「ご馳走様でした」

夕飯も終わり、後片付け。
お風呂も沸いている。

「辰也、その」

普通に、全く普通に、「お風呂入ってきたら?」と言えばいいんだけど、言い難い。
だって、お風呂…って、うん…。

?」
「え、えっと…」

言いよどんでいると、電話が大きな音で鳴る。
多分、お母さんだ。

「た、辰也、喋っちゃダメだよ!」

そう言ってドキドキしながら電話を取る。

「はい、です」
『あ、?私だけど』
「お母さん」
『大丈夫?ちゃんとやってる?』

お母さんは少し心配そうな声でそう聞いてくる。
考えてみれば、家で一人で一晩過ごすのは初めてなんだ。
いつもは明るいお母さんだけど、心配してくれてるんだろう。

胸の奥が、ちくりと痛む。

「うん。今ご飯食べ終わったよ」
『そう。私たちは明日夕方くらいに帰るわ』
「私は明日も部活。夜まであるから、多分帰るのお母さんたちのほうが早いね」
『そうね。ちゃんと戸締りして寝るのよ』
「心配しなくても大丈夫だよ」
『いやねえ、心配に決まってるじゃない。高校生の女の子が家で一人なんて』
「…うん。大丈夫。ちゃんと気を付けてるから」
『そうね。じゃあ、おやすみなさい』
「うん。おやすみ」

そう言って電話を切る。
辰也が私の髪を撫でた。

「悪い子だ」
「……」
「嘘吐いて男なんて連れ込んで」

そう言われてぎゅっと辰也に抱き着いた。

「…辰也が、そんな子にしたんだよ」

罪悪感は、すごくある。
お父さんお母さん、ごめんなさい、って思ってる。
きっと明日は、まともに家族の顔を見られないだろう。

でも、それでも、この人といたいと思った。
たった一晩、離れるのも惜しいと思うほどに。

「…そうだね」
「責任、取ってね」
「もちろん」
「…辰也」

辰也にギュッと抱き着く。

「私、本当は、すごく真面目なんだよ」
「知ってる」
「…規則とか、ほとんど破ったことなかったし」
「それなのにね」

辰也は私の顔を覗き込む。

「WCのときや今日も、こうやってオレのこと連れ込んじゃって」

覗き込んで、キスをする。
私は黙って受け入れる。

「…ごめんね」
「…辰也」
「すごく嬉しいんだ」

辰也は色っぽい顔で話し出す。

が、いい子なが、オレの前でだけこんな顔することも、悪いことすることも、背徳感でいっぱいで、すごく」
「辰也…」
「もっと、染めたくなる」

辰也は鋭い眼で私を見つめる。
ねえ、もっと。

もっと染めてほしいと、思ってしまう。









 
14.03.14