ゴールデンウィークまであと数日と迫ったある日。
朝練の後、監督から連休中に行われる合宿の要領が渡された。
日程と練習やご飯の時間、みんなの部屋割りが書かれている。

「みんなに配っておいてくれ」
「わかりました」
、合宿は二回目だったよな?」
「はい」
「まだ慣れてるとは言えないだろうが…一年のこと、よろしくな」
「はい!」

私がバスケ部に入部したのは去年の夏だから、合宿をしたのは去年の夏の一回だけだ。
だけど先輩なんだし、一年の子たちの面倒をちゃんと見ないと。

プリントを見ると、部屋割りで私は一年のマネージャーと同じ部屋になっている。
去年は一人部屋だったから、にぎやかになりそうで嬉しい。

辺りを見ると、今はもうみんな朝練の片付けや着替えに入ってしまっている。
お昼休みにまとめて渡そう。





「あ、いた敦!」

二年の教室に行くと、敦の姿が見える。
目立つからすぐわかってありがたい…と言うと、「みんなすぐオレのこと待ち合わせ場所にするんだよね〜」って愚痴られてしまうけど。

ちん、なに〜?」
「はい、これ。今度の合宿の要領ね」
「あー…」

敦はあからさまに嫌そうな顔をする。
練習嫌いな敦らしい。ま、嫌がりながらもちゃんとやってくれるんだけど。

「うわーオレ大部屋じゃん」
「嫌なの?賑やかだよ?」
「賑やかなのは家だけで十分だよ〜」

そう言えば敦は大家族なんだっけ。
でも、敦は大部屋でも一人部屋でも、マイペースだからすることはあまり変わらなそうだ。

ちんの部屋は?室ちんと一緒?」
「っ!?」

思ってもみなかった言葉が飛び出して、大袈裟に動揺してしまう。
た、辰也と一緒の部屋?!

「そ、そんなわけないでしょ!」
「え〜室ちんはそのほうがいいって言いそうじゃん〜」
「言わないよ合宿なんだから!!」
「そーお?あ、でも一緒の部屋じゃまずいか」

まずいって思うのが遅くない?
一般常識として、学生の合宿で男女同じ部屋ってどう考えてもなしだ。

「一緒の部屋じゃ、ちん疲れて次の日練習になんなそうだもんね」

その言葉で、私の中で堪えていたいろんなものが切れた。

「あ…」
「あ?」
「敦ーーーー!!!」

二年の教室に、私の怒号が響く。
周りはみんな驚いているのに、当人である敦だけ平気な顔をしているのがまた悔しい。






、どうしたの?」
「う、うんちょっとね…」

敦に説教した後、三年の教室の階に帰ってくる。
そしたら、辰也が心配そうな顔で話しかけてきた。

「あ、これ今度の合宿の要領だから」
「ありがと」
「同じクラスの部員に渡してくれる?」
「わかった」

辰也は渡されたプリントをじっと見る。
…さっき敦が変なことを言ったせいで、どうにも居心地が悪い。

は三人部屋なんだね」
「えっ!?」

部屋の話を振られると思わず、大声をあげてしまう。
だって、さっきの敦の言葉を思い出してしまって…。

「?」
「そ、そうだよ!?」
「うん。賑やかそうでいいね。去年は一人だったろ?」

辰也は目を細めてそう言う。
そうか。辰也は心配してくれていたんだ。

「うん」

去年の夏の合宿もインターハイも、私は急遽行くことになったしほかに女子マネージャーもいなかったから一人部屋だった。
仕方ないとはいえ、少し寂しいとぼやいたことを覚えていてくれたんだろう。

「辰也は四人部屋だよね」
「うん。三年は四人部屋なんだね」

プリントを見ると、一、二年は大部屋四つに分かれて、3年が四人部屋に分かれるようだ。

「ね、敦が大部屋でぼやいてたよ」
「賑やかでいいのに」
「ね」

辰也とそんな話をする。
辰也といると、怒ったり悲しかったり、そんな負の感情が溶けていく。

「じゃ、私みんなにこれ配ってくるから」
「うん」

一年のクラスの分は後輩に頼んだから、三年の分を配ってしまおう。
…今二年の教室に行くのはちょっと恥ずかしいから、五時間目の後の休憩時間にしよう…。










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15.01.02