「あ、氷室!」

自主練を終えて部室に入ると、が部誌を書いていた。

、大丈夫だった?」
「うん」

今日は、バレンタインデー。
前に話していたチョコレートの件を聞いてみる。

「軽〜い感じでだけどね、ちゃんと渡したよ」
「それはよかった」
「それでね…」

は鞄の中から何か出そうとする。
何かは、察しがついている。

「どうしたの?」
「…いや、氷室にもチョコ持ってきたんだけど…」
「くれないの?」
「…なんかすごいもらってるみたいだし」

ああ、まあ、確かに。
朝の下駄箱、机の中、さらには休憩時間に呼び出されたり。
結構な数のチョコレートをもらった。
だけど、

の、欲しいな」

の隣に座る。
…オレが欲しいのは、のだけだ。

「…知らない子からもらうより、みたいに知ってる子からもらうほうが嬉しいよ」

必死の、苦しい言い訳だ。

「…そう?じゃあ…」

は鞄から可愛くラッピングされたチョコレートを取り出す。

「…はい。いつもありがとう」
「…これ、手作り?」
「うん」

…手作り、か。
の手作りチョコレート。
嬉しいはずなのに、苦しい。

「あ、あの、氷室」
「ありがとう。大切に食べるよ」

下手なことを言う前に、お礼を言ってしまってしまおう。
今は、何を言うか、わからない。

「…氷室、いっぱいチョコもらってるね」
「ん、まあ…」
「そんなにモテるのに、誰とも付き合わないの?」

残酷な質問だ。
付き合う?以外と?

は好きでもない人と付き合える?」
「…無理です」
「だろう?」

当たり前だろ。無理に決まってる。

「じゃあ、オレはそろそろ帰るよ」
「うん。バイバイ」

そう言って部室を出た。
手には、からのチョコレート。

…あいつに作ったものの、練習作か、ただのあまりか。
どちらにせよ、おまけだ。

叩き割ってしまいたい。でも、そんなことできるはずもない。
嬉しいはずのチョコレート。
嬉しい気持ちが全くないと言ったら嘘になる。
でも、それ以上に、嫉妬で心の中がぐちゃぐちゃだ。











嘘が上手くなるたびに
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14.02.18