あれから一ヶ月が経った。

が片想いをしていたあいつには、他校に彼女がいたそうだ。
先日のホワイトデー、はあいつから簡単なお返しをもらったようで、そのときたまたま彼女へのお返しも見えてしまったとか。
「氷室には心配かけたくないから」と前置きして、あいつからお返しをもらったこと、あいつに彼女がいることをは告げてくれた。
そのときのの表情は、特に未練なんてなさそうだった。
…女性は切り替えが早いと言うけど、本当なんだな。
内心ほっと息を吐いた。


「ねえ氷室、機嫌直してよ」
「……」
「もう」

部活が終わり、オレの部屋。
には申し訳ないと思うけど、不機嫌だ。

原因は、単純。
部活中に、とあいつが話していたから。

部員とマネージャー。話さなくてはいけない場合が多いことはわかってる。
でも、どうしても嫉妬してしまう。

「氷室」
「…ごめん」

は眉を下げてオレの名前を呼ぶ。
…わかってる。は何も悪くないと。

「わかってるんだけどね、つい」
「…ううん、しょうがないよ。私も気を付けるから」

を抱きしめると、もオレを抱きしめる。
が気を遣ってくれていることは感じている。
ホワイトデーのお返しをもらったことを話してくれたことはもちろん、普段からそうだ。
なるべくあいつと話さないよう、関わらないよう、でも周りから不信に思われないよう振る舞っている。
申し訳ないな、と思っているよ。ごめんね。


「…あのね、渡したいものがあるんだ」

はそう言って、少しオレから体を離す。
自分の鞄の中身を探り始めた。

「これ…」
「…チョコレートなんだけど」

バレンタインの時にもらったものとはまったく違う。
シンプルだけど、どこか煌びやかなような、センスのいいラッピングだ。

「…ちゃんと、氷室のために作ったチョコレートを、氷室に食べてほしいと思って」
「…ありがと。大切に食べるよ」

は小さい声で言う。
胸が、張り裂けそうだ。

「…バレンタインの時さ、チョコレートもらったの嬉しかったけど、すごく、悔しくてさ」
「…ごめんね」
「ああ、別に恨み言じゃなくて…」

今の言い方はまずかったかな。
文句や恨み節を言いたいわけじゃない。

「今、すごく嬉しいなって」

その気持ちを伝えたいんだ。

「…ごめんね、いっぱいつらい思いさせたよね」
「いいんだよ、もう。ずっと好きだったが、今、オレの腕の中にいる」

ぎゅっと抱きしめる。
苦しいくらいに。

「それだけでいいんだ」

ずっとのことが好きだった。
そう告げた時、申し訳なさそうな顔で「ごめんね」と言われた。
そんな顔をしてほしいじゃない。
いつも、オレに相談していたときのような、キラキラしていた顔が、好きだよ。
あの顔を、ずっとオレだけに見せてほしい。

「氷室、あのね」
「?」
「好きだよ」

は優しい声で言う。
すごく嬉しいけど、ひとつ、足りない。

「?」

の唇に人差し指を当てる。

「もう一回」
「え…」
「ね」
「ひむ…」

もう一度言い直そうとするの唇に、また人差し指を当てる。


「…?」
「ね、もう一回、『』」

わざとらしく強調して名前を呼ぶと、さすがにも気付いたみたいだ。
呼んでほしいんだ。に。

「…辰也」
「うん」
「好きだよ」
「オレも、が好きだよ」

好きだよ。が好きだよ。










世界の色が変わった日
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14.07.22





あとがき
今まで書いてきた氷室夢はだいたい氷室が押せ押せどんどんなので書いていて新鮮でとても楽しかったです
執筆中たびたびブログに書いてきましたが連載のモデルは某乙女ゲーの親友モードでした
事故チューが出てきてるあたり私が2信者なのが見て取れます

この連載で意識したことは、氷室とヒロイン以外のキャラクターをしゃべらせないこと、
(ほかのキャラがしゃべるときは氷室かヒロインのモノローグ中だけになってます)、
氷室もヒロインも、お互いに気持ちを告げるまで「佐藤が好き」「氷室が好き」とモノローグ中でも言わせなかった(初めて口にするのはお互いに告げるときであってほしかった)こととか、
割と好き勝手書くことの多い私がいろいろ考えて書いたので途中頭こんがらがったりもしましたが、やっぱり頭をフル回転させたお話を終えるのは達成感がありますね
一つの連載を終わらせるのはとても寂しいですが、最後まで書くことができて本当に良かったです
最後まで読んでくださった方々、連載中拍手やコメントくださった方々、本当にありがとうございました!



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