「は、早く帰らなきゃ」 「、あんまり早く歩くと転ぶよ」 積もった雪道、辰也の家からの帰り道。 遅くなってしまったから、早く帰らないと。 「遅くなるってメールしたんだろ?」 「うん、一応…」 連絡はしてるけど、今日は本当に遅くなってしまった。 ちょっとまずい。 「はあ…」 辰也は大きくため息を吐いた。 「?どうしたの?」 「…一日ずっと、一緒にいられたらいいなって思っただけ」 辰也は繋いだ手に力を込めた。 「仕方ないよ、高校生だもん」 まだ私も辰也も高校生。 ちゃんと帰らないと。 「……」 「辰也?」 「そうだね。まだ高校生か…」 辰也は少し目を瞑った。 「…でも、もう、子供じゃない」 辰也は少し悲しげな瞳でそう言った。 「…アレックスはすぐ子供扱いするから」 「…」 「だからすぐキスして来ようとするんだよ、女子供にしかしないって言ってさ。もう子供じゃないって言ってるのに」 辰也の表情はすごく複雑だ。 悲しいような、懐かしむような、怖がるような。 「…辰也」 言葉が出て来なかった。 何を言えばいいかわからなくて、思わず名前を呼んだ。 「辰也」 「…うん」 なぜだろう。なんだか、胸が苦しい。 「…早く、ずっと一緒にいられるようになりたいな」 辰也が呟く。 夜になっても帰らなくていいように、ずっとずっと一緒にいられるように。 早く大人になりたいと、そう思う。 もう子供と言えるような子供ではないけれど、まだ大人でもない。 …いや、まだ、子供なのかな。 なんだか、わからない。 * 「じゃ、おやすみ」 「うん。また明日」 家まで着いて、バイバイのキスをして、辰也と別れる。 恐る恐る、家に入った。 「…ただいまー」 「お帰りなさい。遅かったわね」 「う、うん。ごめんなさい」 「いいわよ、ちゃんと連絡してくれたし」 「うん…」 少し申し訳ない気分になる。 その、あまり、言えるようなことをしていたわけじゃないし…。 「遅くなる時は今日みたいにちゃんと連絡しなさいね。心配になるから」 「……」 「?」 「あ、うん。わかってる」 お母さんにそう言って、私は自分の部屋に入った。 …心配か。当たり前だ。 心配になるはずだ。 だって、子供なんだから。 ← → 14.05.23 |