WCも終わり、私たちは秋田に帰ってきた。 そう、WCが終わった。 先輩たちが、引退する。 「先輩…」 考えてみれば、7月から半年。 たった半年だった。 だけど、寂しくて、寂しくて、仕方ない。 「ちん、泣きそう〜」 「だって…」 「お前ら、しっかりやれよ」 そう言って岡村先輩が私の頭を撫でるから、堪えていた涙が溢れた。 「あーあ、泣かせた。氷室に殺されんじゃねー?」 「うおおおっ!?」 「岡村さん…」 辰也が無表情で岡村先輩に近付く。 思わず辰也の服の袖を引っ張る。 「た、辰也」 「冗談だよ」 辰也は寂しげに笑う。 「オレだって、寂しいんですから」 辰也は眉を下げる。 …本当に、最後なんだ。 今日でいなくなる。先輩たちは、引退してしまう。 「頑張れよ、お前たちなら大丈夫だ」 思えばたった半年。 半年前、夏休み。私の世界は変わった。 先輩たちが、いなくなってしまう。 寂しくて、寂しくて、涙が止まらない。 * 先輩たちのいなくなった、少し寂しい部活を終えた後、 辰也と二人部室で部誌を書いていた。 もう明日からは年末年始で部活も休み。 慌ただしいな。 「、目が真っ赤だ」 辰也が私の目の下をなぞる。 「…だって」 「そんなに寂しい?」」 「寂しいよ…辰也だって、同じでしょ?」 「うん」 辰也は最後にみんなで撮った写真を眺めながら話す。 「…部活っていいものだね」 「…うん」 「WCでアツシもすっきりしたみたいだし、よかった」 「……」 辰也の言葉を聞いて、辰也の手を握る。 「…辰也は?」 「え?」 「よかった?」 不安になりながら、辰也にそう聞く。 辰也は、どう思っているんだろう。 「…よかったよ」 辰也は少し寂しげな表情。 私に少し寄りかかってくる。 「…すっきりしたし、タイガとも…」 「…そっか」 「うん。…少し、聞いてくれる?」 辰也は真剣な顔だ。 私は黙って頷いた。 「…WCの前に『自慢の恋人』って言ってくれてだろ」 「…うん」 「嬉しかったよ、本当に」 辰也は私をまっすぐ見る。 少し、ドキドキする。 「…いつもオレを支えてくれて、柔らかく笑って包んでくれて、を好きになってよかった」 「…辰也」 「…いや、そんなだから、好きになったのかな。が好きだよ。を好きになって、好きになってもらえて、幸せだ」 「…私も」 辰也の手を握る。 あたたかい。 「私も辰也のこと好きになってよかった。辰也に好きになってもらえてよかったよ」 「」 「…辰也を好きになるまで、自分がこんなだなんて思わなかったの」 「こんな?」 「…こんなに誰かを強く想うなんて、思わなかったの」 自分がこんなに誰かを強く思うなんて思わなかった。 思いが強すぎて、苦しくなるぐらいに。 「誰かのためにがんばりたいとか、支えになりたいとか、今まで意識したことなくて…辰也を好きになって、いろんなことを考えるようになったよ」 「…」 辰也は私の方を抱き寄せる。 じんわりと、心の奥に幸せが広がっていく。 「…また、支えてもらうかもしれない」 「うん」 「寄りかかってばかりでごめん」 「そんなことないよ。私だって辰也に甘えてばっかりだし」 「もっと甘えてもいいよ?」 「ふふ、ほら」 「?」 「私も一緒だよ。もっと寄りかかっていいんだよ」 そう言うと、辰也は笑う。 穏やかな時間だなあ、と思う。 穏やかで、優しい時間。 「…、少し早いけど、今年はありがとう」 「うん、私もありがとう」 「に会って半年しか経ってないなんて、なんだか信じられないけど」 「ふふ。来年は、一年間ずっと一緒だね」 「そうだね。その次も」 「うん」 こんな時間が、ずっと続けばいいなと思う。 辰也に会えてよかった。バスケ部に入ってよかった。 初めての気持ちを、たくさん教えてくれてありがとう。 これからも、よろしくね。 ← 14.01.31 |