WC最終日。 今日は秀徳対海常戦の三位決定戦の後、誠凛対洛山戦がある。決勝戦だ。 バスケ部みんなで観戦することになっている。 「…ちょっと寄りたいところがあるので、先に行っててもらっていいですか?」 辰也は携帯を見て先輩にそう言う。 「まあ、別にいいけど。どうせ観戦だって強制じゃねーし」 「試合は行きますよ。オレも見たいですから」 用事ってなんだろう。 久々に来た東京に、用があるとは思えないんだけど…。 …もしかして。 「…辰也」 「ん?」 「…大我くんに会うの?」 辰也は目を丸くする。 「…そうだよ」 「…そっか」 …一緒に行っても、いいかな。 もちろん、二人が話す邪魔はしない。 ただ、傍にいたい。 辰也の傍にいたいから。 …行っても、いいかな。 辰也も、「傍にいてくれればいい」って、言ってくれたし…。 「辰也、あの…」 「?」 「…一緒に行っても、いい?」 恐る恐るそう聞くと、辰也は柔らかく笑った。 「の悪い所だ」 「えっ」 「いつもそうやって遠慮して。『一緒に連れてって!』くらい言えばいいのに」 そう言われて思わず笑う。 「…じゃあ」 「うん」 「一緒に連れてって」 「うん。一緒に来て」 私は辰也に手を引かれて、ホテルを出た。 * 「…タイガとはロスで会ってさ」 「うん」 待ち合わせ場所に向かいながら、辰也から大我くんの話を聞く。 何度か聞いてきた話。 だけど、今聞くと、少し違う。 「友達とバスケしようとしたんだけど、人数足りなくて、探してたらタイガがいた。日本人がいて、嬉しかったよ。オレもその一年前にアメリカに来て不安だったから。タイガにバスケ教えるようになって、兄貴が出来たみたいだって言われて、嬉しかった。浮かれてこんなものを買ったりもした」 辰也はポケットからリングを出す。 辰也と大我くんの、兄弟の証だ。 「…でも、いつの間にかタイガはオレを追い越して行った」 ぎゅっとリングを握る。 辰也の顔は、険しくなる。 「どんどんうまくなって、足も速いしジャンプも高い。背も伸びて…オレが欲しかったバスケに必要なものは、全部アイツが持って行ったんだ」 ぎゅっと辰也の手を握る。 辰也。 「…タイガの思い描くような兄貴にはなれない」 ただただ黙って辰也の話を聞いた。 相槌を打つことすら躊躇われる。 「…タイガが日本に帰った後、オレも強くなって、もしかしたら、って思ったけど」 立ち止まって、低い声を出す。 「やっぱり、ダメだったな」 辰也は泣きそうな声だ。 泣いてはいないけど、でも。 「辰也」 ぎゅっと辰也に抱き着いた。 何を言えばいいかわからない。何をすればいいかわからない。 これでいいかもわからないけど、こうしたくなった。 「…」 辰也の背中を撫でる。 その後、爪先立ちになって辰也の頭を撫でた。 「…わかってるんだ」 「うん」 「何がいけないか、どうすればいいか、本当は」 「…うん」 「頑張って来るね」 辰也は私から体を離して、ぎゅっと手を握った。 冷たい手だ。 「じゃあ、ここで待ってて」 「うん」 辰也と大我くんが待ち合わせをしているストバス場に着いた。 話している間、私は近くの公園で待つことにした。 「寒…っ」 公園のベンチに座る。 秋田ほどじゃないけど、東京も十分寒い。 雪がないだけマシかな。 「……」 …辰也は大丈夫だろうか。 ちゃんと、仲直りできるかな。 …大丈夫だよね、辰也だもん。 辰也と、辰也の弟分の大我くんだ。 大我くんのことはよく知らないけど、きっと、大丈夫。 「…辰也」 コートにくるまった。 …寒い。 「」 「!」 俯いていると、辰也の声が降ってくる。 慌てて顔を上げる。 「仲直り、できたんだね」 「わかるの?」 「わかるよ」 辰也の顔を見れば、すぐわかる。 「ふふ、よかった」 「うん。…ありがとう」 「?」 辰也は私の隣に座る。 ぐいっと肩を抱き寄せられた。 「…隣にいてくれて、ありがとう」 「辰也…」 「が一緒にいてくれたから、オレは頑張れたよ」 その言葉で、私はまた泣いてしまった。 * 「辰也」 「…ん」 「そろそろ、戻らないと」 どのぐらいこうしていただろう。 そろそろ会場に向かわないと、決勝戦が始まってしまう。 「…そうだね」 「うん」 「………」 立ち上がって、辰也と手を繋ぐ。 辰也の歩き出す方向に私もついていく。 「……」 キョロキョロ辺りを見渡す。 あまりこの辺りは人がいない。 …東京でも人がいないところはあるんだなあ。 「……」 「……?」 なんだか辰也の様子がおかしい。 どうしたんだろう。 「辰也?」 「道、こっちで合ってるっけ」 「え…」 え、ええ!? 「わ、わかんない」 「そっか。オレも来るときちょっと上の空だったからな」 「え、だ、大丈夫!?」 様子がおかしいと思ったら道に迷っていたのか…。 私も来るときいろいろ考えてしまってあまり道を覚えていない。 「ごめん…」 私が上の空なら、大我くんと会う約束をしていた辰也の方が上の空に決まってる。 ちゃんと私が覚えておかなくちゃいけなかったんだ…。 「いや、オレもごめん。全然考えてなかった」 「…どうしよう」 東京に来てからは試合会場とホテルを往復するばかりで、たまに買い物するときもその途中の道にあるコンビニとか。 ほかのところは行ったことがない。全然わからない。 「……」 辰也の手を強く握る。 どうしよう。道に迷うなんて何年振りだろう。 …怖い。 「」 「うん…」 「可愛い」 「うん…って、え!?」 「その顔可愛いね」 「な、何言ってるの?!バカ!」 辰也は笑う。 そ、そんな場合じゃないでしょ?! 「、大丈夫だよ」 「え…」 「東京は外国じゃないんだから、いざとなれば人に聞けばいい」 「え、あ、そっか…」 「うん。は不安にしてる顔も可愛いね」 「……」 「ふてくされた顔も可愛い」 辰也がそう言うので怒って辰也の背中のあたりを叩く。 辰也は笑うだけだけど。 「…もう」 …でも、よかった。 いつもの辰也だ。 いつもと変わらない辰也。 「あ、すみません。ちょっといいですか?」 辰也は子供を連れた女の人に話しかけて道を聞く。 …本当によかった。 辰也はきっと、自分の気持ちに決着をつけることができたんだろう。 完全にじゃなくても、一区切り。 「、こっちだって」 「うん」 もう一度辰也と手を繋ぐ。 強く、離さないように。 ← → 14.01.23 |