「ふう…」 無事中間テストも終わり、WC予選を控え部活は厳しくなる一方。 今日も疲れた。そんなことを思いながら、部室で部誌を書いているときのこと。 「あ、ちんだ〜」 「敦」 同じく片付けを終えた敦が入ってきた。 敦は後ろの方で着替えだす。 …マネージャー始めたばかりの頃はわざわざ外に出ていたけど、今はこうやって後ろを向くだけになってしまった。 「ちんさあ、今度室ちん誕生日なんでしょ?」 「よく知ってるね」 「うちのクラスの女子が言ってた」 「………」 ま、また…。 「大丈夫だよ〜みんな『プレゼントなんてあげられない〜』とか話してたしー」 「…うん」 うん、そうだよ。 バレンタインとかならともかく、誕生日にプレゼントなんてそんなにないだろう。 「ちん、なにあげるの〜?」 「内緒」 「え〜いいじゃん。絶対言わないからさー」 「…本当?」 「信用ないなあ」 「敦、口が軽いっていうよりぽろっと無意識に言っちゃいそう…」 「あー、それはあるかもねえ」 …やっぱりか…。 まあ、そう言ってはみたけど、プレゼントはまだ決まってない。 この間の買い物では、決められなかった。 「でもさあ、どうせあれじゃないの?」 「あれ?」 「『私がプレゼント〜』ってやつじゃないの?」 「なっ…」 敦まで…! 「しないからね!?」 「え〜室ちん絶対喜ぶのに〜」 「…ねえ、敦、その…どこまで知ってるの?」 「どこまで?」 「いや、その…私と氷室のこと」 …氷室と敦って仲良いけど、男子ってこういう話するんだろうか…。 そういうの、よくわからない。 「全然〜。だって室ちんそういう話全然しないもん」 「…そうなんだ」 …いきなりこんな話してくるから、この間のこととか、聞いてるのかと思った。 そっか、知らないのか…。 「でもねえ、絶対喜ぶよ」 「………」 「やらないの?」 福井先輩と言い、敦と言い、もうなんなの…! 「やらないからね!?」 「へ〜室ちんかわいそう」 「可哀想って…」 「だって室ちん、ちんのことすっごい好きなのに」 「……」 敦がそう言うから、言葉を詰まらせる。 そんなのわかってる。 氷室が私を好きでいてくれることも、…好きなら、そういうことがしたくなるだろうってことも。 「ちんだって室ちんのこと好きなんでしょ?」 「好きだけど…」 「でもやらないの?」 「…怖いもん」 「なにが?」 「……」 私は俯きながら、小さい声で話した。 「敦には…っていうか、男子にはわからないかもしれないけど、そういうの、女子は怖いんだよ」 「ふ〜ん、よくわかんない」 「…うん、だよね」 「難しいこと、考えなきゃいいのに」 「難しいって…」 「好きなんだから触りたいんじゃん。それじゃダメなの?なにが怖いの?」 敦のまっすぐな言葉に、心臓が跳ねる。 その通り、なんだけど。 「ねえねえちん、オレ妹がいい」 「…は?」 「下できるんなら妹がいいよ〜お菓子作ってくれそうじゃん」 「え、ちょっと待って。いきなり何の話?」 「んー?だって室ちんとちんに子供できたらオレお兄ちゃんみたいじゃない?」 「な…っ」 こ、子供…!? 「なんでいきなりそんな話になってるのっ!?」 「えー、いきなりじゃないでしょ。セックスの話してたんだから」 「あ…」 「あ?」 「敦ーーーー!!!」 狭い部室に、私の怒号が響きわたる。 慌てたようにドアが開いた。 「どうしたの?」 「あ、氷室…」 「すごい声だったけど…」 「いや、な、なんでも」 「あのねえ、せ」 「敦!!」 座っている敦の口を塞いで、次の言葉を言わせないようにする。 何を言うつもりなのこの子は…! 「…言えない話?」 「え」 「……」 氷室の表情は険しくなる。 そりゃそうだ。恋人と異性が自分に言えない話なんて、おもしろくないに決まってる。 で、でもこれは…。 「あ、の…」 「……」 「今はね、言えないの。その、氷室にだけは。…わかるでしょ?」 10月の終わり、今、氷室にだけ、言えない。 どうかこれでわかってください…。 ほとんど答えを言っているようなものだけど、それでも全部言うよりマシだ。 …まあ、今してた話は誕生日というより、違う話だけど、嘘じゃないし…。 「…」 「……」 「変なこと言ってごめんね」 氷室は表情を一転優しいものに変えて、私の頭を撫でる。 「ふぇえ、ふふひい」 「あっ」 敦の口を塞いでいたのをすっかり忘れていた。 慌てて敦を解放する。 「オレ帰るーなんかお邪魔虫だしー」 「…あ、敦、ごめんね」 「別にー」 敦は鞄を持って部室を後にする。 …敦には変な話をしてしまった。 なんか、男子だけど思わずそういう話しちゃうんだよね…。 今度、敦の好きなお菓子を持ってきてあげよう。 「、オレたちも帰ろう」 「うん」 部誌はもうほとんど書き終わってる。 氷室が着替え終わる間にささっと書いて、一緒に部室を出た。 「寒くなってきたね」 「うん」 そう言って氷室は私の手を取る。 繋いだ手から、暖かくなる。 「………」 手を繋ぐと、嬉しくなる。 氷室が好きだなあと、そう思って、ドキドキして。 「?」 「え?」 「どうしたの?ボーっとしてるけど、疲れちゃった?」 「うん、まあ…」 「じゃあ、今日は真っ直ぐ帰ろうか」 「…うん」 真っ直ぐ帰るのは寂しい。 もっと一緒にいたいと思うから。 でも、今二人きりになるのが、少し怖い。 手を繋ぐのは好きだけど、でも…。 …敦、やっぱり、そんな単純には行かないよ。 ← → 13.05.17 |