「よっ」 屋上に入れば白石はこの間と同じようにすでにお弁当を広げている。 私は「失礼」と言いながらその隣に座る。 「これ、やるわ」 「卵焼き?」 「そ、この間うまそうに食べてたし、一昨日のお詫びも兼ねて」 「ちょ、お詫びなんていいってば」 「、俺の厚意を無駄にするん?ひどいわあ」 「え」 「無理しとるって気づかせてやったりしたのになあ…」 「…わかった、わかったから!受け取ればいいんでしょ!」 そう言って白石から卵焼きをひとつ奪って、口の中に入れる。 「…なんか、白石性格変わった?」 「んなことあらへん。俺はいつも通りやで」 「いや、絶対に変わってる。少なくともそんな意地悪いこと言わなかったよ」 「も前までそないなツッコミせえへんかったやん」 そりゃ、前と違って今はちゃんと話すようになったのだ。 たった二日、されど二日。 こうやって話すようになれば、前には言えなかったことも平気で言えるようになる。 「……」 白石は少し楽しそうだけど、私はちょっとむすっとしている。 …、いや、ダメだ。 「人間関係の基本は笑顔からやで」 白石の言葉を思い出して、私は顔を綻ばせた。 「…、何にやけとるん?」 「なっ…!」 「思い出し笑い?」 「白石が『人間関係の基本は笑顔からやで』って言ったんじゃない!」 「…ああ、言うたっけな」 こ、こいつ忘れてた…!? 必死にその言葉を信じて笑顔になったってのに! ああ、何でこんな人を好きになってしまったんだ私は。 というか本当に性格変わってるんじゃない…。 …今思えば、話し始めた当初から片鱗は出ていたかもしれないけど。 「…あれ、嘘だったの?」 「まあ、嘘ではないけど、ホンマでもないっちゅーか」 「?」 「ただ、の笑ってる顔が見たかっただけや」 白石は、今までにないくらいきれいな笑顔を私に向けた。 「は、笑顔が一番可愛いからなあ」 「それは、」 「ん?」 「どういう、意味で」 白石と話し始めたときよりも、うまく言葉が出てこない。 あんな噂があったくらいだし、期待してなかったわけじゃないけど、 「あの噂はホンマやってこと」 「う、そ」 「うそって、ホンマやって言うてるやん」 「…いや、疑ってるってわけじゃなくて…」 白石がこんな嘘を言うような人じゃないことはわかってる。 「うそ」なんて、思わず口から出てしまっただけで。 「で?」 「えっ?」 「『えっ?』やなくて、はどう思っとるのかって話」 「…、私、も」 「……」 「噂が本当だったらいいなって、思ってたよ」 俯きながらそう言うと、私の頭を白石の手が撫でた。 「あー…」 「…ど、どうしたの?」 「幸せやなあ、って思っただけ」 「…私もです」 ← top → 10.04.14 |