今すぐ追いかけるべきか。
それともそっとしてくべきなのか。

散々迷った挙句、に電話を掛けた。

『…もしもし』

『う、うん』
「さっきはごめん」
『…うん、いいよ、大丈夫』

は優しい声でそう言う。


「でも…」
『それよりね、ちゃんと話がしたいの。明日、朝練あるでしょ。その前に少し話そう』
「うん…、今どこ?」
『もうすぐ家に着くよ』
「そっか。一人で帰しちゃって、ごめん」
『…いいってば』
「でも」
『あ、それより部室の鍵ちゃんと閉めた?』

の言葉に思わず笑う。
はこんなときまで、そんなことを心配する。

「…大丈夫」
『よかった。じゃ、明日ね』
「うん」

本当に、バカなことをした。
を悲しませたいわけじゃないんだ。
が好きだよ。大切にしたい。

のことを、幸せにしたいよ。

幸せにしたいけど、きっとこれからもこんなふうにを悲しませるだろう。
のことをたくさん泣かせたり、恐がらせたり。
オレよりのことを幸せにできるやつがいるだろう。

それでも、オレは、





次の日、外に出てみれば外は一面銀世界だ。
こっちに来て久しぶりに雪を見たときは心が弾んだけど、もうすっかり慣れてしまった。
歩きにくいな。

との約束だ。
大分早く学校に着くように家を出た。

…全部話せば、楽になるだろうか。
でも、全部話せばが離れるんじゃないかと、不安になる。

女々しくて、情けない、こんな思いを。


「…

通りの向こうにが見えた。
…隣には、中山だ。

は何か中山に言って、早歩きになる

「あ!」

が転びそうになる。
思わず一歩踏み出すけど、間に合うはずがない。
隣にいた中山がを支える。

「…おはよう」
「おはよう」

二人に追い付いてそう言えば、は気まずそうな顔をする。

「あの、今、転びそうになっちゃって」
「うん。見てたから」

わかってる。でも怒りが抑えられない。
…本当に、バカみたいだ。






中山と別れて部室へ。
開口一番に昨日のことを謝った。

「辰也」
、昨日はごめん」
「大丈夫だよ」
「でも」
「…」

はぎゅっとオレに抱き着く。
思わず一歩下がりそうになる。


「ぎゅってして?」

そう言われて、恐る恐るを抱きしめる。
は逃げない。
少しオレの胸に頬を摺り寄せた。

「ほら、怖くないよ」

「大丈夫だよ」

はいつもの笑顔でそう言う。


「…うん。ありがとう」

の頭を撫でると、少しくすぐったそうな顔をした。

「…辰也、中山のことなんだけどね」

綻んだ心がまた荒むのを感じる。
…自分でも、嫌になる。

「部活の人の方が仲いいけど、辰也、部員にはそんなこと言わないじゃない。どうして中山だけなの?」
「…それは」
「隣の席だし、週番もあるし、友達だし…話さないとか、無理だよ」

今ここで、全部言ったら。
どうなるだろうか。
はオレを嫌いになるかな。
それとも、全部受け入れてくれるんだろうか。

はきっと、受け入れてくれる。
優しい子だから。
わかってるよ。
でも、不安になる。
もし、ダメだったら、嫌われたら。


「辰也」
「おお、お前ら早いな」
「!」

言い淀んでいると、部室のドアが開いて、岡村さんがやってくる。
もう、みんなが来る時間だ。

には悪いけど、少しホッとした。



「ずいぶん急だなあ」

家族からの電話を切ってため息を吐く。
今日は親戚の用事で早く帰ってこいと。
部活を休むのは嫌だけど、仕方ない。

監督と主将に今日は部活を休むと伝え、にもそう言った。

「帰り、送ってあげられなくてごめんね。…アツシにでも、送ってもらって」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「ダメ。もう日が沈むの早いんだから」
「…はーい」

は残念そうな顔をする。
多分、帰りに話をしようと思っていたんだろう。
…これじゃ、逃げてるみたいだ。

いや、逃げてるのか。








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13.11.08