「あ」
「?」

部活も終わり、辰也の部屋で待ったり中。
辰也が突然声を上げた。

「どうしたの?」
「いや、独り言…アレックスに連絡するの忘れてたなって思って」

アレックス。
前に話を聞いたことがある。辰也がアメリカにいたときにバスケを教わった人だ。
写真も見せてもらったけど、なんていうか…すごい人だ。
彼女を思い出して、つい自分の胸を見る。

………。

?」
「あ、ご、ごめん」
「?」
「あ、その…なんの話するの?」
「オレもタイガもWCに行くよって話をね」
「そっか」
「……」

辰也は私をじっと見つめる。
ど、どうしたんだろう。

「いや、のことも話そうかと思ったけど…やっぱりやめておこうかな」
「?」
「話したらいろいろ面倒なことになりそうだ」

辰也はそう言って苦笑する。

…なんだか、ちょっと寂しい。
紹介されないことじゃなくて(私も家族や中学の友達に辰也のことを話すのはなんだか気恥ずかしいし)、
私の知らない、昔の話をする辰也が。

アレックスさんや大我くんの話をするとき、辰也はいつも少し寂しそうな、切なそうな、懐かしむ表情をする。
私の知らない世界だ。

少し、寂しい。

「紹介するなら、直接会ったときがいい。そのほうが手間も省けるし」
「手間?」
「電話やメールじゃ、がどんな子が伝えられないよ。こんなに可愛いのこと」

そう言われて顔が赤くなる。
そ、そっちですか…。

…うん、確かに、直接会った方がいい。
電話で辰也にとんでもないこと言われて、アレックスさんに期待されて実際会ってがっかりされたら…。

辰也はきっと本気でそう思ってくれているんだろうけど、そこまで自慢されるような彼女じゃないし…。

…本気、だよね。
辰也は、その…私を好きだから、そういうふうに、可愛いと思ってくれてるんだろう。

「……」
「どうしたの?」
「ふふ」

そうだ。好きな人。
私の好きな人が、好きで好きでたまらない人が、私を好きでいてくれている。

「幸せだなーって」

好きな人に好きになってもらうのは、きっとすごく難しい。
こうやって二人で一緒にいるのも、キスをしたり、抱きしめあったりするのも、全部、辰也と両想いになれたから。
だからできることで、それに何より、辰也が私と同じ気持ちであることが、とても嬉しい。

「オレもだよ」
「うん」
「好きだよ」

そう言って辰也はは私にキスをする。
ああ、本当に、幸せだ。










「両想い」
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13.08.08