「………」

10月の中旬、寒くなってきた今日この頃。
来週に控えた定期テストのため、氷室の部屋で一緒に勉強中。
テスト前でも部活はなくならないどころか、ウィンターカップの予選が控えるために厳しくなる一方。
だからできるときにしっかり備えておかないと。

「ねえ、。ここなんだけど」
「ん?」
「これ、なんて意味だっけ」

そう言って氷室は古典の教科書を見せてくる。
やっぱり古典には苦労しているようだ。

「これは覚えておかないとまずいよ。ほら、ここに重要って書いてある」
「……」
「授業でも言ってたよ。覚えてない?」
「寝てたかも」
「…寝ちゃダメだよ」

まあ、確かに古典の授業って眠くなりやすいけど、ただでさえ基礎知識がないのに授業寝てたらテスト大変だよ…。

「古典ってどうしても眠くってさ…」
「わかるけど、でもダメだよ。一応古典の点数は考慮してくれるって話みたいだけど」

さすがに何年もアメリカにいただけあって、先生もある程度点数が悪くても考慮してくれるって話はあるようだ。
それでもやっぱりちゃんとやらなくちゃ。

「前に私がまとめたノート渡したでしょ。あれは見てる?」
「ちゃんと見てるよ。動詞活用は覚えた」

氷室はそう言うと空で動詞の活用を挙げていく。
この間まで全然知らなかったのに、ちゃんと覚えてる。

「すごい!」
がせっかく作ってくれたんだから、ちゃんとやるさ。が先生だったら絶対寝ない自信があるよ」
「…バカ」

氷室は「本気なんだけど」とちょっと不満そうな顔をする。

「…とりあえず、あと30分は集中!」

最初に氷室と「この時間までは勉強しよう」と決めた時間まで、あと30分。
わからないところを聞くのはいいけど、無駄話はダメだ!







「……
「え?」
「もう時間だ」

氷室の声で顔を上げて時計を見る。
本当だ。いつの間にか時間が過ぎてる。

、集中力すごいね」
「そう?」

自分ではそんなつもりないんだけど。
そう思っていると氷室が私をぎゅっと抱きしめる。

「わっ」
「やっぱりが先生だったらダメだな。絶対余計なこと考えて集中できない」
「よ、余計なことって」
「こういうこと」

氷室はそう言うと私にキスをする。
こ、こういうことって…。

「…んっ…」
「可愛い」

氷室は何度もキスをする。
氷室は本当にキスをするのが好きだ。少し隙があればいつもこう。
…ま、まあ、別に、人前じゃなきゃいいんだけど。

「…っ!」

ぼんやりした頭で氷室のキスを受け入れていると、私の舌に氷室のそれが絡んでくる。
驚いて思わず氷室の肩を押してみるけど、力で敵うはずもない。
それどころか、氷室の体重が私の方に掛かってくる。

「…!」

このままだと、後ろに倒れてしまう。
それって、すごく、まずい。

「…ひ、氷室!」

唇が離れた瞬間に、氷室の名前を叫ぶように呼ぶ。
息が上がったまま、倒れないように右手を後ろについて、左手は爆発しそうな心臓を抑えている。
そんな私の様子を見て、氷室は真剣だった表情を優しい笑顔に変えた。

「…あの」
「…もう遅いから、帰ったほうがいいかな。送って行くよ」

氷室は私のおでこにキスをして、机の上を片付ける。
…なんだか、最近こういうことが増えたような。

いやいや、今はそんなことより!





午前中だけで部活が終わった休日。私は買い物に来ていた。

「うーん…」

お店をさまよい始めて早数時間。一向に決まらない。
自分の買い物だったらここまで迷わないけど、今回は迷いに迷っている。
選んでいるのは、今月末に控えた氷室の誕生日のプレゼント。

「……何がいいんだろう…」

高校生男子が欲しがるものなんてまったく思いつかない。
バスケの用具?でもバッシュなんて高いしそれぞれの好き嫌いあるだろうし…。
ダメだ、全然決まらない。

「あれ、じゃねーか」

店と店とを渡り歩いている途中、聞き覚えのある声に呼び止められる。
振り返るとそこには岡村先輩と福井先輩が。

「先輩、どうしたんですか?」
「他の3年部員と部活終わった後一緒に勉強会してたんだよ。その帰り。は買い物か?」
「はい」
「ここ、男物のところじゃろ?」

岡村先輩がそう言うと、福井先輩は「バーカ」と岡村先輩の頭を叩いた。

「…もうすぐ、氷室の誕生日なので」
「おお、なるほど」
「それ以外何があるんだよ…。で、何買うんだ?」
「………」
「決まってねーのか」
「全然決められなくて…。どういうのがいいと思います?」

ここは同じ男子高校生に聞いた方がいいと思い、そう聞くと福井先輩が口を開いた。

「そりゃお前、決まってんじゃねーか」
「?」
「男子高校生が彼女にもらって喜ぶもんって言ったら『私がプレゼント』に決まってんだろ」

人が行き交う大通り、渇いた音が鳴り響く。
鞄で思いっきり福井先輩を叩いたのだ。

「いって!お前先輩に何すんだ!」
「福井先輩がバカなこと言うからじゃないですか!」
「いや、これ絶対ガチだかんな!」

この人はまだ言いますか…!
ただでさえ、最近、その、なんかちょっとアレな雰囲気だし…。

「…もういいです。自分で考えます」
「おう、自分で考えたほうがいいぞー。そのほうが氷室も喜ぶだろ」
「…お前、真面目なアドバイスできるなら最初からしてやらんか…」

福井先輩がひらひら手を振る横で岡村先輩がそう言う。
…うん、やっぱり、自分で考えた方がいいよね。

お礼を言って先輩達と別れて、また一件お店を回る。
何を買おう。







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13.05.03