今日は金曜日。 と中山の週番も終わる。 今日の部活はミーティングだけ。 …多分、もう逃げられない。 ちゃんと話さなきゃいけないだろう。 覚悟を決めなくては。 「あ、、中山、お前らちょっと資料室の整理手伝ってくれ」 放課後のHR、担任にと中山がそう命じられる。 …また、二人の仕事か。 手伝いたいところだけど、ミーティングもあるしそうはいかない。 「」 「あ、辰也。今日も部活遅れちゃう…っていうか、行けないかも…」 「大丈夫だよ、今日はミーティングだけだし。の方が時間掛かりそうだったら手伝うよ」 「ありがと。じゃあ、私できるだけすぐ終わらせるから!」 がぐっと拳を握ってそう言う。 …それが終わったら、話さなくちゃいけない。 「…うん」 そう言っての後ろ姿を見送った。 * ミーティングが終わって、資料室へ向かう。 はまだ終わってないんだろうか。 「辰也!」 「」 資料室へ向かうと、少し興奮したが走ってきた。 「もう終わったの?」 「終わったって言うか、あのね」 「?」 「えっと…」 は何を言おうか戸惑っている感じだ。 珍しい。 …何か、あったのか。 「ねー、今日どこ行く?」 「えっとねー」 「!!」 後ろから一年生の楽しげな声が聞こえてくる。 はやたらとびっくりして、オレの手を握った。 「あ、えっと…と、とりあえず、帰ろう!」 「?」 「話したいことがあるの、二人きりで」 …話。 やっぱり、話さなくちゃいけない。 「…わかった」 * 「…話って?」 自分の部屋に来た。 …わざわざ聞かなくても、わかる。 「…中山に告白されたの」 ああ、やっぱり。 「…中山の気持ち、知ってたの?」 もちろん、知っていたよ。 …気付いていないのは、ぐらいだ。 「…ごめんね」 「が謝ることじゃないよ」 が謝るところなんて何もない。 オレが、いけないんだ。 「悔しかったんだよ」 「?」 「あいつは、オレの知らないを知ってるだろう?」 思ってもみなかったことなんだろう。 は目を丸くする。 「…オレは、7月に会ったときからのしか知らない。たった4か月だ」 「……」 「あいつには、5年以上の思い出があるよ」 言葉にしてみるとなんでもない。 ただ、オレがと会うより前に、中山はと出会っていた。 ただ、それだけだ。 それだけなのに、受け入れられない。 「…情けないだろ。どうしようもない嫉妬だ」 「辰也」 「…でも、どうしても、耐えきれなかった」 「…」 「情けなくて、言えなかった。…嫌な思いを、させたよね」 の髪を撫でると、の瞳から涙が零れた。 とうとう、泣かせてしまった。 罪悪感でいっぱいだ。 「…辰也…」 「ごめんね」 「…バカ」 はぎゅっとオレを抱きしめた。 にしては珍しく、少し、苦しいくらいだ。 「嫌だったよ、だって、何も言ってくれなかった」 「…ごめん」 「話そうとしても全然話してくれなかったし、だから、すごく不安で」 「」 「…情けなくてもいいの。情けなくていいんだよ。だってそうでしょ。かっこいいところばっかりじゃないの、わかってるよ。私は、辰也のこと、全部知りたいよ。何を思ってるか、全部」 にそう言われて、思わずを抱きしめる。 オレのこと、全部。 全部話しても、は、オレを好きでいてくれるだろうか。 「…どうしようもないことばっかりだよ」 「それでもいいの」 「…のね、全部が欲しいんだよ」 「うん」 「の今も、未来も、過去も欲しい」 「…うん」 「……が好きだよ」 「私も、辰也が好きだよ」 「…違うよ。…とは違う。みたいに綺麗な気持ちじゃないんだ」 「辰也」 違う、違うんだよ、とは。 が優しい、柔らかい笑顔でオレを好きだと言ってくれるたびに、すごく嬉しい。 嬉しくなると同時に、どこか苦しくなる。 オレの好きは、きっとのとはどこか違う。 「もっとドロドロしてる。嫉妬で塗れて、汚い感情だ」 「…」 「…とこのまま、二人だけで過ごしたい。誰にも邪魔されない場所で、二人きりでいたい」 「…辰也」 「汚いよ、すごくね」 はボロボロ涙を零しながら、オレにキスをした。 「…やっぱり、一緒だよ」 「」 「私も一緒。私だって、辰也が思ってくれてるような綺麗な想いじゃないよ」 「」 「いっぱい嫉妬するよ、女の子たちにもそうだし、それに…、…辰也が昔の話するの、寂しくなることがあるの」 「…昔?」 「…アメリカにいたときの話」 「…」 「私だって妬くよ。いっぱい妬くの。ずっと一緒にいたい。二人だけで、ずっと一緒にいられたら、ってそう思うよ」 は苦しそうな顔でそう言う。 も、オレと、同じ? 「」 「好きなの、好き。辰也が好き」 「…」 「…っ、好き、好きだよ」 「、もう大丈夫だ。わかったよ」 「わからないよ…っ」 どこか取り乱すをなだめるようにそう言ったけど、は頭を振って強い口調で言う。 「だって、何度言っても足りないの。何回好きって言っても、足りないくらい、好き…」 荒んでいた気持ちが穏やかになっていくのを感じる。 が、大好きなが、必死になってそう言ってくれるから。 泣いているのに不謹慎だけど、嬉しいよ。 こんなに強く思っているのは、オレだけじゃない。 「わかるよ。オレも一緒だから。何度好きだって言っても、キスしても、抱きしめても、足りないくらい好きだよ」 「辰也…」 「ごめんね。たくさんつらい思いをさせた」 「…うん」 「…嫌われると思ったんだ」 「?」 「こんな情けなくて、女々しいこと思ってるって、知られたら」 素直に心の内を告白すると、は苦笑した。 「…嫌いになんてならないよ。辰也がヤキモチ妬きで、女々しくて、情けないの知ってるもん」 そう言われて、思わず目を丸くする。 「…知らないと思った?」 「少し」 「かっこいいところしか見てないで、好きなんて言わないよ」 はオレの頬に手を当てる。 小さな手だ。 「…でもね、素敵なところもいっぱいあるよ」 「…」 「辰也はいつも「そんなことない」って言うけど、たくさんあるよ。優しくて、脆いけど強くて、一生懸命で…。いいところも、ダメなところも、全部好きだよ」 「、ごめん。嫌いになるかもなんて、疑ったりして、ごめん」 「辰也」 「…そうだね。は、そんな軽い気持ちで、オレを好きだって、言ってるわけじゃない」 「…そうだよ、もう」 「うん…」 のことをもう一度抱きしめる。 強く、強く。 「…いつも不安だったんだよ」 「うん」 「わかってるんだ、は嘘吐くような子じゃない。オレのこと好きだって言ってくれるのは本心だって」 「…うん」 「でも、どこかで、がオレから離れるんじゃないかって、不安になるんだ」 が嘘を吐くわけない。 オレのことを好きだって言ってくれるのも、ずっと一緒にいようといってくれるのも、全部本心だってわかってる。 それでも、いつか、オレよりに相応しい奴が現れて、を攫って行ってしまうんじゃないかと。 「離れないよ」 「うん。そうだね」 「絶対だよ。私はどこにも行かないよ。ずっとずっと、辰也の側にいる」 「葵」 「信じられないならね、一生かけて、証明するよ」 が誰かに取られてしまうんじゃないかと、不安に思っていたけど。 でも、違うね。 はオレから離れない。 オレの大好きな、好きで好きでたまらない人は、ずっと、オレの腕の中にいる。 「辰也。これでもう、仲直りだよね」 「うん」 「ケンカしてたわけじゃないけど…仲直り」 「うん」 「…ねえ、私たち、これからもきっと、たくさんケンカするよね」 「…そうだね」 「そしたらまた、仲直りしようね」 「そうだね。仲直りしたら、キスをしよう」 「うん」 「そうしたらまたケンカして、仲直りして、そんなふうに、ずっと一緒にいよう」 「うん」 もう一度キスをする。 唇を離して、もう一度。 何度も、何度も。合わせた唇から、想いが伝わってくるよう。 でも、足りない。 何度キスしても、足りない。想いが溢れて、止まらない。 息が苦しい。でもやめたくない。 このまま、ずっと。 ← top → 13.11.08 |