれていたんだ。 「うん」 去年の夏の合宿もインターハイも、私は急遽行くことになったしほかに女子マネージャーもいなかったから一人部屋だった。 仕方ないとはいえ、少し寂しいとぼやいたことを覚えていてくれたんだろう。 「辰也は四人部屋だよね」 「うん。三年は四人部屋なんだね」 プリントを見ると、一、二年は大部屋四つに分かれて、3年が四人部屋に分かれるようだ。 「ね、敦が大部屋でぼやいてたよ」 「賑やかでいいのに」 「ね」 辰也とそんな話をする。 辰也といると、怒ったり悲しかったり、そんな負の感情が溶けていく。 「じゃ、私みんなにこれ配ってくるから」 「うん」 一年のクラスの分は後輩に頼んだから、三年の分を配ってしまおう。 …今二年の教室に行くのはちょっと恥ずかしいから、五時間目の後の休憩時間にしよう…。 ← top → 15.01.02 |