窓の外からはちゅんちゅんと鳥の声。カーテンの隙間からは朝の日差し。
なんて爽やかな春の朝だろう。
ゆっくりと目を開けて頭を覚醒させる。
額に手の甲を当ててみるけれど、熱はなさそうだ。
気分も悪くないし、風邪はだいぶよくなったようだ。

ベッドのすぐ横の床で、辰也が掛け布団にくるまって寝息を立てている。
本当は床でなんて寝させたくないけど、ベッドで一緒に寝るわけにもいかないし、うちに布団もう一組はないし……。

「ん……」
「あ、起きた?おはよう」
……」

辰也は瞼をとろんとさせて、ぼんやりとした様子で何度か瞬きをする。

「もうちょっと……」
「あ、まだ寝る?」
「うん……」

辰也はむにゃむにゃなにかを言いながら、布団の中で丸まる。
辰也、朝弱いんだなあ。考えてみれば一緒に朝を迎えるのは高二のときにうちに辰也が泊まった以来だ。

「おやすみなさい」

布団にくるまる辰也の頭を撫でる。さらさらの髪の毛は寝癖知らずだ。

「違う!」
「わっ!?」

撫でていた辰也の頭が突然跳ねるようにして起き上がる。
私は驚いて思わず後ろに少し飛び退いてしまった。

、熱は!?」

辰也は先ほどまでの眠気はどこへやら、慌てた様子で私の額に手を当てた。

「ちゃんと計ってないけど、多分大丈夫だよ。元気だし!」
「本当だ。あんまり高くなさそうだね」

辰也は安堵するようにほっと息を吐く。

「でもぶり返したらいけないし、今日は寝てた方がいいよ」
「うん。明日からまた学校だし、のんびりしてるね」
「そのほうがいいよ。食欲はある? なにか作るよ」
「ありがと、じゃあね、目玉焼きがいいな」
「了解」

辰也がすっと私に顔を寄せるから、私はいつもみたいに目を閉じようとした。
だけれど、辰也は唇がくっつく前に「あ」と言って口を開ける。

「どうしたの?」
「キスしてもいい? 昨日はダメって言ったから」

辰也の言葉にきょとんと目を丸くしてしまった。
そういえば、昨日そんなことを言ったっけ。

「今日はいい?」

うーん、どうなんだろう……。
風邪は多分治ったけれど治りかけだしいいのだろうかと、首を傾げながら、辰也の表情を見る。
辰也は眉を下げて、捨てられた子犬みたいに寂しそう。
うう、その表情に私は弱いのだ。

「ちょ、ちょっとだけね?」
「ちょっと?」
「ちょっと!」
「了解」

辰也はくすりと笑うと、軽く一瞬だけのキスをした。





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18.02.04