家に帰って、とりあえず制服から着替える。 辰也はちょっと買い物へ。 何しろいきなりなものだから、泊まる用意なんて何もしていない。 「え、えーと、何するんだっけ…」 リビングでうろうろしながら呟く。 部屋の片付け? でも私の部屋は今のところ片づいてるし、リビングもお母さんがいつも綺麗にしてくれている。 そ、そうだ。ご飯作らなくちゃ! あ、でも、コンビニ遠いから辰也が帰ってくるまでちょっと時間かかるし、それに辰也に何食べるか聞いたほうがいいのかな。 とは言っても材料的にも私の腕的にもそんなにレパートリーはないけど…。 じゃあ、ほか。ほかのすること。 そうだ、お風呂掃除して沸かさなきゃ! 「……」 違う!お風呂ってそうじゃない!いやお風呂は沸かさなきゃいけないんだけど! 「わっ!」 そんなことを考えながらうろうろしていたら、ゴミ箱に躓いた。 「……」 …何やってるんだろう、私。 「とりあえず、お風呂掃除しよう…」 ゴミを拾って、そう呟いた。 * 「うーん…」 お風呂掃除し、沸くのを待つだけ。 あとは、夕飯。 お正月ということもあって、冷蔵庫の中にはそんなにものはない。 夕飯は、無難にスパゲッティかなあ。 「あ」 玄関のチャイムが鳴る。 辰也だ。 インターホンを確認して、玄関の鍵を開けに行く。 「ちょっと待ってね」 『うん』 鍵を開けて、ドアを開ける。 「お帰りなさい!」 反射的にそう言って、固まる。 ち、違う!お帰りなさいじゃない!ここは辰也の家じゃない! 「ただいま」 「え、え、わっ!な、何!?」 辰也が抱きついてくる。 え、え!? 「何って、ただいまのキス」 「!」 「してくれないの?」 そう言われて、顔が赤くなる。 ぎゅっと辰也の腕を掴んだ。 「……」 私は少し背伸びをして、辰也は少し屈んで、キスをした。 「ただいま」 「…おかえりなさい」 ただいまの、キス。 なんだか、すごく。 「……」 頬を手で押さえる。 すごく、熱い。 「?」 「え、あ、そ、そうだ。ご飯、何がいい?スパゲッティくらいしかできないけど…」 そう言うと辰也は目を丸くする。 「が作るの?」 「うん、一応…」 辰也の顔がぱあっと明るくなる。 こ、これは…。 「やった」 「や、やったって、そんなにうまくないからね?」 「のお弁当、いつもおいしいよ」 辰也は本当に、本当に嬉しそうな顔でそう言う。 確かにいつもお弁当おいしいって言ってくれてるけど…。 「が、頑張ります…」 …失敗は、許されない。 * 「よ、よし…」 ドキドキしながら台所に立つ。 だ、大丈夫。一応週に一回ぐらいは料理してるし。 「、手伝おうか?」 「え?」 気合いを入れていると、リビングから辰也がやってきた。 い、いいのかな。 でもお客様扱いもなんだし…。 「じゃあ、サラダ作ってくれる?」 「うん。それなりにできるから安心して」 「ふふ」 辰也はそう言うと手を洗ってテキパキ準備を進めていく。 どうやら本当みたいだ。 …これは、本当に失敗は許されない…。 「辰也、いっぱい食べるよね。このぐらい?」 「うーん…どうだろ。もうちょっと」 スパゲッティを量りに乗せる。 辰也は意外とたくさん食べるから、量を作らないと。 「このぐらいかなあ」 「うん。楽しみだ」 「……」 辰也はそう言って優しく微笑む。 辰也はよく笑うけど、なんだかいつもと違って見える。 「?」 「えっ、あ」 隣にいる辰也を見て、いろいろ考えてしまった。 一緒にキッチンに立って、二人で料理をして、なんだか、その。 「だ、大丈夫」 「そう?」 「うん!スパゲッティゆでなきゃ」 今日の私はどうしたんだろう。 頭がふわふわして、浮ついて、とにかく辰也のことばかり考えてしまって。 辰也のことで頭がいっぱいなのはいつものことだけど、それ以上に、いろんな妄想をしてしまう。 こうやって、辰也が帰って来るのを待ったり、一緒に台所に立ったりすると、どうしても、考えてしまう。 * 「いただきます!」 「いただきます」 出来上がったサラダとペペロンチーノ。 辰也と隣同士に座って、夕飯だ。 「おいしい!」 「ありがと」 辰也は本当、毎回私のお弁当を食べるたびにそう言ってくれる。 それが嬉しくて嬉しくて、また次も、と思う。 「……」 不思議な感じだ。 辰也と二人きりで、私の家で、ご飯を食べている。 心臓がドキドキ言って、張り裂けそうだ。 「?」 「え?」 「さっきから全然食べてない」 「あ…」 辰也は私の頬を撫でる。 また、心臓が跳ねた。 「…胸、が」 「?」 「胸がいっぱい、で」 そう言うと辰也は私を抱き寄せた。 「辰也、私」 「うん」 「何か今、すごくね」 「うん」 「…幸せなの、わかる?」 「わかるよ」 二人とも、言わない。 今、何を考えているかわかっているけど、言わない。 言ってしまうと、それこそただの幻想だとわかってしまうような気がして。 「、食べよう?」 「…うん」 「食べたら、また、一緒に片付けをしよう」 「うん」 そう言って、手をぎゅっと握る。 ねえ、いつか、こんな日々が、ずっと続くようになるよね。 ← top → 14.03.07 |