「じゃあ、お前ら元気でな」 アレックスさんがこっちに来て、一週間が経った。 今日、アレックスさんはロスに帰る。 「アレックスさん…」 「とももっといろいろ話したかったけどなー」 アレックスさんは私の頭を乱暴に撫でる。 授業や部活があったから、アレックスさんとはそんなにたくさん会えてはいない。 合間合間に会ったりしてお話したけど、私ももっと話したかったなと思う。 「タツヤ、のこと大切にするんだぞ」 「もちろん」 「ホントか〜?」 アレックスさんはいたずらっぽく笑う。 少し、懐かしむような目で。 「疑ってる?」 「…いいや。疑ってるわけじゃないさ」 アレックスさんは表情を優しいものに変えた。 「お前は好きなものにまっすぐだからなあ」 「……」 「まっすぐ過ぎて、好きなもののためにぶつかっていくだろ。自分が傷ついてもな。それがな、怖いんだよ。ちゃんと自分を大切にしろ。お前に何かあったら、家族や友達が悲しむし、私だって悲しい。それに、お前が一番大切に思ってるが、とても悲しむことなる」 アレックスさんの言葉に、辰也は俯いてしまった。 「そういうことも含めて言ってるんだよ」 「…わかってるよ」 「を悲しませるなよ。ちゃんと大切にしろ」 アレックスさんはわしゃわしゃと辰也の頭を撫でて、ぎゅっと抱きしめた。 お別れのハグだ。 「でっかくなったなあ」 「うん」 「じゃあな」 アレックスさんは辰也から体を話すと、今度は私の方を向いた。 「、タツヤのことよろしくな」 「…はい」 「今度は二人でロスに来い。案内するよ」 「はい!」 「タツヤが迷子になって泣きそうになった道とか教えてやるぞ」 「アレックス!」 「ふふ」 「じゃあな」 アレックスさんは今度は私を抱きしめる。 温かい。 「じゃあなー!」 アレックスさんは電車に乗る。 しばらく、さよならだ。 「…辰也、寂しそう」 「…そんなことないよ」 「もう」 ぎゅっと辰也の手を握った。 「辰也、アレックスさんといると子供みたいだね」 「子供?」 「うん。なんか意地っ張りで、反抗的で、…ちょっと、小さく見える」 「……」 私といるときに時々見せる、無邪気な子供っぽさではない。 小さくて、弱々しい。 「…だから嫌だったんだ、アレックスが来たって聞いたとき」 辰也は目を伏せて、小さな声で話し出す。 「もう子供じゃないって言いたいのに、アレックスといると子供だって思い知らされる」 辰也は小さな声で話した。 辰也は一見大人っぽいけど、決してそんなことはない。 大人になりたいけど、なりきれない。 負けず嫌いで、わがままで、一生懸命背伸びをして、強くなりたくて、いつももがいている。 至って普通の、高校生だ。 「…一緒に大人になろうね」 辰也の傍に寄って、できるだけ優しい声で話した。 「私たち、まだまだ子供で…みんなに心配かけてばっかりだから」 「…うん」 「早く大人になりたいけど、きっとすぐにはなれないし…ゆっくり、一緒にね」 辰也は私の肩を抱き寄せる。 弱い力だ。 「…」 「ね」 「…うん」 一緒に大人になろう。 一歩ずつ、一緒に。 ← 14.06.20 ![]() 押してもらえるとやる気出ます! |