今すぐ追いかけるべきか。 それともそっとしてくべきなのか。 散々迷った挙句、に電話を掛けた。 『…もしもし』 「」 『う、うん』 「さっきはごめん」 『…うん、いいよ、大丈夫』 は優しい声でそう言う。 …。 「でも…」 『それよりね、ちゃんと話がしたいの。明日、朝練あるでしょ。その前に少し話そう』 「うん…、今どこ?」 『もうすぐ家に着くよ』 「そっか。一人で帰しちゃって、ごめん」 『…いいってば』 「でも」 『あ、それより部室の鍵ちゃんと閉めた?』 の言葉に思わず笑う。 …はこんなときまで、そんなことを心配する。 「…大丈夫」 『よかった。じゃ、明日ね』 「うん」 本当に、バカなことをした。 を悲しませたいわけじゃないんだ。 が好きだよ。大切にしたい。 のことを、幸せにしたいよ。 幸せにしたいけど、きっとこれからもこんなふうにを悲しませるだろう。 のことをたくさん泣かせたり、恐がらせたり。 オレよりのことを幸せにできるやつがいるだろう。 それでも、オレは、 * 次の日、外に出てみれば外は一面銀世界だ。 こっちに来て久しぶりに雪を見たときは心が弾んだけど、もうすっかり慣れてしまった。 歩きにくいな。 との約束だ。 大分早く学校に着くように家を出た。 …全部話せば、楽になるだろうか。 でも、全部話せばが離れるんじゃないかと、不安になる。 女々しくて、情けない、こんな思いを。 「…」 通りの向こうにが見えた。 …隣には、中山だ。 は何か中山に言って、早歩きになる 「あ!」 が転びそうになる。 思わず一歩踏み出すけど、間に合うはずがない。 隣にいた中山がを支える。 「…おはよう」 「おはよう」 二人に追い付いてそう言えば、は気まずそうな顔をする。 「あの、今、転びそうになっちゃって」 「うん。見てたから」 わかってる。でも怒りが抑えられない。 …本当に、バカみたいだ。 * 中山と別れて部室へ。 開口一番に昨日のことを謝った。 「辰也」 「、昨日はごめん」 「大丈夫だよ」 「でも」 「…」 はぎゅっとオレに抱き着く。 思わず一歩下がりそうになる。 「」 「ぎゅってして?」 そう言われて、恐る恐るを抱きしめる。 は逃げない。 少しオレの胸に頬を摺り寄せた。 「ほら、怖くないよ」 「」 「大丈夫だよ」 はいつもの笑顔でそう言う。 …。 「…うん。ありがとう」 の頭を撫でると、少しくすぐったそうな顔をした。 「…辰也、中山のことなんだけどね」 綻んだ心がまた荒むのを感じる。 …自分でも、嫌になる。 「部活の人の方が仲いいけど、辰也、部員にはそんなこと言わないじゃない。どうして中山だけなの?」 「…それは」 「隣の席だし、週番もあるし、友達だし…話さないとか、無理だよ」 今ここで、全部言ったら。 どうなるだろうか。 はオレを嫌いになるかな。 それとも、全部受け入れてくれるんだろうか。 はきっと、受け入れてくれる。 優しい子だから。 わかってるよ。 でも、不安になる。 もし、ダメだったら、嫌われたら。 「辰也」 「おお、お前ら早いな」 「!」 言い淀んでいると、部室のドアが開いて、岡村さんがやってくる。 もう、みんなが来る時間だ。 には悪いけど、少しホッとした。 * 「ずいぶん急だなあ」 家族からの電話を切ってため息を吐く。 今日は親戚の用事で早く帰ってこいと。 部活を休むのは嫌だけど、仕方ない。 監督と主将に今日は部活を休むと伝え、にもそう言った。 「帰り、送ってあげられなくてごめんね。…アツシにでも、送ってもらって」 「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」 「ダメ。もう日が沈むの早いんだから」 「…はーい」 は残念そうな顔をする。 多分、帰りに話をしようと思っていたんだろう。 …これじゃ、逃げてるみたいだ。 いや、逃げてるのか。 ← top → 13.11.08 |