「テスト、どうだった?」
「うん、どうにかなったかな」

中間テストが終わり、テストが返却された。
部活を終えて、氷室の部屋でそんな話をする。

「ほら」

氷室のテスト用紙を見せてもらう。
心配だった現代文と古典のテスト。

「わ、すごい!」

とてもいいと言うわけじゃないけど、ちゃんと点を取っている。

「すごいね。全然わからなかったのに」
が教えてくれたから」

氷室はそう言うと、私を優しく抱き寄せる。
温かい感触。

「ありがとう」
「うん、私も少し英語の点数上がったよ」

氷室に教えてもらったおかげで、今回英語の点数が上がった。
ありがとうとお礼を言うと、氷室は私にキスをする。



氷室が私をぎゅっと抱きしめるから、私も彼を抱きしめる。
暖かい。



もう一度名前を呼ばれて顔を上げると、氷室の顔が近付く。
目を瞑れば、また唇にキスを落とされる。

「…ん…」

優しい感触。人前でされるのは困るけど、氷室とキスをするのは好き。
すごくドキドキして、嬉しくなる。

「…っ!?」

氷室のキスに酔っていると、またキスが深いものに変わる。
まずい、これは…!
そう思って肩を押してみるけど案の定ビクともしない。
それどころか、どんどん力が入って行く。

「ひ、氷室、待」
「待てない」

氷室は少し冷たい声で言い切る。
心臓が跳ねる。どうしたらいいかわからない。


「…っ」

首筋を舌で舐められる。
ピクリと肩を震わせると、氷室は優しく私の頬を撫でる。

、どうしても嫌?」
「あ、の」
「嫌なら言って。嫌だっていうなら、何もしない」
「…私」
「オレは、としたいよ。すごく、に触りたい」

心臓が爆発しそうなくらい高鳴るのが聞こえる。
氷室の声が、頭の中に響く。

「本当は今すぐ無理矢理押し倒してをオレの物にしたい。でも、を傷つけたいわけじゃないんだ」

氷室は優しく私の髪の毛を撫でる。
優しい声だ。

が好きだよ。だからしたい。でも、だから傷つけたくないんだよ」

そう、だ。私は氷室に絶対に力で敵わない。
今までだって、無理矢理しようと思えば何度だってできたはず。
でも、そんなことしてこなかった。

「氷室、あの」
、オレは、に触れるのが好きだよ。と手を繋いで、キスをして、抱きしめると、すごく幸せになる」

そんなの、私だって。
氷室と手を繋いで、キスをして、抱きしめられればとても幸せな気持ちになって。

「だから、もっとに触れたい」
「…っ」


もう一度、氷室に名前を呼ばれる。
心臓が、跳ねる。

「氷室、あの、私」
「うん」
「……っ、あの…」
、無理しなくていいから」

氷室は私を優しく抱きしめる。
背中をよしよしと撫でられて、涙が出そうになる。
氷室は優しい。
そう言うといつも「優しくなんてないよ」って言うけど、そんなことない。
優しくない人は、こんなことしない。

「氷室、あのね、私、氷室のこと好きだよ」
「うん、わかってるから。ごめんね」

氷室は私の頭を撫でて、おでこにキスをする。
そうして私の体を離して、立ち上がる。

「…何か飲み物持ってくるよ。何がいい?」
「あ、えっと…。紅茶ある?」
「うん。待ってて」

そう言って氷室は部屋から出ていく。
…まだ、心臓がドキドキ言ってる。痛い。

「……」

…私は氷室が好きで、氷室も私が好きで。
氷室は、そういうことがしたくて、…私は、怖くて。

こんなに、こんなに好きなのに、どうして。



氷室に名前を呼ばれて、ハッと顔を上げる。

「はい、これ」
「あ、ありがとう」

氷室から紅茶を受け取る。

「……」
「どうしたの?」

氷室は私の隣に座る。
座るけど、少し間が空いている。
付き合う前、私がしていたように。

「…なんでもない」

氷室がダメだって、言ったのに。





「…じゃあ、また明日」
「うん、バイバイ」

氷室に家まで送ってもらって、手を振って別れる。

「……」

私は氷室のことがすごく好きで、大好きで。
手を繋ぐのも、抱きしめられるのも、キスをするのも、全部好きだけど。
それだけは、怖いと思ってしまう。

「…ごめんね」

もう見えなくなった氷室に向かって、そう呟いた。







 
13.05.10