あれから一ヶ月が経った。
氷室に告白して、一ヶ月。

私が片想いしてた彼は、なんと他校に彼女がいたそうだ。
先日のホワイトデー、彼が簡単なお返しをくれたのだけど、そのとき鞄に豪勢な包みが入っているのを見てしまったのだ。
ちょっと気まずそうな顔をしながら、「うちの学校の奴には誰にも言ってないんだけど」と前置きして教えてくれた。
割とモテる人だったので、私の手作りチョコも大して気に留めていないようだった。

純粋に、よかったなあと思える。


「ねえ氷室、機嫌直してよ」
「……」
「もう」

部活が終わり、氷室の部屋。
最近は部活が終わった後は氷室の部屋に行くことが多い。

いつもは他愛もない話をして笑っているけど、今日の氷室は不機嫌な顔をしてる。
今日の部活中に彼と話したのが原因だろう。

そりゃ、自分の恋人が、以前好きだったと言う人と話したら不機嫌になっても仕方ない。
とはいえ、同じ部活だから無視すると言うわけにもいかないし…。

「氷室」
「…ごめん」

氷室は私を抱きしめると、ぽんぽんと私の背中を撫でるように叩いた。

「わかってるんだけどね、つい」
「…ううん、しょうがないよ。私も気を付けるから」

私も氷室を抱きしめる。
氷室に嫌な思いをさせたくない。
今までたくさん、辛い思いをさせてきたのだから。


「…あのね、渡したいものがあるんだ」

そう言って氷室から体を離す。
鞄から自分でラッピングした包みを出した。

「これ…」
「チョコレートなんだけど…」

昨日の夜、一人で作ったチョコレート。
バレンタインの時にも渡したけど、あれとは違う。
ちゃんと、氷室のために作ったチョコレートを氷室に食べてほしいと思った。

「…ありがと。大切に食べるよ」

氷室は噛み締めるような表情でそう言う。
ちゃんとおいしくできてるよね。味見もしたし…。

「…バレンタインの時さ」

氷室は少し遠い眼で話し出す。
私は真っ直ぐ見つめて氷室の話を聞いた。

「チョコレートもらったの嬉しかったけど、すごく、悔しくてさ」
「…ごめんね」
「ああ、別に恨み言じゃなくて…」

氷室は優しく私の髪を撫でる。

「今、すごく嬉しいなって」

そう言われて、思わず氷室の腕の中に飛び込んだ。

「…ごめんね、いっぱいつらい思いさせたよね」
「いいんだよ、もう。ずっと好きだったが、今、オレの腕の中にいる」

ぎゅっと抱きしめられる。
苦しいくらいに。

「それだけでいいんだ」

氷室はずっと私を好きだったと言う。
私から相談を受けたすぐ後からだと。
長い間、私の話を聞いていたくれたんだ。
今思い返しても、きっと氷室のことを傷つけるような話をたくさんしたと思う。
お詫びではないけど、氷室のことを、たくさん幸せにしよう。

「氷室、あのね」
「?」
「好きだよ」

たくさんこの言葉を言おう。
何度言っても足りないくらい、氷室が好きだよ。

「?」

氷室は私の唇に人差し指を当てる。

「もう一回」
「え…」
「ね」

そう言われてもう一度言い直す。

「ひむ…」

…言い直そうとしたらまた人差し指を当てられた。
…言えない。


「…?」
「ね、もう一回、『』」

わざとらしく強調された名前に、さすがに私も理解する。
少し、緊張するけど。

「…辰也」
「うん」
「好きだよ」
「オレも、が好きだよ」

好きだよ。辰也が好きだよ。









君が言えなかった ひとことを
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14.07.22