今日は私のお父さんの誕生日だ。
お母さんとお兄ちゃんと一緒に、お父さんの誕生日を祝うためのケーキを作っている。

「お父さん、喜んでくれるかなあ?」
「もちろん」

お母さんが焼いたケーキに生クリームを塗りながらお母さんにそう聞いた。
お母さんはにっこり笑顔で答えてくれる。

「翠と葵が作ったって知ったら、辰也感動して泣いちゃうかも」
「かんどう?」
「すっごう嬉しいってこと」

お母さんは私の頭をよしよしと撫でる。
あったかくて大きな手だ。
私はお母さんの手が大好き。

「ほら、次は苺乗せようね」
「うん!」

お兄ちゃんがボウルから苺を一つ取って、ケーキの上に乗せた。
私もそれに続いて苺を一つ乗せる。

「あっ!」

私の乗せた苺は、ケーキからお皿の上にぽろりと落ちてしまう。

「あんまり端っこに乗せちゃだめだぞ」
「うん、わかった」

お兄ちゃんの言葉通り、次の苺はケーキの真ん中の方に乗せた。
今度は苺は落ちることなく、その様子を見て私はにっこりと笑った。

そんな私とお兄ちゃんのことを、お母さんはずっとにこにこしながら見ていた。



「あ、帰ってきた!」

玄関からドアの開く音がする。
お父さんが帰ってきたんだ。

「お父さーん!」

リビングから玄関へ一目散に駆けて行く。
お父さんは私を見た瞬間笑顔になって私を抱き上げてくれた。

「お父さん、お帰りなさい!」
「ただいま、翠」

お父さんは私のほっぺにキスをする。
私は嬉しくなってぎゅーっとお父さんに抱き付いた。

「お帰りなさい」

リビングに入るとお母さんが笑顔で駆け寄ってきた。
お父さんは私を抱っこしたまま、少し屈んでお母さんにキスをする。

「ただいま」

お口でキスできるのはお父さんとお母さんだけらしい。
私はお父さんともお母さんともしちゃだめだって。
「いつかできる翠の大切な人のために取っておきなさい」ってお母さんは言う。
お父さんとお母さんもお兄ちゃんも大切だけど、それとはちょっと違うらしい。

「あのね、お父さん。私とお兄ちゃんとで、ケーキ作ったよ」
「二人で?すごいな」
「うん!」

私の言葉を聞いて、お母さんは冷蔵庫からケーキを出してきた。

「ほら見て。二人とも頑張ってくれたのよ」

ケーキを見てお父さんはぱあっと顔を明るくさせた。
私の誕生日にお母さんが作ってくれたケーキより形が悪いけど、お父さん、喜んでくれているみたいだ。

「すごいな、二人とも。ありがとう」
「えへへ」

お父さんはまた私のほっぺにキスをする。
その後、お兄ちゃんの頭をよしよしと撫でた。

「お母さんが作るよりね、ぐちゃぐちゃなの。なんでだろ」

お母さんは誕生日とか、クリスマスとか、いろんなときにケーキを作ってくれるけど、いつもまん丸で生クリームもぐちゃっとしないで綺麗だ。
どうやったらあんなに綺麗になるんだろう。

「翠も大きくなったらできるよ」
「ほんとう?」
「ああ、翠はにそっくりだから。大人になったらきっと一人でおいしいケーキを作れるようになる」

お父さんはよく私のことをお母さんにそっくりって言う。
私もいつかお母さんみたいになれるだろうか。

「…でも、しばらくはお嫁に行かないでね」
「?」

お父さんはぎゅーっと私を抱きしめた。

「およめさん?」
「辰也!」

お母さんは厳しい声を出す。
なに怒っているんだろう。

「もう、またそれなんだから」
「だって」
「辰也だって私のことお嫁にもらったんだからね?わかってる?」

お父さんとお母さん、なんの話をしているんだろう。
私にはよくわからない。

「ね、お父さん。ケーキ食べて!」
「ああ、着替えてくるからちょっと待っててね」

そう言ってお父さんは私の頭を撫でて自分の部屋の方へと向かった。

「ねえ、お母さん。なんでお嫁さん行っちゃいけないの?」

さっきお父さんはそんなようなことを言っていた。
なんでお父さんはそんなこと言っているんだろう。私にはわからない。

「お父さんはヤキモチ妬いてるだけだから。大丈夫、お嫁さんになっていいのよ」
「ほんとう?」
「うん。いつか翠に大切な人ができて、その人も翠のこと大切に思ってくれて、二人とも結婚したいって思えたらね」

「葵もね」お母さんはお兄ちゃんを見てにっこり笑う。

「たいせつ…お母さんもお父さんも、お兄ちゃんも大切だよ。それとは違うの?」
「んー、ちょっと違うの」
「んー…」
「翠にもいつかわかるよ」
「お母さんは、お父さんのこと特別なの?」

お母さんとお父さんは結婚してる。
だから、お母さんはお父さんのこと、特別なんだろうか。

「うん、そうよ」
「翠のことは?」
「翠も葵も特別!でもね、特別の種類が違うって言うか…うーん…」

「難しいなあ」ってお母さんはつぶやいてる。
わからないけど、なんとなくわかる気がする。

「お口でちゅーしていいのが、特別?」
「あはは、そうね」
「そっかあ」

お口でちゅーしていいのはお父さんとお母さんだけって言っていた。
じゃあ、ちゅーしていいのが特別なんだ。

「お母さんとちゅーしていいの、お父さんだけだもんね」
「そうよ、今までも、これからもずーっと辰也だけなの」
「えへへ、お母さん可愛い」
「えっ」

お母さんにぎゅっと抱きついた。
お父さんの話をするときのお母さんは、ときどきとっても可愛い顔をする。
よくわかんないけど、すっごくかわいい!

「お待たせ」
「お父さん!」

お父さんは着替え終えてリビングにやってきた。
思わずお父さんに抱きついた。

「お父さん、お母さん可愛いよ!」
「うん。は可愛いよね。翠も可愛い」
「えへへ」

お父さんはぎゅーっと抱きしめ返してくれる。
お父さんもお母さんも、お兄ちゃんもだいすき!







世界で一番好きな人
つづき→
15.10.30

ハッピーバースデー!



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