「ねえ、辰也…」 「ん…」 「あ、あの…」 辰也は何度もキスをして、段々、その、そういう雰囲気に。 で、でも、今日はちょっと待って…! 「た、辰也、お風呂…」 いつもなんかこうやってもつれこんじゃうから、その、せっかく泊まるんだし前にお風呂入りたいです…。 「一緒に?」 「えっ!?」 「一緒に入ろうよ」 辰也は頬を摺り寄せてくる。 お、お風呂、一緒に…!? 「む、無理」 「ええー…」 「だ、だってお風呂って、お風呂でしょ!?」 お風呂って、お風呂って…! 「無理、無理!」 「入ろうよ」 「絶対無理!!」 本当に、本当にそれだけは無理だ…! 「辰也、あの、本当にそれだけは…ごめん」 「どうしても?」 「うん…」 「…わかった」 辰也はものすごーく不機嫌そうな顔で、渋々頷いた。 よ、よかった…。 「じゃあ、その代わり今晩なんでもいうこと聞いてね」 「えっ」 「よし、決まりだ」 「ちょ、ちょっと待って…!」 な、なんでもって。 ものすごく、嫌な予感しかしない。 「待って、辰也待って!」 「じゃあお風呂入ってくれる?」 「わー!」 辰也はひょいと私を抱き上げると、そのままお風呂の方へ向かう。 いや、いやいやいや!? 「わかった!聞く!言うこと聞きます!!」 そう叫ぶと、辰也は嬉しそうな顔で、意地悪そうな顔で、笑った。 「よし、絶対だよ」 「は、はい…」 「じゃあ、お風呂入って来るね」 辰也は私を下すキスをすると、ご機嫌な足取りでお風呂へ向かった。 ………。 まずいかもしれない。とんでもなくまずいかもしれない。 しれないけど、一緒にお風呂は本当無理…。 「うう…」 今夜、私大丈夫かな…。 * 「、上がったよ」 「あ、辰也」 お風呂から出た辰也は髪を少し濡らして、色っぽい感じだ。 服は部活に着替えとして持って行ったけど結局着なかったやつだ。 「えっと…部屋で待ってて」 「うん」 「本棚のやつとか読んでいいし、あとテレビもあるし…」 そう言って辰也を自分の部屋に通す。 さて、私がお風呂だ。 「じゃ、じゃあお風呂行ってきます」 「行ってらっしゃい」 辰也を部屋に残してお風呂へ向かう。 服を脱いで、軽くお湯を流して浴槽に入る。 …うちのお風呂に、辰也が入ったのか。 い、いやいや別に変な意味じゃなくて。 「……」 ち、違う!変なこと考えたりしてない!してないってば! 「はあ…」 本当、今日の私、ダメだ…。 なんなんだろ。どうしてこんな、いきなり、泊まってって言ったり。 …いろいろ、考えてしまったり。 浴槽に半分顔を沈める。 頭が沸騰しそう…。 * 「…よし」 お風呂からあがって、パジャマを着て、化粧水もつけて、髪も乾かした。 歯も磨いて、寝る準備ばっちり。 「……」 辰也のところ、行かなくちゃ。 「辰也?」 「ああ、お帰り」 私の部屋に行くと、辰也は本を読んでいる。 …私の本棚にあった、大学案内だ。 「…、志望校決まったの?」 大学案内には付箋が何枚かついている。 「決まったって言うか…何校かに絞ってるよ」 「そっか」 心臓の鼓動が早くなる。 ずっと、辰也に聞きたかったこと。 聞きたいのに、怖くて聞けなかったこと。 今、聞かないと。 「…辰也は」 「うん」 「大学、どこに…」 俯いたまま、そう聞いた。 「東京のほうって思ってるよ」 「……」 「東京じゃなくても、その辺りかな。神奈川とか」 「そ、そっか…」 辰也の肩に頭を乗せる。 「…よかった」 「?」 「…辰也、卒業したら、アメリカ帰っちゃうかと思ってた」 ずっと不安だった。 辰也はアメリカに帰っちゃうんじゃないかって、怖かった。 そっか、東京か…。 「帰るって、一応オレ生まれは日本だよ」 「そ、そうだけど、結構長い間あっちにいたんだし」 「まあ、ロスも好きだけど」 「……」 「を置いては行かないよ」 辰也は私の頭を撫でる。 また鼓動が早くなる。でも、嫌な感じじゃない。 「…うん」 「も東京なんだろ?」 「うん」 辰也は付箋の貼ってある大学案内を見てそう言う。 前から、大学からは上京しようと思っていた。 「…オレも結構、不安だったんだよ」 「?」 「はここに残るかなって」 「…うん」 確かに友達に進路の話をするとだいたい驚かれる。 地元に残りそうなのに、って。 「ここも大好きだけど、やっぱり…」 地元は大好きだ。 何にもないけど、17年間、生まれ育った場所。 離れ難いとも思う。 だけど、それ以上に、もっと勉強してみたいと思うから。 家族も、納得してくれている。 「…じゃあ、卒業しても、一緒だ」 「うん」 胸をなで下ろす。 ずっと不安だったから。 卒業したら、離ればなれになってしまうんじゃないかと。 「成績いいし真面目だし、推薦取れるんじゃないか?」 「先生もそう言ってくれたよ。もちろんまだ頑張るけど!」 「うん」 「辰也はスポーツ推薦?」 「どうだろう。狙ってはいるけど、こればっかりは相手次第なところもあるし」 「そっか…」 「取れたら一番だけど、一応勉強もするよ。部活あるし大変だけど」 辰也は苦笑する。 今までの喉のつかえが取れたみたいだ。 「?」 「……」 辰也にぎゅっと抱きつく。 「泣きそうな顔してる」 「…怖かったんだよ」 「うん」 「離れ離れなんて、絶対嫌だし、耐えられないって、思って」 「うん」 「だから、安心したら、なんか…」 一晩離れるのも寂しいと思うほどなのに、四年間。 きっと、壊れてしまう。 「大丈夫だよ、」 「うん」 「だってオレも耐えられないよ。どこか行くなら、絶対を連れていくよ」 「うん」 辰也は私にキスをする。 ああ、そっか。 だから今日はやたらと、辰也といたかったんだ。 もしかしたら、来年はこうしていられないかもと考えたりして、不安で。 少しでも、離れたくないと。 「……」 いや、違うかな。 だって、不安じゃなくなっても、辰也と一緒にいたいと思う気持ちは変わらない。 「辰也」 「」 もう一度キスをした。 来年も、四年後も、その先も、今日の夜も、ずっと一緒だよ。 ← → 14.03.21 |