ちーん」

部活が終わり片付けも終了。
部室で帰る準備をしていると、敦が甘えたような声で話しかけてくる。
こういう声を出すときは、いつもお菓子目当て。

「お菓子ならないよ」
「えー?なんでー?」
「いつも持ってるわけじゃないよ」
「でも今日ハロウィンじゃん」
「え…」

あ、そうだ。
氷室の誕生日に気を取られてすっかり忘れていた。

ちん、忘れてたの?」
「うん…だから持ってないの。ごめんね」

部活が終わった後やミーティング前に、よく敦にお菓子をあげたりしている。
だから敦は今日、私がお菓子を持ってきていると期待していただろう。
別に約束したわけじゃないけど、ちょっと申し訳ない気分になる。

「ダメだよ〜ハロウィンはお菓子くれないとイタズラされるんだよー」
「え」

イタズラって、それはちょっと困る…。
そう思っていると、背後から気配が。

「何してるの?」
「あ、辰也」

自主練を終えた辰也が立っている。
…なんだか、少し不機嫌なような…。

「アツシ、何しようとしてたの?」
「別に室ちんが怒るようなことしないよ〜怖いもん。明日ちんが片付けしてるの邪魔しようかなって」
「え、それすっごい困る」
を困らせたら怒るよ?」
「え〜だってお菓子…」
「…明日お菓子持ってくるから」
「ほんと?ならいいやー。いっぱい持ってきてね」
「うん」

そう言うと敦は満足そうな笑顔を浮かべる。

「あ、そうだ。室ちん昨日誕生日だったんでしょ」
「よく知ってるね」
「うんーおめでと〜これあげる」
「あ、ありがと」

敦は辰也にチョコレートを渡した。
敦のお気に入りのやつだ。

ちんもおめでと〜」
「え?」

思いもしなかった言葉に目を丸くする。
お、おめでとうって…私?

「うん。ちんおめでとー」
「え、あの…」
「ん〜?」
「…どういう意味?」
「そのまんま」
「…」

………。
なんか、その。
昨日のことがあっただけに、あの…。

「じゃあオレ帰るね〜明日お菓子宜しくー」

そう言って敦は部室を去って行く。
敦の言葉の意味をやたら考えてしまって、一人混乱している。
ど、どうしよう。何か、違う話題。

「あ、辰也」
「ん?」
「なんか、さっき不機嫌じゃなかった?」

そう言えば辰也はさっきちょっと不機嫌そうな顔をしていた。
どうしたんだろうと思って聞いてみる。

「当たり前だろ?」

辰也は私をぐっと抱き寄せる。

に悪戯していいのは、オレだけだ」
「…っ」

思わず昨日のことを思い出してしまって、顔が赤くなる。
け、結局、思い出してる私って…。

「あ、の」
「ねえ、Trick or Treat?」
「えっ…」

お、お菓子持ってないってさっき言ったんですけど!?
それでこの台詞って、じゃ、じゃあ、イタズラ!?それも困るというか、その、昨日の今日でそれはちょっと…

「た、辰也」
「持ってないの?」
「持ってないけど、でも、あの」
「じゃあ、悪戯だ」

そう言うと辰也は、私の唇にちゅ、と音を立ててキスをする。

「…た、辰也」
「今年はこれで許してあげるよ」

辰也は優しい表情でそう言った。
その表情に私はホッとするよりときめいてしまって。

「…来年は、お菓子あげるね」
「オレの一番好きなお菓子にしてね」
「好きなの?」

辰也の好きなお菓子って、何だろう。そんな話したことない。
成長期のせいか練習がハードなせいかいつもお菓子食べるならご飯とか重いもの食べたがるし…。

「わかるだろ?」
「…!」

辰也は私の唇を指でなぞる。
一番好きな、って、もしかして。

「…あの」
「楽しみにしてるよ」

来年の10月末は大変なことになりそうだ…。





「あー、今入んない方がいいんじゃない?」
「どうしてアル?」
「なんだっけ、ほら、あれ、馬に蹴られて死んじゃう」
「…?アツシは相変わらず意味不明アル」
「とりあえず入んない方がいいよ」
「…ワタシ、着替えられないアル」






 
13.07.12





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