「……ん」

目を覚ますと、見慣れない天井。

「?」

ぼんやりした頭でふと横を見て、ハッとする。

横で寝ているのは、氷室。
そうだ、その…うん。そうだ…。

慌てていると、氷室も目を覚ます。

「…おはよう」
「え、あ、えっと、…おはよう」

おはようなんて時間じゃないけど、氷室はにっこり笑ってそう言うから、私も「おはよう」と返す。
でもやっぱりダメだ…!
さっきのことを思い出して恥ずかしさが止まらなくなって、私は思わず自分の顔を両手で覆った。

?」
「ちょ、ちょっと待って…!」

恥ずかしさでどうにかなりそう。
どうにか落ち着かせるから、本当に、少しだけ待って…!


「ひ、氷室、ちょっと待って」
「……」
「わっ!?」

氷室は私の両手を掴んで、顔をじっと見つめる。


「…え?」

「う、うん」


え、っと。そんなに見られると恥ずかしいし、名前を呼ばれても私は一体何をすれば…。

「…あ」

そうだ、これは。


「あの、た、辰也…?」

そう呼ぶと、彼は満足げな笑顔を浮かべて私を抱きしめた。

「正解」
「う、うん」
「いきなりオレが『』なんて呼んだら嫌だろ?」

久しぶりに聞く辰也の声の『』を聞いて、ゾワリとする。

「…嫌」
「オレだって同じだ」
「…うん、ごめんね」
「いいよ。でも、次はもう許さない」
「許さないって…」

辰也は私のおでこと自分のそれを合わせる。

「許さないよ。どうなるか、わかるだろ?」
「…っ」

辰也は鋭くて、どこか色っぽい瞳でそう言うから思わず顔を赤くする。

「可愛い」
「ま、またそれ」
「しょうがないじゃないか。が可愛いから、思わず言っちゃうんだよ」

ほ、本当にこの人は…!
可愛いって言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。

「さっきのも、すごく可愛かった」
「え」

さっきって、それは、その。

「あ、あんまり思い出さないで…!」
「どうして?」
「だ、だって…」

自分で思い出しただけで恥ずかしさで死にそうだ。
辰也が思い出してると思うと、もう…。

「嫌だよ。だってオレは嬉しかった」
「…っ」
「誕生日にと一つになれたんだ。今までで一番幸せだった」

辰也は優しい声でそう語る。
そんなの、私だって。

「わ、私もその、幸せだったけど」
「だろ?」
「でも、やっぱり恥ずかしくって…それに、なんか、辰也意地悪だったし」

そう言ってみれば、辰也は一瞬目を丸くする。

「意地悪?」
「い、意地悪だったよ」
「あれでも抑えたつもりなんだけど」

な…っ!

「バカ!」
「あはは、ごめん」
「…も、もう…」


辰也は優しい声で私の名前を呼ぶ。

「幸せなのは本当だよ。幸せすぎて、死にそうなくらい」
「…死んじゃダメだよ?」
「わかってるよ。今死んだら、もったいなさすぎる」

辰也は私をぎゅっと、苦しいくらい抱きしめる。
死んじゃダメ、なんて言ったけど、私も幸せすぎて死にそうだ。

こんなに幸せで、いいんだろうか。

「…辰也、誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう」
「…あのね、来年も、その次も、ずっとお祝いするよ」

今年だけじゃなく、来年も、その次も、ずっとずっと先も。
ずーっと、こんなふうに辰也の誕生日を祝って、幸せだと実感したい。

「…っ」
「…ありがとう。オレも、ずっとの誕生日を祝うよ」

そう言って、辰也は何度もキスをする。

一番好きな人。
この人と手を繋げば嬉しくなって、キスをするとドキドキして、抱きしめられれば優しい気持ちになって、
一つになれば、幸せになった。

「…辰也、好きだよ」
「オレも好きだよ」
「うん、あのね、…私、初めてが辰也で嬉しかったよ」

辰也が初めてで、一つになれて、本当に嬉しくて。
精一杯、自分の気持ちを伝えると、辰也は優しくキスをした。

の初めても最後も、オレでいいよ」

甘い声で囁かれて、体の芯が溶けそうになる。
辰也以外、いらない。心からそう思う。
好き、なんて、そんな言葉じゃ足りないくらい好き。
幸せなんて、言葉で表せないくらい、幸せだ。







 
13.06.28