「はあ…」

一大イベントだったバレンタインから数日。
部室で息を漏らした。

「何かあったの?」
「…ううん、何にも」

特別何かがあったわけじゃない。
バレンタインだってチョコレート渡せたし、それなりに会話もある。
だけど、うまくいくのかなあ、という漠然とした不安。
ときどき押し寄せる、焦燥感だ。

「ただ、ときどき不安になっちゃって」

机に突っ伏す。
人を好きになると苦しいなあ、とつくづく思う。
言葉や行動の端々が気になって、嫌われてるんじゃないかと悲しくなったり、逆にもしかして、と期待を募らせたり。
いろんなことを考えてしまって、苦しくなる。

「…は、可愛いよ」

氷室は私の隣に座って、そう言う。
顔が赤くなるのを感じた。

「ひ、氷室」
「不安になるなってほうが無理かもしれないけど」

氷室は私の頭を優しく撫でる。

「不安そうにしてる顔より、明るく笑ってる方が、は可愛いよ」

氷室は優しく微笑む。
胸がぎゅっと締め付けられるような感触だ。

「ひ、氷室」
「ん?」
「あ、あの、ありがとう」

赤くなった顔を抑えながらそう言う。
…多分、氷室は励ましてくれたんだろう。

「…どういたしまして」

氷室は、優しい。
いつも私の話を聞いてくれて、私を励ましてくれて。
優しくて、素敵な人だ。

「で、でもね」
「?」
「か、可愛いとか、あんまり言わないで…」

未だに熱い頬を抑えながらそう言う。
可愛いなんて言われ慣れていないものだから、なんていうの、その。

すごく、ドキドキしてしまう。

「…可愛いよ」
「だ、だから」
「本当にね」

反論しようとすると、氷室は寂しげな顔をした。

「…氷室?」
「…ごめん。嫌ならもう言わないけど」
「…」
「ただ、覚えておいて。は、すごく可愛いよ」

氷室は私の頭を撫でる。
優しい手つきだ。
ドキドキする。

「だから、自信を持って。は、キラキラした笑顔が一番素敵だ」

氷室は励ますように私の手をぎゅっと握った。
胸の奥がぎゅっと掴まれたようだ。

さっきまでとは違うドキドキが胸を襲う。

「…氷室、私…」
「…もう、帰るね。また明日」

氷室はそう言うと、私の手を離して鞄を手に持った。

「…う、うん。また明日」

氷室を見送って、一人部室で胸を押さえる。
胸が、痛い。











優しい人
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14.03.11








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