※氷室の「幸せになろうか」とリンクしてるお話です
※というかそっちを先に読んでいないとわかりにくいかもしれません








ち〜ん、今日家行っていい?」
「え」

敦と帰る帰り道。
今日はこのままバイバイかと思いきや、そんなことを言われてしまう。

「敦、部活やってたじゃん。疲れてないの?」
「よゆー」
「じゃ、じゃあ、どっか寄って」
ちん家がいい〜」
「ちょ、ちょっと待って!」

敦は私を引っ張って、私の家に向かう。
家は、嫌なんだけど…。





「とりあえず、飲み物持ってくるから」

…敦は私の制止も聞かず、ずんずん突き進みあっと言う間に私の家。
ここまできたら仕方ない。
お菓子でも持ってきて敦の気を紛らわそう。

「いらないー」
「え」

いつもはこっちが言う前に「オレンジジュース〜あとポテチ〜甘いのも欲しい〜」とか言ってくるくせに…!
驚いていると、敦は私の腕を引っ張る。

「わっ!」
「他に誰もいないんでしょ〜」

敦は私を抱きしめると、私の服を脱がそうとする。
いや、いやいやいや!

「敦、待っ」
「やだ」

もともと人の言うことを聞かない敦、こんなときもそれは同じ。
でもちょっと本当に待って…!

「いったー!!」

敦のお腹を思いっきり蹴ると、敦はお腹を抱えて丸くなる。
ごめん敦。でも敦がいけない。

ちん、ひどい…超痛いし」
「ひどいのは敦も一緒でしょ!…嫌って言ってるのに」
「でも、前はいいって言った」

…う。
前、って言うのは、その、数日前のこと。
今日みたいに敦が私の家にきて、他に誰もいなくて、
まあ、その、初めて、そういう雰囲気になったのだけど。

「…でも、出来なかったじゃない」

そう、そういう雰囲気になったはいいものの、出来なかったのだ。
敦は、その、見ての通り、身長が大きい。
だから、まあ、大きいわけで。
まあ、その、なんていうの、しようとしても、痛くて、出来なかったというか…。

「うん。だからリベンジ」
「り、リベンジって…」

敦はまた私のほうに近付く。
だだだだから待って…!

「た、タイム!」
「……」

そう言うと敦は予想以上に暗い顔をした。
今まで見たことないくらい、悲しそうな顔。

「あ、敦…」
ちん、オレのこと嫌いになっちゃった?」
「え?」
「…オレが上手くできないから、もうオレのこと嫌い?」

敦は今にも泣き出しそうな顔でそう言う。
まさかそんな思考に飛んでしまうなんて。
嫌いになんて、なるはずがないのに。

「敦」
「……」
「そんなことで嫌いになったりしないよ。好きだよ」
「…本当?」
「うん」

そう言えば敦はほっとしたように笑った。
…うん、そう。この顔。
可愛いやつだ。

それに、不謹慎だけど、今、少し嬉しかった。
私に嫌われることを、そんなに怖がってくれているのか。
心の中で謝りつつ、敦の頭を撫でた。

「じゃあやろうよ」
「え」
「いいでしょー」
「だーかーら!」

…そりゃ、敦は高校生の男の子なわけだし、したいんだろうけど。
一方私は、敦のこと好きで、あのときいい加減な気持ちでしようと思ったわけではないけど、そんなすごくしたいってわけでもないし。
あと本当痛かったのでちょっと怖いし。
なにより、「しようとしたのに出来なかった」というのは、結構ショックだったのだ。

そんなにすぐに、「じゃあもう一回」という気分には、なれない。

「えー…」
「あのね、敦」
「うん」
「…その、ほら、あのときね、…痛かったし、そんなすぐにしようとは思えないっていうか…」
「痛くないように頑張る」
「が、頑張るって…」
「室ちんにいろいろ聞いてきたからー」

…ん?

「むろちん?」
「うん、室ちん」
「…氷室先輩のことだよね」
「うん」
「……聞いてきたって…」
「入んなかったって言ったら、いろいろ教えてくれた」

いろいろ聞いてきた、って。
入んなかったって言ったら、って。

「あ…」
「あ?」
「敦ーーー!!」

敦の頭を思いっきり叩く。
何考えてるのこいつ…!!

「いたーい!」
「敦のバカ!!」
「え〜…」
「そ、そういうのは人に話すことじゃないでしょ!」

まさかそんなこと話してたなんて…!
羞恥でどうにかなりそうだ…!

「だって〜」
「だってじゃない!バカ!最低!!」

じわりと涙が出てくる。
敦のバカ…!

ちん」
「……」
「…ダメだった?」

敦に呼ばれても返事をしない。というか、できない。

「…ごめん」

敦は私の手を握って、小さい声でそう言った。

「だって、ちん好きだから、したかったんだもん。それに、痛そうだから、どうにかしなきゃって」
「…敦…」
「室ちんそういうの詳しいから、聞けばどうにかなるかなって」

…氷室先輩がそういうの詳しい、っていうのは置いておいて。

きっと、敦は真剣に考えてくれたんだろう。
デリカシーないけど、敦は敦なりに考えてくれてる。

「室ちんなら人に話したりしないし、ほかにそういうの相談できる人いないし」
「…」
「…ちん」

…うん。やっぱり敦は真剣に考えてくれたんだろう。
まあ、あれだ。うん。私も敦とケンカしたとき、友達に相談したりするし、そういうものだ。
うん、そうだ、変なことじゃない。
氷室先輩のことはそんなに詳しくないけど、敦の言う通り人に話したりもしないだろう。
うん、大丈夫。そう、大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせる。

「敦」
「…ごめん」
「いいよ、もう。私も最低とか言っちゃってごめんね」

よしよしと頭を撫でると、敦の表情はぱあっと明るくなる。
図体はでかいけど、可愛い奴だ。
可愛い、私の好きな人。

「だからやろー」
「え」
「ほんといろいろ聞いたから多分大丈夫だよ〜」

い、いやいや!ちょっと待って!

「ちょ、ちょっと待って」
「…ちん、オレのこと嫌い?」
「好きだけど!それとこれとは!」
「オレ、頑張る。ちんが気持ちよくなるように頑張るから」

き、気持ちよくって…!
本当にちょっと待って!








「あ、室ちんだ」
「え?」

敦と一緒に学校へ行く途中、敦が前を歩く氷室先輩を見つける。

「室ち〜ん」
「アツシ」
「この間ありがとうね〜」
「?」
「!」

氷室先輩は「なんのことだろう」という顔をする。
も、もしや…!

「ちゃんとできたよ〜」
「あ、敦!!」

制止しようとするけど、間に合わない。
恐る恐る氷室先輩を見ると、とてもいい笑顔をしている。

「よかったね、二人とも」
「うん、ありがと〜」

二人は穏やかに会話している。
こ、この二人は…。

「敦、先輩…!」
「ん?」
「せめてそういう話は私のいないところでやってください!」

そう言って私は早足で歩きだす。
二人ともバカ…最低…!

「怒らせちゃった〜」
「はは。でも、アツシ、ご機嫌だね」
「うん。幸せだもん〜ちんも幸せって言ってくれたし〜」
「そっか。よかったね」









幸せになったよ
13.05.14.

幸せになろうかの紫原サイド
無事結ばれましたおめでとう

「室ちんそういうの詳しいし」ってセリフは笑うところです


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