自分の性格を表すのに「しっかり者」というのが一番しっくり来る気がする。
周りから必ずと言っていいほど言われることだし、自分でもそうなんだろうと思う。
小学校の頃から学級委員とか班長とか、そういった類のものはよく引き受けてきた。
それに、その辺のいい加減な人より責任感はあるつもりだ。
そのおかげか、女の子からはやたら好かれるというか慕われる。
代わりに、男子から告白とかは過去一回も受けたことがない。
自分が特別可愛いわけではないのは重々承知してるし(一般中学生並みのおしゃれはしてるけど)、「しっかり者」というのは男子にとって憧れの対象になりにくいらしい。少なくとも、私の周りの男子はそうだった。
だから、屋上でご飯を食べてるときの、友だちの言った言葉が私には理解できなかった。

「…は?」
「だから、白石がのこと好きだって噂があるんやって」
「だって、白石って、うちのクラスの白石でしょ?」

白石は強豪テニス部の部長で、容姿は整ってるし頭もいい。
当然女の子の注目は集まるわけで。
実際私も白石のことはかっこいいな、とは思っている。でも、それだけ。
ほかの女の子たちのように騒いだりしないし、私と仲のいい友達もあまりそういうことをしない子ばかりだった。
クラスが一緒になったのも今年が初めてだし、席も遠くて、話したことも少ない。
その白石が、どうして私を?そう思うのは当然の疑問のはず。

「まあ、ただの噂やけど」
「完全なただの噂、でしょ。だって私、白石と関わりないし」
「…でも、隣のクラスのみいちゃんさ、先週白石に告白したんだって」
「へぇ」
「そしたら、好きな人がいるからって断られて。じゃあ好きな人って誰?って聞いたらさんって言ったって」
「…可能性その1」

何とも信じがたいその噂を否定するものはないものか、と私なりにいろいろ考えてみた。
そして3つの可能性を考え出した。そのうちの1つが、

「白石が好きなのは他の人で、噂が流れるうちに好きなのが私になってしまった」
「まあ、ありえなくはないね」
「可能性その2。白石はみいちゃんと付き合いたくなくて適当に断るために私を好きなことにした」
「それはなさそうやね」
「最後の可能性。みいちゃんが嘘吐いてる」
「そりゃないでしょ。嘘吐いてもみいちゃん何の得もないやん」
「…まあそうなんだけど。あ、あとみいちゃんがフラれたこと自体、いや告白すらしてないのに噂が勝手に流れた」
「それもないわ」

友だちは私のお弁当のタコさんウィンナーを勝手に食べながら言った。
楽しみにしてたのに、と思ったけど食べられてしまった後に言ってもしょうがない。

「私みいちゃんが白石に告白してるとこ見たし」
「わ、悪趣味」
「たまたま見ちゃっただけ」
「…あれ、それじゃ白石が何て言ったか知ってるんじゃないの?」
「や、2階の窓から見ただけで声聞こえなかったから。でもあの雰囲気は絶対告白。しかもみいちゃん泣いてたし」
「じゃあ一番あり得るのは可能性その1かあ…」

空になったお弁当箱を鞄にしまって、空を見上げて伸びをした。
今日は快晴、いい天気。
こんな日に、こんなおかしな噂が流れるなんて、何だか変な感じだ。

「まあ、噂が本当ってこともあり得るから」
「…だからそれないって。何で白石が私のこと好きになるのよ」
「恋とは突然訪れるものよ」

ふふ、と少し気味の悪い笑いを浮かべながら友だちは立ち上がって、「トイレ行って来る」と言って屋上のドアを開けた。

白石が私のこと好き、ねえ。

本当にそうだったとして、嬉しくないとは言わないけど、困るという感情のほうが勝ってしまう。
だって私にとって白石は好きでも嫌いでもない、はっきり言ってどうでもいい存在なのだ。
なんでもない、ちょっとかっこいい、一言二言しか会話したことのないクラスメイト。
それだけならまあ喜べるのだが、彼は女子から人気があるのだ。
こんな噂が流れただけでも少し気まずいのに、本当だったとしたら女子から嫉妬やらなにやらを受けることになるのは目に見えてる。
私が白石を好きだったら嫉妬なんてドンと来い好きな人に好かれるならそのくらい屁でもないわ!と言えるかもしれないけど、さっきから言ってるように私は白石のことなんてどうでもよくて、その人のせいで妬み嫉みを受けるのは真っ平ごめんだ。

「…やっぱりあり得ないよ」

そう呟いて、もう一度空を見上げた。



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09.10.01