白石と付き合い始めてから一週間が経った。
もともと噂が立っていたこともあって、白石と私が付き合っていることは3年生のほとんどが知っているようだ。
テニス部部長である白石はもちろん、三年間クラス委員を務めてきた私もそれなりに有名人ではあるから、当然といえば当然なのかもしれないけど。


「そこの資料、取ってくれる?」
「これ?」

今日も白石は私の委員の仕事を手伝ってくれている。
ありがたいことはありがたいんだけど、私のせいで白石に余計な負担をかけているんじゃないかと心配になってしまう。

「そない心配せんでええって」

白石はいつもそう返してくれるけど、本当は私より白石のほうが忙しいんじゃないかな。
私の入っている部活はそんなに忙しくないけど、白石は強豪テニス部の部長、自分の委員もやってその上私の手伝いなんて、それこそ白石は無理してるんじゃないか。

「俺は適度に手抜いとるし」
「手抜いてるようには見えないよ」
「あとからかって遊んどるからええ感じにストレス発散できとる」
「…どういう意味?」
「それ、その反応」

くくっと白石は声を出して笑う。
…なんだか性格変わったような気がするんだけど。

「…なんか、全部白石の思い通りにされてる気分」
「そないなことあらへんよ」
「嘘っぽい」
「いや、俺かて噂が立ってしもたときはさすがに焦ったで」

そういえば、噂のことはまだ聞いていなかった。
そもそもあんな噂が流れたのは白石がみいちゃんを振ったときに「私を好きだから」と言ったからだっけ。

「女子のネットワークって怖いわ。あない早く噂広がるなんて」
「私だってびっくりしたよ。あのときは大して白石と話してなかったし」
「ホンマやで。俺はとちょっとずつお近づきなって…って計画しとったのに」
「…そんな計画してたんだ」
「するやろ、普通。かて好きな相手とはちょっとでも近づきたい思うやろ?」

まあ、そりゃそうだけど。
実際白石とお昼食べようと必死だったりしたわけだし。

「それに、にあない厳しいこと言うつもりやなかったしなあ」
「?なんの話?」
「一緒に帰ったとき、無理してるっちゅー話したやん。あんときはさすがにまずったな思たで」
「あー…」

気にしないで、と言ってはずだけど、白石は相変わらずあのことを気にしているようだ。
何度も言っているように、私は寧ろ救われたのだからあまり気にされるとこっちも気まずいんだけど。

「見てられへんかったしなあ…」
「…私、そんなあからさまだった?」
「いや、どうやろ。俺はずーっと見とったからなあ」

白石はさらっとそういうことを言うけれど、私はそれがどうしても慣れない。
現に今、私の顔は赤くなってしまっている。

「…やっぱり思い通りって感じがする」
「だからそないなことあらへんて」

だって白石は赤くなった私を見て、再びからかうように笑っている。
からかってストレス発散」とか言っていた後にこれなんだから、計算してやったんじゃいかと疑ってしまうのも仕方ない気がするんだけど。

「そういえば、はあの噂、どう思っとったん?」
「…正直嫌でした」
「ほお」
「だって白石のこと好きでも嫌いでもなかったし。そんな白石のおかげで女子たちの妬み嫉みの対象になるかと思うと…」
「今は?」
「え?」
「今は嫉妬の対象になること、どう思っとるん?」
「…今はそんなの屁でもないです」

だって、そりゃ、好きなんだから。
第一嫉妬だなんだって言ってもさすがお笑い学校の四天宝寺、そんな変なことをするような人はほとんどいない。

「まあ、なんかあったら無理せんとすぐに言うんやで」

白石はそう言ってまた私の頭を撫でる。
一体この一週間でどのくらい撫でられたんだろう、嬉しいけれど恥ずかしい。

「もう大丈夫だよ」
「?」
「だって私が無理してたら、白石が気付いてくれるでしょ?」

白石は、ずっと私を見ていて、無理しているのに気付いたと言っていた。
だったら、これからも私を見て気付いてくれるだろう。
自分からつらいと訴えないのは甘えかもしれないけど、白石は無理しちゃいけないと言ってくれた。
そのくらい甘えても、いいかな。

「ほな、ずっとのこと見てなアカンな」
「よろしくお願いします」

そう言って、私と白石は笑い合う。
こうするだけで、前よりずっと心が軽くなるような気がする。
白石は半分嘘だと言ったけれど、やっぱり笑顔は重要だと思う。

今までもこれからも、白石の笑顔は私を助けてくれる。
だから私は、白石が好きだと言ってくれた笑顔を絶やさないようにしよう。










end.



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10.04.14








あとがき

ここまで読んでくださってありがとうございました!
連載は本当に久しぶりで、いろいろ拙い点もあったと思いますが、読んでくださった方が少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
いろいろ反省点もありますが、連載中にメッセージ下さった方もたくさんいらっしゃって励みになりました。本当にありがとうございました。

今回、読んでいる方にもヒロインと同じく白石の気持ち・言動がわからずヤキモキしてもらいたかったので、
意図的に白石視点の話を盛り込まなかったのですが、そのせいで白石の行動がやたら唐突っぽくなってしまったような…。
機会があればその辺りの話や付き合った後の話も書いてみたいです。

無事白石の誕生日に完結できてよかったです。
完結記念に感想くださると嬉しいです!