「あと五分だね」

あと五分で、今年が終わる。
リビングでこたつに入りながら、家族で年越しを待つ。

一年、早かったな。
特に後半はあっと言う間だった。

「来年はも三年生ね」
「うー…」

母親の言葉にうなだれる。
三ヶ月もすれば受験生だ。
気が重い…。

「!」

そんな話をしていると、机に置いてあった携帯が震える。
辰也から電話だ。

「え」

まさかリビングで出るわけにも行かず、慌てて自分の部屋に駆け込んだ。



「もしもし?」
『ああ、。今平気?』
「うん、まあ…」
『よかった。もうすぐ今年が終わるからさ』
「?」
『一年の最後に聞く声も、最初に聞く声も、がいいんだ』

胸の奥が、きゅんとなった。
辰也はいつも、私の心をそうさせる。

「…バカ…」
は思わなかった?』
「…思った」
『一緒だ』

辰也の優しい笑い声が聞こえる。
…こうやって話すだけじゃなく、顔が見たい。

…会いたい、な。

『あ、もう終わる』
「え、あ」
『あと10秒だ』
「うそ!」
『5、4、3…』

辰也がカウントダウンを始める。
今年が終わる。

辰也と出会った、この年が。


『あけましておめでとう』
「おめでとう。今年もよろしくね」
『こちらこそ』

新しい一年が始まった。
最初に聞いた声が、辰也の声だ。

『初詣、予定通りでいい?』
「うん。平気」
『時間にそっちに行くから』

今日は辰也と初詣の約束をしている。
近所の小さい神社だけど。

『初詣なんて久しぶりだ』
「そっか。ちゃんとお参りできる?」
『…多分』
「ふふ」

他愛無い会話を続ける。
素敵な一年の始まりだ。

『そろそろ切るね。名残惜しいけど』
「うん…」
『来年は電話じゃなくて、一緒にいたいな』
「い、一緒…」
『難しい?』
「う、うーん…親になんて言えば…」
『じゃあ、その次だ』

その次。
その次の年は。

?』
「…あ、えっと…その次は、卒業してるね」
『うん』
「…一緒にいようね」
『もちろん』

そう言って電話を切った。
…もうすぐ高校三年生、受験生だ。
そしたらきっと、あっという間に卒業することになって。

…ずっと、辰也に聞けていないことが一つだけある。
怖くて、聞けない。

「…ずっとだよ」

ずっと、一緒にいたいな。













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14.02.21