「お疲れさまでしたー」 「おー、お疲れー」 月曜日、部活の後。 辰也と一緒に部室を出た。 「もうすぐ期末だね。大丈夫そう?」 「なんとか…。やっぱり古典はきついな」 「ふふ。…あ」 そんな話をしていたら、目の前に中山が。 辰也は、前ほどじゃないけど、やっぱり嫌そうな顔をする。 「…氷室、と二人だけで話がしたい。なにもしない、少しでいいんだ」 「…いいって言うと思う?」 言うわけがない。ないだろうけど。 「…辰也、私からもお願い」 「」 「何話したか、全部後で話すから…」 金曜の資料室での一件以来、何も話していない。 きちんと、けじめをつけないと。 「…中山は、友達だったの」 小さな声で呟くと、辰也は私の頭を撫でた。 「…少しだけだよ」 「うん。ありがとう」 * 辰也には寒いからもう一度部室に戻って待っててもらって、部室棟の裏に来た。 私もちゃんと、話がしたかった。 「…金曜は、ごめんな」 「…私も、最後全部押しつけちゃって」 「いや、それはいいんだ」 中山は困ったように笑う。 「ただ、やっぱり、ちゃんと言わせてほしいんだ」 中山は真剣な顔で言った。 きっと、次に続く言葉は。 「…が、好きだよ」 ああ、やっぱり。 「…ごめん、ごめんなさい」 「…うん」 「私は、辰也がいるから…ごめんなさい」 金曜はいっぱいいっぱいでうまく考えられなかったけど、今は冷静に考えている。 中山は私が好きで、私は辰也が好き。 …中山のことは好きだけど、中山と同じ気持ちじゃない。 この言葉しか、出て来ない。 「…と氷室さ、すごく仲良いだろ」 「え?」 「…氷室に初めて会ったとき、『こいつ、のこと好きなんだな』って思ったんだよ。オレも同じ気持ちだから、すぐわかった。 …も、氷室といるときは態度違うし。すごく、仲良ささそうでさ、たぶん、入り込む隙間なんてないんだろうなって」 中山は寂しげな表情で話し出した。 私は黙って耳を傾けた。 「でも氷室と付き合うようになってから、辛そうな顔することも多くなった気がして…。ちょうど席も隣になって週番もあるし、どうにかならないかなって思ったんだけど…」 「…」 「どうにもならなかったね」 中山はそう言って自嘲気味に笑う。 私は、何も言えない。 「…いろいろ、ごめんな」 「…ううん」 「…じゃあ、また明日」 「…うん。バイバイ」 中山はそう言って歩き出す。 あ、なんだか、涙が出そうだ。 * 「…おかえり」 部室で待っている辰也のもとへ。 部室にはもう誰もいない。 私は迷わず辰也に抱きついた。 「?」 「…」 「…何かあった?」 辰也を見上げて、首を横に振る。 「泣きそうな顔してる」 「…好きな人に」 「?」 「好きな人に好きになってもらうのって、難しいね」 私は辰也が好きで、辰也は私が好き。 すごく単純で、でもきっと、難しい。 「うん…。だからきっと、同じ気持ちだってわかると、すごく嬉しい」 辰也はそう言って、キスをする。 …好きな人。大好きな人。 この人と一緒にいられると、幸せだ。 私はきっとすごく運が良かったんだろう。 「昨日さ、たくさん考えたんだ」 「?」 「…まだ、4ヶ月しか一緒にいないけど、これからはずっと一緒だ」 「…うん」 「きっと、思い出もたくさんできる」 辰也は私を抱き寄せる。 暖かい気持ちだ。 「…あのね、辰也。私も考えたよ」 「?」 「4ヶ月しか一緒にいないけど、たくさん、思い出があるよ」 たった、4ヶ月。だけど、私と辰也しか知らない思い出が、たくさんある。 「初めて会ったときはもうひたすらびっくりしてたよ。洗濯物もぐちゃぐちゃにしちゃって。 マネージャーすることになって不安だったけど…辰也がいろんなこと、優しく教えてくれて、すごく嬉しかった。 あとね、インターハイのときに初めて名前を呼んでくれて、花火大会で初めて手を繋いで、一緒に花火を見たの。 合宿で、私に辰也の思いを打ち明けてくれた。夏休みの最後には一緒に映画を見たよ。 …それで、あの公園で私のこと好きだって言ってくれて、私も好きって言って、キスしたの。 文化祭は一緒に回って、アシカのぬいぐるみをくれたの。一緒にデートもたくさんしたよね。ビリヤードも教えてくれた。 …誕生日にはね、その…。一つになって、幸せだった」 思い出すと、涙が出てくる。 たった4ヶ月。 だけど、今まで生きてきて、一番楽しくて、大変で、苦しくて、幸せな日々だった。 「私と辰也しか知らない思い出が、たくさんあるよ」 本当に本当に、たくさんある。 大切な思い出が、たくさん。 辰也と会う前は、何をして、何を思って毎日を過ごしていたのか、思い出せないぐらいに。 「…」 辰也は私をぎゅっと抱きしめる。 温かい。 「…敵わないな」 「?」 「好きだよ」 私も、と言う前にキスをされる。 全身に幸せが染み込んでいくようだ。 これからきっと、いろんなことがたくさんある。 すれ違ったり、喧嘩をしたり、仲直りしたり。 そんなことを繰り返しながら、私たち、ずっと一緒にいようね。 ← 13.10.18 ![]() 押してもらえるとやる気出ます! |