「は、早く帰らなきゃ」
、あんまり早く歩くと転ぶよ」

積もった雪道、辰也の家からの帰り道。
遅くなってしまったから、早く帰らないと。

「遅くなるってメールしたんだろ?」
「うん、一応…」

連絡はしてるけど、今日は本当に遅くなってしまった。
ちょっとまずい。

「はあ…」

辰也は大きくため息を吐いた。

「?どうしたの?」
「…一日ずっと、一緒にいられたらいいなって思っただけ」

辰也は繋いだ手に力を込めた。

「仕方ないよ、高校生だもん」

まだ私も辰也も高校生。
ちゃんと帰らないと。

「……」
「辰也?」
「そうだね。まだ高校生か…」

辰也は少し目を瞑った。

「…でも、もう、子供じゃない」

辰也は少し悲しげな瞳でそう言った。

「…アレックスはすぐ子供扱いするから」
「…」
「だからすぐキスして来ようとするんだよ、女子供にしかしないって言ってさ。もう子供じゃないって言ってるのに」

辰也の表情はすごく複雑だ。
悲しいような、懐かしむような、怖がるような。

「…辰也」

言葉が出て来なかった。
何を言えばいいかわからなくて、思わず名前を呼んだ。

「辰也」
「…うん」

なぜだろう。なんだか、胸が苦しい。

「…早く、ずっと一緒にいられるようになりたいな」

辰也が呟く。
夜になっても帰らなくていいように、ずっとずっと一緒にいられるように。
早く大人になりたいと、そう思う。

もう子供と言えるような子供ではないけれど、まだ大人でもない。
…いや、まだ、子供なのかな。
なんだか、わからない。





「じゃ、おやすみ」
「うん。また明日」

家まで着いて、バイバイのキスをして、辰也と別れる。
恐る恐る、家に入った。

「…ただいまー」
「お帰りなさい。遅かったわね」
「う、うん。ごめんなさい」
「いいわよ、ちゃんと連絡してくれたし」
「うん…」

少し申し訳ない気分になる。
その、あまり、言えるようなことをしていたわけじゃないし…。

「遅くなる時は今日みたいにちゃんと連絡しなさいね。心配になるから」
「……」
?」
「あ、うん。わかってる」

お母さんにそう言って、私は自分の部屋に入った。
…心配か。当たり前だ。
心配になるはずだ。
だって、子供なんだから。






 
14.05.23