とうとうWCの予選が始まった。
陽泉バスケ部は勝利を積み重ね、明日の試合に勝てば本選出場が決まる。
疲れを残さないためにと、今日の練習は早めに終わった。
私も今日は早く寝ようと、ちゃっちゃと明日の用意をする。

…うん、きっと、大丈夫。
みんな強いから、きっと明日も勝ってくれる。
慢心じゃなく、自信がある。

「あれ」

携帯が鳴る。
画面を見ると氷室から電話だ。

「もしもし?」
『もしもし、オレだけど』
「どうしたの?」
『ちょっと出て来られる?』
「うん、大丈夫だよ。どこ?」
『家の前』

家の前って、私の家!?

パッと窓の外を見る。
ほ、本当だ…!

慌てて上着を取って、玄関を出た。

「氷室!」
「急にごめんね」
「それはいいけど…どうしたの?」
の顔が見たくなって」

氷室は私の頬を撫でる。

「…緊張してるの?」
「そりゃ、少しね」
「大丈夫だよ。うちのチーム強いもん」

今までの予選や、その前の他校との練習試合から、うちのチームが強いことはわかってる。
それでも、やっぱり緊張するんだろう。

「頑張ってね」
「うん」

氷室は私をじっと見つめる。
私の頬を撫でていた手を宙に浮かせて、少し手持ち無沙汰な感じになる。

「氷室?」
「……」

氷室は躊躇いがちに私の頬に手を添えると、そっと顔を近付ける。


「…っ」

氷室は優しくキスをする。
久々に触れた唇が、嬉しい。

「氷室」
…」

久々と言っても、そんなに久しぶりなわけじゃないけど。
なんだか、すごく。

「…っ…」

もう一度キスをする。今度はぎゅっと抱きしめられて、熱くキスをされる。
頭が、くらくらしてくる。

「…、はあ…っ」

息継ぎをする暇もなく、何度も、何度も。
苦しいけど、嫌じゃない。

「…っ」
「…

氷室は唇を離すと、私を熱い眼差しで見つめる。
私の顔が少し赤くなると、氷室は少し目線を外した。

「…うん。もう、帰るよ」
「え…」
「おやすみ」

そう言って氷室は私のおでこにキスをして、頭を撫でた。
もう、帰っちゃうのか。

「…あの」
「?」

まだ帰ってほしくなくて、氷室の服の袖を掴む。
でも、明日は試合。
引き留めるわけにはいかない。

「…おやすみなさい」

掴んだ袖を離して、そう言った。

「また明日」

氷室は笑って、家路についた。

「……」

今、私は、何を。

「あれ、もう帰ってきたの?」
「…うん」

家に入って、リビングにいるお母さんの横を取って自分の部屋へ。
お母さんの顔が、見れない。

「…っ」

自分の部屋で座り込む。
久しぶりにキスをされて、すごく嬉しくて。
それなら、今までと一緒だけど。

今、それだけじゃ足りないと、思ってしまった。

「……」

キスだけじゃ、足りない。
もっと、欲しいと。





 
13.06.07