「かんぱーーい!」

12月の終わり。
部活もさすがに年末と言うことでしばらくお休み。

今日は、引退する三年生のお別れ会だ。

「とりあえず豚玉だな」
「オレキムチ入ってるやつがいい〜」
「あと明太チーズもちもんじゃな!」

学校の近くにあるお好み焼き屋。
そこでささやかながらパーティだ。

焼いてくれよ」
「え?」
「野郎が焼くより女子が焼いた方がいいだろ」

福井先輩に豚玉の入ったボウルを渡される。
焼けなくはないけど、そう言われると緊張する…。

「え〜ちんが焼いたらだめだよ〜」

油を引いて焼こうとすると、敦が口を挟んできた。

「なんで?そこまで下手じゃないと思うよ」
「だってちんが焼いたやつ、絶対室ちんほかの男に食べさせないでしょ」
「そ、そんなこと」
「よくわかってるね、アツシ」

「そんなことないでしょ」と言おうとしたら、辰也がすかさず敦に同意してしまった。
…辰也…。

「だからはい。福井ちんやってね」
「おいいい!オレ先輩だからな!っつーかオレらの送別会だからな!」

敦は私の手からボウルを奪うと福井先輩に渡してしまう。
今日のメインは三年生なんだから、彼らにやらせるわけにはいかない。

「氷室、お前やれ」
「オレですか?…どうやるんですか?」
「ああ、そっか。やったことねーか」
「食べたことはありますけど…」

辰也がそう言うので、メニューの隣にある作り方の書いてある紙を渡す。

「こうやるの」
「こう?」
「そ、そんな高い位置からやらなくていいから!」
「ていうかもっと頼んだ方がよくなーい?どうせみんなすぐ食べるでしょ」
「デラックス玉食べたいアル」
「オレはおやつ食べたい〜」
「お前らワシらの希望は聞かんのか!?」

そんなふうにみんなでわいわい盛り上がる。
時間はあっと言う間に過ぎていった。





「はー食った食った」
「ごちそうさまです」

机の上にはたくさんのお皿が乗っている。
みんな、本当によく食べるなあ。

「なあ敦、そういや前にやってたゲームってまだやってんのか?」

福井先輩が突然切り出す。

「ゲーム?」
「氷室とが結婚してるやつ」

その言葉にぽっと顔が赤くなる。
あ、あれか…。

「あるよ〜今も持ってる。はいこれ」
「おー」

敦は福井先輩にゲーム機を渡す。

「あれ、が抱っこしてるのってこの間生まれた奴?」
「ううん、あの子はもう大きくなったから〜。その子三人目」
「三人!?」
「うん。ちんがこどもほしいって言うから室ちんが張り切っちゃって」
「あ、敦!!」

敦がそんなふうにいうものだから恥ずかしくて大声を出す。
ゲームの中だとわかってはいるけど…!

「あ、泣き出しちゃった。ちんはい」
「え?」
「ゲーム機振って泣き止ませてね〜」
「え、え!?」

ゲームの画面の中では赤ちゃんが泣いている。
どうやら上下に振ると赤ちゃんをあやせるようだ。

「え、えーと…よしよし」

よくわからないけど、とりあえずあやしてみる。
こ、こうでいいのかな…。

「そーそー、そんな感じ」

敦が横から覗き込んでくる。
あ、笑った。

「…かわいい」

ぽつりと呟く。
…かわいい。

「可愛いね」

辰也が私の肩を抱く。
わっ。

「オレとの子供だ」
「い、いやいや、あの、ゲームだから!…って、あ!」

辰也に気を取られていると、赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。
ああ、また泣き出しちゃった…!

「ほら〜お父さんとお母さんがイチャイチャして子供のこと放っておいたらダメだよ〜」
「あ、えっと…よしよし」

もう一度赤ちゃんをあやす。
あ、よかった。また笑った。

「ふふ」
ちん、お母さんの顔〜」
「え?」

敦はそう言うと私からゲーム機を取る。
どうやら赤ちゃんをあやすのは成功しようだ。

「室ちんとちんに赤ちゃん産まれたらオレお兄ちゃんだ」
「オレは伯父ちゃんか」
「ワシはじいさんか」
「ワタシ叔父さんアル」

みんなが口々にそう言う。
…じゃあ、ここにはいないけど、監督が伯母さんだ。

「マジに二人に子供産まれたら岡村号泣しそうだなー」
「もう泣いてるアル」
「はえーよ!」

岡村先輩は目頭を押さえている。
な、泣いているんだろうか…。

「お、岡村先輩」
「今は話しかけんでくれ…」

鼻水をすする音まで聞こえてくる。
…こ、ここまで…。

「ゲームでこれじゃ本当に結婚したらゴリラどうするアル」
「うう…」
「……」
「福井先輩?」

泣いてる岡村先輩の横で、福井先輩が真剣な顔になる。

「やべ、オレも寂しいかも」
「ふ、福井先輩まで…」
「なんか、妹が嫁に行くってこんな感じなんかな…」

福井先輩がじっと私を見つめる。
胸がきゅんとなる。

「大丈夫ですよ、幸せにしますから」

辰也が福井先輩にそう言う。
恥ずかしくて「バカ」と言おうとしたら、辰也の顔があまりに優しくて、言えなくなってしまった。

「…辰也」
「幸せにするよ」

優しく頬を撫でられて、胸が弾む。

「…私」
「?」
「今、幸せだよ」

辰也の手をぎゅっと握る。
辰也は私を幸せにするって言うけど、私、今、幸せだよ。


「…ぐずっ」

辰也の優しい声の後、盛大に鼻をすする音がした。
…岡村先輩だ…。

「せ、先輩。そんなに泣かないでください」

そう言ってティッシュを渡す。
岡村先輩…。

「すまん…が嫁に行くかと思うと…いや幸せになるならいいんじゃ…」
「落ち着けって。本当に嫁に行くわけじゃねーんだから」

隣にいる福井先輩が岡村先輩をなだめる。

はワシの娘みたいなもんじゃ…」

岡村先輩は私の渡したティッシュで盛大に鼻をかむ。
…娘かあ。
敦をじっと見つめた。

「?なーに?」
「…私も敦が結婚したら泣いちゃうかも」

敦は私の子供ではないんだけど、こう、なんとなく。
敦が結婚するところを想像したら、なんだか涙が出そうになる。

「まだオレは結婚しないよ〜16だし」
「そうだけど…」
「結婚したら報告するねえ」

…敦が結婚かあ…。
……。
あ、なんか。

、泣きそうだ」
「…な、泣かない」
「泣きそうアル」
「泣かない!」
ちん、オレに幸せになるね」

そう言われて、目の前が涙で歪んだ。

「あーあ、泣き出したアル」
「な、泣いてない!泣いてないから!」
「泣いてるじゃねーか」
「泣いてません!」
!ワシの気持ちわかってくれるか!」
「泣いてませんってば!」
「アツシは手のかかる子だったからね…」
「辰也!」

辰也はいいながら私の涙を拭う。

「まあ冗談は置いといてよ」

福井先輩が一息ついたあとにそう切り出す。

「みんないつかホントに結婚とかすんだよなあ…」
「そうじゃなあ…」
「いきなりどうしたアル」
「こうやって引退するとよ、なんかしんみりするっつーか」
「そういうものアルか」
「もうすぐ高校生活が終わるからのう…」

岡村先輩と福井先輩の言葉に切なくなる。
二人だけじゃなく、三年生は引退して、あと三ヶ月で卒業する。
就職する人、進学する人、その中でも地元に残ったり上京したり、みんなそれぞれの道を歩み始める。

私たち二年生も、あと一年でそうなるんだ。
そうしたら、あっという間に卒業して、進学して、就職して…。

「おめーら結婚するときはちゃんと連絡しろよ」
「はい、もちろん」
「いや、は心配してねーお前だよお前」
「オレ〜?」

福井先輩は敦を指さす。
…確かに。

「多分連絡するよ〜」
「多分かよ!」
「まーするかもわかんないじゃん。特にゴリラ」
「うううううるさいわい!」
「ま、いつかの話だからな」

そんな話をしながら時間は過ぎていく。
お店を出る時間になってしまった。






「これで本当に最後じゃな」

お店の外。
岡村先輩がそう言うので、また泣きそうになってしまう。

ちん泣き虫だね」
「だ、だって」

服の袖を掴んで泣くのを我慢する。
あんまりみんなの前で泣きたくない…。

「お前ら、なにしてる」

和みムードの中、突然ピリッとした声が響き渡る。
…この声は。

「か、監督」

振り返ると監督がいる。
いや、別に緊張する必要はないんだけど。
悪いことしてるわけじゃないんだし…。

「…送別会か」
「そうです」
「今終わったところか」
「はい」
「そうか」
「……」
「あれ」
「なんだ」
「いや、お説教されるかと」
「してほしいのか?」
「いやいやいや!全然!まったく!」

岡村先輩と福井先輩が慌てて否定する。
…まあ、確かに私も怒られるのかとちょっと思ったけど。

「別に遅い時間でもないし怒る理由はないさ。ただし騒ぐなよ」
「はい!」
「…

ホッとする部員の中、監督が私に一歩近づいてきた。

「なんですか?」
「泣いてたのか?」
「あ…」

多分、目が赤くなってしまっているんだろう。

「…寂しいですから。なんだか、家族みたいでしたし」
「…お母さんは大変だな」
「監督、覚えてたんですか」

数か月前、家族に例えたこと。
監督も覚えていたとは思わなかった。

「覚えているさ。全部、覚えているよ」

監督は目を細めてそう言う。
…監督も、きっと、寂しいんだ。

「…しばらく寂しくなるな」
「…はい」
「まあすぐに騒がしくなるさ。新入生も入るし」
「そうですね」
「新入生が入ったらは子沢山だな」
「も、もうそのネタはいいです…」

監督がからかうように笑うから、顔が赤くなる。
子沢山って…。

「もう暗いからそろそろ帰れ。おい氷室!」
「はい?」

監督は部員と雑談していた辰也を呼ぶ。

「送っていってやれ、『お父さん』」
「か、監督!」

監督の言葉に辰也は目を丸くして、すぐに微笑んだ。

「はい」

も、もう、みんな…。
赤くなった頬を押さえていると、先輩たちが近づいてきた。

「またな」
「…はい」
「んな寂しそうな顔すんなって。別に一生の別れじゃねーんだから」
「たまには部活にも顔出すぞ」
「はい。ありがとうございました」

そう言って頭を下げる。
やっぱりだめだ。
涙が溢れてきてしまう。



辰也がよしよしと頭を撫でてくれる。
深呼吸して、顔を上げた。

「よいお年を」
「ああ、またな」





「ちょっと悔しいな」
「?」

帰り道、辰也がそう呟く。

の泣き顔を見るのは、オレだけの特権かと思っていたから」
「…だって」
「わかってる。寂しいんだろ?」
「…うん」

辰也は小さい声で呟いた。

「…寂しいね」

先輩たちが引退した。
あと一年もすれば、私たちがそうなる。
…あと一年。

「…ずっと」
「?」
「ずっと一緒にいようね」
「うん」

先輩たちはあと三ヶ月で卒業だ。
就職する人、進学する人、地元に残る人、上京する人。

ぎゅっと辰也の手を握った。
…ずっと、一緒だよ。















陽泉バスケ部はいつまでも仲良しです
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14.02.07





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