「お疲れさまでしたー」
「おー、お疲れー」

月曜日、部活の後。
辰也と一緒に部室を出た。

「もうすぐ期末だね。大丈夫そう?」
「なんとか…。やっぱり古典はきついな」
「ふふ。…あ」

そんな話をしていたら、目の前に中山が。
辰也は、前ほどじゃないけど、やっぱり嫌そうな顔をする。

「…氷室、と二人だけで話がしたい。なにもしない、少しでいいんだ」
「…いいって言うと思う?」

言うわけがない。ないだろうけど。

「…辰也、私からもお願い」

「何話したか、全部後で話すから…」

金曜の資料室での一件以来、何も話していない。
きちんと、けじめをつけないと。

「…中山は、友達だったの」

小さな声で呟くと、辰也は私の頭を撫でた。

「…少しだけだよ」
「うん。ありがとう」



辰也には寒いからもう一度部室に戻って待っててもらって、部室棟の裏に来た。
私もちゃんと、話がしたかった。

「…金曜は、ごめんな」
「…私も、最後全部押しつけちゃって」
「いや、それはいいんだ」

中山は困ったように笑う。

「ただ、やっぱり、ちゃんと言わせてほしいんだ」

中山は真剣な顔で言った。
きっと、次に続く言葉は。

「…が、好きだよ」

ああ、やっぱり。

「…ごめん、ごめんなさい」
「…うん」
「私は、辰也がいるから…ごめんなさい」

金曜はいっぱいいっぱいでうまく考えられなかったけど、今は冷静に考えている。
中山は私が好きで、私は辰也が好き。
…中山のことは好きだけど、中山と同じ気持ちじゃない。

この言葉しか、出て来ない。

「…と氷室さ、すごく仲良いだろ」
「え?」
「…氷室に初めて会ったとき、『こいつ、のこと好きなんだな』って思ったんだよ。オレも同じ気持ちだから、すぐわかった。
 …も、氷室といるときは態度違うし。すごく、仲良ささそうでさ、たぶん、入り込む隙間なんてないんだろうなって」

中山は寂しげな表情で話し出した。
私は黙って耳を傾けた。

「でも氷室と付き合うようになってから、辛そうな顔することも多くなった気がして…。ちょうど席も隣になって週番もあるし、どうにかならないかなって思ったんだけど…」
「…」
「どうにもならなかったね」

中山はそう言って自嘲気味に笑う。
私は、何も言えない。

「…いろいろ、ごめんな」
「…ううん」
「…じゃあ、また明日」
「…うん。バイバイ」

中山はそう言って歩き出す。
あ、なんだか、涙が出そうだ。





「…おかえり」

部室で待っている辰也のもとへ。
部室にはもう誰もいない。
私は迷わず辰也に抱きついた。

?」
「…」
「…何かあった?」

辰也を見上げて、首を横に振る。

「泣きそうな顔してる」
「…好きな人に」
「?」
「好きな人に好きになってもらうのって、難しいね」

私は辰也が好きで、辰也は私が好き。
すごく単純で、でもきっと、難しい。

「うん…。だからきっと、同じ気持ちだってわかると、すごく嬉しい」

辰也はそう言って、キスをする。
…好きな人。大好きな人。
この人と一緒にいられると、幸せだ。
私はきっとすごく運が良かったんだろう。

「昨日さ、たくさん考えたんだ」
「?」
「…まだ、4ヶ月しか一緒にいないけど、これからはずっと一緒だ」
「…うん」
「きっと、思い出もたくさんできる」

辰也は私を抱き寄せる。
暖かい気持ちだ。

「…あのね、辰也。私も考えたよ」
「?」
「4ヶ月しか一緒にいないけど、たくさん、思い出があるよ」

たった、4ヶ月。だけど、私と辰也しか知らない思い出が、たくさんある。

「初めて会ったときはもうひたすらびっくりしてたよ。洗濯物もぐちゃぐちゃにしちゃって。
 マネージャーすることになって不安だったけど…辰也がいろんなこと、優しく教えてくれて、すごく嬉しかった。
 あとね、インターハイのときに初めて名前を呼んでくれて、花火大会で初めて手を繋いで、一緒に花火を見たの。
 合宿で、私に辰也の思いを打ち明けてくれた。夏休みの最後には一緒に映画を見たよ。
 …それで、あの公園で私のこと好きだって言ってくれて、私も好きって言って、キスしたの。
 文化祭は一緒に回って、アシカのぬいぐるみをくれたの。一緒にデートもたくさんしたよね。ビリヤードも教えてくれた。
 …誕生日にはね、その…。一つになって、幸せだった」

思い出すと、涙が出てくる。
たった4ヶ月。
だけど、今まで生きてきて、一番楽しくて、大変で、苦しくて、幸せな日々だった。

「私と辰也しか知らない思い出が、たくさんあるよ」

本当に本当に、たくさんある。
大切な思い出が、たくさん。
辰也と会う前は、何をして、何を思って毎日を過ごしていたのか、思い出せないぐらいに。

「…

辰也は私をぎゅっと抱きしめる。
温かい。

「…敵わないな」
「?」
「好きだよ」

私も、と言う前にキスをされる。
全身に幸せが染み込んでいくようだ。

これからきっと、いろんなことがたくさんある。
すれ違ったり、喧嘩をしたり、仲直りしたり。
そんなことを繰り返しながら、私たち、ずっと一緒にいようね。





 
13.10.18




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