今日は金曜日。
と中山の週番も終わる。
今日の部活はミーティングだけ。

…多分、もう逃げられない。
ちゃんと話さなきゃいけないだろう。

覚悟を決めなくては。


「あ、、中山、お前らちょっと資料室の整理手伝ってくれ」

放課後のHR、担任にと中山がそう命じられる。
…また、二人の仕事か。
手伝いたいところだけど、ミーティングもあるしそうはいかない。


「あ、辰也。今日も部活遅れちゃう…っていうか、行けないかも…」
「大丈夫だよ、今日はミーティングだけだし。の方が時間掛かりそうだったら手伝うよ」
「ありがと。じゃあ、私できるだけすぐ終わらせるから!」

がぐっと拳を握ってそう言う。
…それが終わったら、話さなくちゃいけない。

「…うん」

そう言っての後ろ姿を見送った。




ミーティングが終わって、資料室へ向かう。
はまだ終わってないんだろうか。


「辰也!」


資料室へ向かうと、少し興奮したが走ってきた。

「もう終わったの?」
「終わったって言うか、あのね」
「?」
「えっと…」

は何を言おうか戸惑っている感じだ。
珍しい。

…何か、あったのか。

「ねー、今日どこ行く?」
「えっとねー」
「!!」

後ろから一年生の楽しげな声が聞こえてくる。
はやたらとびっくりして、オレの手を握った。

「あ、えっと…と、とりあえず、帰ろう!」
?」
「話したいことがあるの、二人きりで」

…話。
やっぱり、話さなくちゃいけない。

「…わかった」






「…話って?」

自分の部屋に来た。
…わざわざ聞かなくても、わかる。

「…中山に告白されたの」

ああ、やっぱり。

「…中山の気持ち、知ってたの?」

もちろん、知っていたよ。
…気付いていないのは、ぐらいだ。

「…ごめんね」
が謝ることじゃないよ」

が謝るところなんて何もない。
オレが、いけないんだ。

「悔しかったんだよ」
「?」
「あいつは、オレの知らないを知ってるだろう?」

思ってもみなかったことなんだろう。
は目を丸くする。

「…オレは、7月に会ったときからのしか知らない。たった4か月だ」
「……」
「あいつには、5年以上の思い出があるよ」

言葉にしてみるとなんでもない。
ただ、オレがと会うより前に、中山はと出会っていた。
ただ、それだけだ。
それだけなのに、受け入れられない。

「…情けないだろ。どうしようもない嫉妬だ」
「辰也」
「…でも、どうしても、耐えきれなかった」
「…」
「情けなくて、言えなかった。…嫌な思いを、させたよね」

の髪を撫でると、の瞳から涙が零れた。
とうとう、泣かせてしまった。
罪悪感でいっぱいだ。

「…辰也…」
「ごめんね」
「…バカ」

はぎゅっとオレを抱きしめた。
にしては珍しく、少し、苦しいくらいだ。

「嫌だったよ、だって、何も言ってくれなかった」
「…ごめん」
「話そうとしても全然話してくれなかったし、だから、すごく不安で」

「…情けなくてもいいの。情けなくていいんだよ。だってそうでしょ。かっこいいところばっかりじゃないの、わかってるよ。私は、辰也のこと、全部知りたいよ。何を思ってるか、全部」

にそう言われて、思わずを抱きしめる。
オレのこと、全部。
全部話しても、は、オレを好きでいてくれるだろうか。

「…どうしようもないことばっかりだよ」
「それでもいいの」
「…のね、全部が欲しいんだよ」
「うん」
の今も、未来も、過去も欲しい」
「…うん」
「……が好きだよ」
「私も、辰也が好きだよ」
「…違うよ。…とは違う。みたいに綺麗な気持ちじゃないんだ」
「辰也」

違う、違うんだよ、とは。
が優しい、柔らかい笑顔でオレを好きだと言ってくれるたびに、すごく嬉しい。
嬉しくなると同時に、どこか苦しくなる。

オレの好きは、きっとのとはどこか違う。

「もっとドロドロしてる。嫉妬で塗れて、汚い感情だ」
「…」
「…とこのまま、二人だけで過ごしたい。誰にも邪魔されない場所で、二人きりでいたい」
「…辰也」
「汚いよ、すごくね」

はボロボロ涙を零しながら、オレにキスをした。

「…やっぱり、一緒だよ」

「私も一緒。私だって、辰也が思ってくれてるような綺麗な想いじゃないよ」

「いっぱい嫉妬するよ、女の子たちにもそうだし、それに…、…辰也が昔の話するの、寂しくなることがあるの」
「…昔?」
「…アメリカにいたときの話」
「…」
「私だって妬くよ。いっぱい妬くの。ずっと一緒にいたい。二人だけで、ずっと一緒にいられたら、ってそう思うよ」

は苦しそうな顔でそう言う。
も、オレと、同じ?


「好きなの、好き。辰也が好き」
…」
「…っ、好き、好きだよ」
、もう大丈夫だ。わかったよ」
「わからないよ…っ」

どこか取り乱すをなだめるようにそう言ったけど、は頭を振って強い口調で言う。

「だって、何度言っても足りないの。何回好きって言っても、足りないくらい、好き…」

荒んでいた気持ちが穏やかになっていくのを感じる。
が、大好きなが、必死になってそう言ってくれるから。
泣いているのに不謹慎だけど、嬉しいよ。
こんなに強く思っているのは、オレだけじゃない。

「わかるよ。オレも一緒だから。何度好きだって言っても、キスしても、抱きしめても、足りないくらい好きだよ」
「辰也…」
「ごめんね。たくさんつらい思いをさせた」
「…うん」
「…嫌われると思ったんだ」
「?」
「こんな情けなくて、女々しいこと思ってるって、知られたら」

素直に心の内を告白すると、は苦笑した。

「…嫌いになんてならないよ。辰也がヤキモチ妬きで、女々しくて、情けないの知ってるもん」

そう言われて、思わず目を丸くする。

「…知らないと思った?」
「少し」
「かっこいいところしか見てないで、好きなんて言わないよ」

はオレの頬に手を当てる。
小さな手だ。

「…でもね、素敵なところもいっぱいあるよ」
「…」
「辰也はいつも「そんなことない」って言うけど、たくさんあるよ。優しくて、脆いけど強くて、一生懸命で…。いいところも、ダメなところも、全部好きだよ」
、ごめん。嫌いになるかもなんて、疑ったりして、ごめん」
「辰也」
「…そうだね。は、そんな軽い気持ちで、オレを好きだって、言ってるわけじゃない」
「…そうだよ、もう」
「うん…」

のことをもう一度抱きしめる。
強く、強く。

「…いつも不安だったんだよ」
「うん」
「わかってるんだ、は嘘吐くような子じゃない。オレのこと好きだって言ってくれるのは本心だって」
「…うん」
「でも、どこかで、がオレから離れるんじゃないかって、不安になるんだ」

が嘘を吐くわけない。
オレのことを好きだって言ってくれるのも、ずっと一緒にいようといってくれるのも、全部本心だってわかってる。
それでも、いつか、オレよりに相応しい奴が現れて、を攫って行ってしまうんじゃないかと。

「離れないよ」
「うん。そうだね」
「絶対だよ。私はどこにも行かないよ。ずっとずっと、辰也の側にいる」
「葵」
「信じられないならね、一生かけて、証明するよ」

が誰かに取られてしまうんじゃないかと、不安に思っていたけど。
でも、違うね。
はオレから離れない。
オレの大好きな、好きで好きでたまらない人は、ずっと、オレの腕の中にいる。

「辰也。これでもう、仲直りだよね」
「うん」
「ケンカしてたわけじゃないけど…仲直り」
「うん」
「…ねえ、私たち、これからもきっと、たくさんケンカするよね」
「…そうだね」
「そしたらまた、仲直りしようね」
「そうだね。仲直りしたら、キスをしよう」
「うん」
「そうしたらまたケンカして、仲直りして、そんなふうに、ずっと一緒にいよう」
「うん」

もう一度キスをする。
唇を離して、もう一度。
何度も、何度も。合わせた唇から、想いが伝わってくるよう。

でも、足りない。
何度キスしても、足りない。想いが溢れて、止まらない。

息が苦しい。でもやめたくない。
このまま、ずっと。







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13.11.08