家に帰って、とりあえず制服から着替える。
辰也はちょっと買い物へ。
何しろいきなりなものだから、泊まる用意なんて何もしていない。

「え、えーと、何するんだっけ…」

リビングでうろうろしながら呟く。
部屋の片付け?
でも私の部屋は今のところ片づいてるし、リビングもお母さんがいつも綺麗にしてくれている。
そ、そうだ。ご飯作らなくちゃ!
あ、でも、コンビニ遠いから辰也が帰ってくるまでちょっと時間かかるし、それに辰也に何食べるか聞いたほうがいいのかな。
とは言っても材料的にも私の腕的にもそんなにレパートリーはないけど…。

じゃあ、ほか。ほかのすること。
そうだ、お風呂掃除して沸かさなきゃ!

「……」

違う!お風呂ってそうじゃない!いやお風呂は沸かさなきゃいけないんだけど!

「わっ!」

そんなことを考えながらうろうろしていたら、ゴミ箱に躓いた。

「……」

…何やってるんだろう、私。


「とりあえず、お風呂掃除しよう…」

ゴミを拾って、そう呟いた。





「うーん…」

お風呂掃除し、沸くのを待つだけ。
あとは、夕飯。
お正月ということもあって、冷蔵庫の中にはそんなにものはない。
夕飯は、無難にスパゲッティかなあ。

「あ」

玄関のチャイムが鳴る。
辰也だ。
インターホンを確認して、玄関の鍵を開けに行く。

「ちょっと待ってね」
『うん』

鍵を開けて、ドアを開ける。

「お帰りなさい!」

反射的にそう言って、固まる。
ち、違う!お帰りなさいじゃない!ここは辰也の家じゃない!

「ただいま」
「え、え、わっ!な、何!?」

辰也が抱きついてくる。
え、え!?

「何って、ただいまのキス」
「!」
「してくれないの?」

そう言われて、顔が赤くなる。
ぎゅっと辰也の腕を掴んだ。

「……」

私は少し背伸びをして、辰也は少し屈んで、キスをした。

「ただいま」
「…おかえりなさい」

ただいまの、キス。
なんだか、すごく。

「……」

頬を手で押さえる。
すごく、熱い。

?」
「え、あ、そ、そうだ。ご飯、何がいい?スパゲッティくらいしかできないけど…」

そう言うと辰也は目を丸くする。

が作るの?」
「うん、一応…」

辰也の顔がぱあっと明るくなる。
こ、これは…。

「やった」
「や、やったって、そんなにうまくないからね?」
のお弁当、いつもおいしいよ」

辰也は本当に、本当に嬉しそうな顔でそう言う。
確かにいつもお弁当おいしいって言ってくれてるけど…。

「が、頑張ります…」

…失敗は、許されない。






「よ、よし…」

ドキドキしながら台所に立つ。
だ、大丈夫。一応週に一回ぐらいは料理してるし。

、手伝おうか?」
「え?」

気合いを入れていると、リビングから辰也がやってきた。
い、いいのかな。
でもお客様扱いもなんだし…。

「じゃあ、サラダ作ってくれる?」
「うん。それなりにできるから安心して」
「ふふ」

辰也はそう言うと手を洗ってテキパキ準備を進めていく。
どうやら本当みたいだ。
…これは、本当に失敗は許されない…。

「辰也、いっぱい食べるよね。このぐらい?」
「うーん…どうだろ。もうちょっと」

スパゲッティを量りに乗せる。
辰也は意外とたくさん食べるから、量を作らないと。

「このぐらいかなあ」
「うん。楽しみだ」
「……」

辰也はそう言って優しく微笑む。
辰也はよく笑うけど、なんだかいつもと違って見える。

?」
「えっ、あ」

隣にいる辰也を見て、いろいろ考えてしまった。
一緒にキッチンに立って、二人で料理をして、なんだか、その。

「だ、大丈夫」
「そう?」
「うん!スパゲッティゆでなきゃ」

今日の私はどうしたんだろう。
頭がふわふわして、浮ついて、とにかく辰也のことばかり考えてしまって。

辰也のことで頭がいっぱいなのはいつものことだけど、それ以上に、いろんな妄想をしてしまう。
こうやって、辰也が帰って来るのを待ったり、一緒に台所に立ったりすると、どうしても、考えてしまう。






「いただきます!」
「いただきます」

出来上がったサラダとペペロンチーノ。
辰也と隣同士に座って、夕飯だ。

「おいしい!」
「ありがと」

辰也は本当、毎回私のお弁当を食べるたびにそう言ってくれる。
それが嬉しくて嬉しくて、また次も、と思う。

「……」

不思議な感じだ。
辰也と二人きりで、私の家で、ご飯を食べている。

心臓がドキドキ言って、張り裂けそうだ。

?」
「え?」
「さっきから全然食べてない」
「あ…」

辰也は私の頬を撫でる。
また、心臓が跳ねた。

「…胸、が」
「?」
「胸がいっぱい、で」

そう言うと辰也は私を抱き寄せた。

「辰也、私」
「うん」
「何か今、すごくね」
「うん」
「…幸せなの、わかる?」
「わかるよ」

二人とも、言わない。
今、何を考えているかわかっているけど、言わない。

言ってしまうと、それこそただの幻想だとわかってしまうような気がして。


、食べよう?」
「…うん」
「食べたら、また、一緒に片付けをしよう」
「うん」

そう言って、手をぎゅっと握る。
ねえ、いつか、こんな日々が、ずっと続くようになるよね。









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14.03.07