合宿一日目。 去年と違って、私も後輩がいるおかげでマネージャーの仕事はだいぶ楽だ。 「先輩、洗濯行ってきまーす」 「うん、お願い」 入ってきた後輩二人はとてもいい子で、私はとても助かっている。 合宿所は同じ部屋だし、もっと仲良くなれたらいいな。 そうこうしていると、体育館に監督の吹く笛の音が鳴り響く。 「…よし、10分休憩だ。休憩が明けたらミニゲームを行う」 そうだ。次は1軍同士でミニゲームを行う予定だった。 体育館の隅に置いてあるスコア表を取りに走った。 「笙子ちゃん笙子ちゃん、ちょっとこっち来て」 傍で備品のチェックをしていた後輩を手招きして呼ぶ。 「はい」 「ミニゲームのとき、スコアの付け方教えるね」 「あ、はい!」 菜美ちゃん…もう一人のマネージャーは中学時代バスケをやっていたらしく、スコアの付け方は問題ないらしい。 せっかくのチャンスだから笙子ちゃんには今回教えよう。 笙子ちゃんに簡単な説明をしているうちに、休憩の10分はあっと言う間に終わる。 コートの横に座って、スコアをつける準備をする。 * 「はー…」 合宿1日目は無事終了。 今はお風呂で後輩たちとゆっくり湯船に浸かってる。 「先輩、質問があるんですけど!」 菜美ちゃんが突然手を挙げてくる。 少し頬が赤いようだ。のぼせたら大変だし、質問を聞いたらそろそろ上がらなきゃ。 「どうしたの?」 「氷室先輩とどこまで行ってるんですか?!」 ………。 ……え? 「え、ええっ!?」 「あ、それ私も気になります!」 「笙子ちゃんまで!?」 まさかそんな話だとは思わず、一気に顔が赤くなる。 どこまで、って…その、そういうことだよね…? 「前から聞きたかったんですけど、先輩いつも氷室先輩と帰るから中々チャンスなくって」 「え、えーと…」 「どうなんですか!?やっぱ高3だし、…そういう感じ!?」 「い、いや、あのね」 二人はキラキラした純粋な瞳で見つめてくる。 いや、聞いている内容は純粋とは言い難いけど…。 とにかく、そんな目に気圧されて黙秘したり嘘を吐くのは不可能だと思ってしまう。 「ま、まあその…」 「……」 「そ、それなりに、そんな感じ…」 「!」 ものすごく曖昧な答えをしたけど、二人はどういうことか察知したようだ。 どうかこれ以上追及しないで。 そんな心の中の願いは、二人には届かなかった。 「いつ頃ですか?」 「えっ、まだ聞くの!?」 「当然です!」 「え、ちょ、まっ…あ、そうだ!もうのぼせちゃうから!ねっ?」 「…そうですね」 大袈裟にジェスチャーしながらそう言うと、二人は想像以上にあっさり引き下がった。 …かと思いきや、二人とも口元に笑みを携えている。 「夜は長いですもんね!」 にっこり笑いながら言われて、私は固まる。 黙秘権行使したいけど、私にできるだろうか…。 どうして私の周りって、友達といいこの二人と言い、ガンガンくるタイプが集まるんだろう…。 * 「いっぱい話聞かせてくださいね!」 「え、えーと…」 お風呂場から出るときもキラキラした瞳で念を押される。 ほ、本当に話さなきゃだめかな…。 「あ」 男子の脱衣所から、お風呂を上がったらしい辰也が出てくる。 辰也は私に気付くと、心配そうな顔で駆け寄ってきた。 「、大丈夫?」 「え?」 「顔赤いよ?のぼせたんじゃない?」 「!ち、違うの!」 辰也の言葉に慌てて首を振る。 顔が赤いのは、のぼせたからじゃなくて、その…。 「?湯当たりしないようにね。風通しのいいとこに…あ、でも湯冷めしちゃうか…」 辰也は優しい声でそう言ってくれる。 心配してくれてるんだ。 「辰也、大丈夫だよ。ありがとね」 「でも」 「もう、平気だってば!」 「…うん。でも気をつけてね」 「うん。ありがと」 辰也はそう言うと、私の頭を撫でる。 優しい感触だ。 笑って辰也と別れた。 「…先輩〜」 「!」 辰也の優しさに和んでいると、菜美ちゃんが後ろから楽しそうな声で私を呼んだ。 「な、なに?」 「先輩と氷室先輩、本当仲いいですね」 「そう?」 そう言われることは多いけど、自分ではわからない。 これが当たり前だと、そう思っているんだけど、わざわざ言われるということは、きっとそうではないんだろう。 「仲いいですよー、うらやましい!」 「ありがと」 「だから聞きたいんですよ!ラブラブカップルでいる秘訣とか!」 「ら、ラブラブ…」 菜美ちゃんに肩を掴まれる勢いで言われる。 ら、ラブラブ…。言い方はちょっとあれだけど、やっぱり仲がいいと言われるのは嬉しい。 「ふふ、いっぱい恋バナしましょうね!」 笙子ちゃんはにっこり笑ってそう言う。 だから私も笑顔で答えた。 「うん!」 やっぱり、同じ部に女の子がいるっていいなあ。 「…でも、ちょっと手加減してね!」 「それは無理です!」 ← top → 15.01.09 |