「辰也、何食べる?」 「うーん…あ」 「?何か気になるのあった?」 辰也はお店を見渡していると、声を出した。 何か食べたいものでも見つけたのだろうか。 「うん。スーパーボール掬いだって」 「スーパーボール?」 「懐かしいな…日本にいたころはよくやったんだ」 辰也は子供のようなキラキラした目でそう言う。 少年期に日本にいなかったせいか、それとももともとの性格なのか。 辰也は大人っぽい見た目に反して、こういうものを見ると子供の用に目を輝かせる。 「やる?」 「うん。一回だけ」 屋台にいる店員さんに話しかけて、辰也はポイを一つもらう。 私も辰也も水槽の前にしゃがんだ。 「、欲しいのある?」 「うーん…あのピンクの!」 「よし」 辰也は腕まくりをすると、気合を入れた声を出す。 ひょいひょいと次々にボールを掬い上げていく。 「わ、すごい!」 「これは結構得意だったからね」 辰也はポイが破れるまで取り続ける。 もう結構な数だ。 「全部持って帰りますか?」 「うーん…さすがに全部は」 「じゃあ好きなの取っていってください」 店員さんに言われていくつか好きなのを見繕う。 さっき言ったピンクのボールは真っ先に取った。 「懐かしいな」 「ね」 辰也が懐かしんだ笑顔を見せるので私も笑う。 もうスーパーボールなんて集める年じゃないけど、なんだか懐かしくって嬉しいな。 「じゃ、本題のスイーツだ」 「ふふ」 「オレはあんみつにしようかな…」 「私は…クレープにしよ!」 私と辰也はまたそれぞれ食べたいものを買って、座れる場所を探す。 「ここにしよっか」 「うん」 「はい、」 席に座ると、早速辰也はあんみつを一口分掬って私に差し出してくる。 「ありがと」 差し出されたスプーンを口に含む。 甘さが口に広がった。 「おいしいね!」 「よかった」 「辰也も、はい」 辰也の口の前にクレープを持っていく。 辰也は大きく口を開けてクレープを食べた。 「甘くておいしい。チョコバナナ?」 「うん。クレープはやっぱこれだよね!」 クレープはたくさん種類があるけど、やっぱりチョコバナナ生クリームが一番好きだ。 自分でも一口食べてみる。 うん、やっぱりおいしい! 「可愛い」 辰也は微笑みながら私の頬を撫でる。 「は甘いもの食べてるとき、すごく幸せそうだ」 「そ、そう…?」 「うん。すごく可愛い」 辰也はとてもご機嫌な顔だ。 そんな嬉しそうな顔で可愛いと言われれば、私だっていつも以上にご機嫌になる。 「ありがと。すごく嬉しい」 「本当のことだよ」 そう言われると、私って本当に幸せ者だなあと思う。 いつだって私に惜しみない愛情をくれるのだ。 「ここ、あいてます?」 「あ、大丈夫です」 二人でスイーツを食べていると、隣に人がやってきた。 見た目はアジアンだけど、言葉がちょっと片言だ。 どうやら日本人ではないらしい。 「外国の人もいっぱい来てるね」 「そうだね。確かに外国受けいいかも」 私たちの隣にいる人以外にも、外国人が目につく。 聞こえてくる会話も日本語じゃないものも多い。 確かにこの雰囲気は日本人も楽しめるけど、外国の人にはかなり楽しいだろう。 「アレックスさんもすごく喜びそう」 そんな話をしていると、ふとアレックスさんのことを思い出す。 外国の知り合いと言えば真っ先に思いつくのはアレックスさんだ。 アレックスさん、ここすごく喜びそうだ。 彼女の喜ぶ姿が目に浮かぶ。 「ああ、確かにそう…」 辰也はそう言いかけて口を噤んだ。 顎に手を当てて神妙な顔をしている。 「辰也?」 「…アレックスが来たら裸のまま温泉から出ようとして大変なことになりそうだ…」 「ああ…」 辰也の言うアレックスさんの様子が簡単に想像できてしまう。 …アレックスさんが日本に来ても、ここには連れてこないほうがいいかな。 「でも驚いたな。アレックスの名前が出てくるなんて」 「そう?」 「だって会ったの高校のときだろ?」 「そっか。辰也に言ってなかったっけ」 「?」 「少し前からスカイプしてるの。ID教えてもらって」 「そうなのか!?」 辰也はあからさまに驚いた顔をする。 確かに私とアレックスさんが会ったのは高校のとき…高校二年生のときだから、あれから少し時が経っている。 だけどそのとき連絡先を交換をして、この間私がスカイプのIDを作ったと言ったら「せっかくだから話そうぜ!」と言ってくれたのだ。 「英語教えてもらったりしてるの。結構話せるようになったんだよ」 「そうなんだ…」 「あ、もしかしてダメだった…?」 辰也は少し複雑な表情をしている。 怒っている…というより不安げな表情だ。少なくとも喜んでいる顔ではない。 不安になってそう聞くと、辰也はすぐに首を横に振った。 「ああ、違うんだ。ただ…」 「ただ?」 「…アレックスに変な話されてないよね?」 辰也はじっと私を見つめてくる。 ちょっと怪しんでいる目だ。 思わず辰也から目線を逸らした。 「…そんな話してないよ?」 「……」 「…よし」 「きゃっ!?」 辰也は私の脇腹に触れる。 脇腹は触られるだけでもくすぐったい。 思わず辰也から離れると、辰也は逃がさないとばかりに私の腰を掴んだ。 「な、なに!?」 「ん?嘘ついてるみたいだから少しお仕置きを」 「ごめんなさい言います!ちょっと辰也の昔の話聞いたりしました!」 ここでくすぐられたら大変だ。 辰也の目は本気だし、仕方なく白状することにした。 「昔の話?」 「う、うん…」 「……どんな話?」 「…辰也と大我くんが迷子になって無事帰ってきたら泣いちゃった話とか」 「!アレックス…」 辰也はテーブルに肘をついて、顔を手で覆った。 大きな手の隙間から見える顔は、少し赤い。 「…辰也、あの」 「…アレックスめ…」 こんな辰也はあまり見られない。 ちょっとだけ、私の中にある嗜虐心が疼いてしまう。 「…ほかにも辰也が夜の学校に忍び込んでケガした話とか」 「いい。。もういい」 「あとね、大我くんと一緒にご飯作ろうとしてお皿割っちゃったの家族に内緒にしようとして」 「。大丈夫、いったん落ち着こう」 辰也が珍しく大袈裟にジェスチャーしているのを見て、落ち着いてないのは辰也だけだと確信する。 こんなに恥ずかしがってる辰也は滅多に見られない…どころか、初めて見た。 「ふふ」 「笑い事じゃないよ…」 「ごめん。辰也のこんなとこあんまり見られないから、可愛いなって思って」 「可愛いよりかっこいいがいいよ…」 辰也ははあ、と大きくため息をつく。 そんな様子も可愛い…けど、さすがにそれは言っちゃまずいだろう。 「辰也、かっこいいよ」 そう言いながらよしよしとうなだれる辰也の頭を撫でる。 辰也は少し表情を緩めた。 「本当?」 「うん。いつもかっこいいよ!だからときどきこういう顔すると可愛いなって…ごめんね」 「まあ…ならいいけど」 辰也はうなだれていた体を起こす。 そしてまっすぐ私を見やった。 「でも、これ以上アレックスと昔の話したらだめだよ」 「……」 「」 辰也は真剣な表情で言ってくるけど、返事はできない。 だって、辰也の昔の話をもっと聞きたい。 「返事は?」 「…だって聞きたいもん。私の知らない辰也の話」 「…その気持ちはうれしいけど、アレックスは脚色して話すから…迷子になったときだって泣いてないし」 「そうなの?」 「そのくらいじゃ泣かないよ」 なんだ。子供の辰也が泣いてる姿を想像してちょっと可愛いとか思っていたのに。 でも確かに、子供の頃と言えど辰也はそう簡単に泣きそうにないかな。 つらくても悲しくても、泣かないで我慢してそうだ。 「…せめて話を聞くときは話半分に聞いてくれないか」 「うん」 「はあ…」 辰也にとってはかなりの不意打ちだったのだろう。 未だに溜め息を吐いている。 別に気にしなくても、昔の失敗談を聞いたところで辰也を嫌いになったりすることはないのに。 …と思ったけど、確かに私も辰也に昔の失敗談の話聞かれてたら恥ずかしいな…。 そう思うとちょっと申し訳ない気もするけど、私だって辰也の昔の話を聞きたいのだ。 「ね、辰也、温泉行こ。…って言っても足湯だけど」 せめてもの償い…というほどじゃないけど、元気づけようと誘ってみる。 辰也はぱあっと笑顔になった。 「うん。行こう!」 「ふふ」 温泉、かなり楽しみにしていたようだし喜んでくれてよかった。 二人で手をつないで足湯の浴場へと向かった。 「あー…気持ちいいね」 「うん。足湯って初めてだ」 「私も」 温泉に足をつける。 足から温まっていって、とても気持ちいい。 「はー…」 辰也はころんと私の肩に頭を乗せる。 すごく穏やかな顔だ。とても幸せそう。 「一緒に温泉も入りたいな…」 「温泉…は難しいかなあ。混浴は嫌だし…」 「そんなのオレだって嫌だよ。絶対だめだ」 辰也は真面目な顔をして、私の肩を掴んでくる。 そ、そんなに本気で言わなくても大丈夫だよ…。 「家族風呂ってあるんだろ?入り口に書いてあった」 「そうなの?よく見てるね」 入り口にそんな看板あったの、私は全く気付かなかった。 家族風呂ということは、グループだけで入れるお風呂があるということか。 「予約制で今日はもういっぱいみたいだったけど…今度来たときは一緒に入ろう」 辰也は甘えるように、私の頭に頬を摺り寄せる。 一緒にお風呂…ちょっと恥ずかしいけど、こういう雰囲気は確かにいいなあ。 「そうだね。入ろう」 「楽しみにしてるよ」 「うん!」 そう言ってにっこり笑う。 次の約束も取り付けて、温泉と、浴衣と、辰也。なんだか最高のシチュエーションだ。 大江戸温泉に行ってきました ← 15.02.10 コラボの大江戸温泉が楽しかったので! 感想もらえるとやる気出ます! |